1 パワハラ防止法の改正

 現在、中小企業においては、慢性的な人手不足を背景として、採用人材のミスマッチが生じ、いわゆるハラスメント事案を中心とした雇用に関するトラブルが増えてきています。

 2019年5月29日には、パワーハラスメント対策を事業主の義務とする労働施策総合推進法[i](いわゆる「パワハラ防止法」)が改正されました。

 中小企業については2022年4月1日まで同法の施行が延期され、それまでの間は努力義務に留まるとされたものの[ii]、ハラスメントに対する社会の関心は高く、現実にハラスメント事案が自社で発生した場合には、社内の規律を維持し、また、レピュテーションリスクを避ける観点からも、迅速かつ適切に対応をすることが求められています。

 今回のコラムでは、改正法及び指針のポイント、最近、注目されている第三者型ハラスメント、そして企業に求められるリスク管理について、概要を解説いたします。

2 改正法及び指針のポイント

 まず、改正法では、職場におけるパワーハラスメントを「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」と定義されました。そのうえで、改正法を前提に作成された指針[iii]では、以下のとおり、各要件の判断要素の意義と該当例を示しています 。

また、事業主に義務付けられる雇用管理上の措置義務については、概要、以下の内容が示されています。

 加えて、事業主には、労働者が職場におけるパワーハラスメントについての相談を行ったことや雇用管理上の措置に協力して事実を述べたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いをすることが法律上禁止されます。

 冒頭述べたとおり、中小企業に対しては、同法の施行が延期されているものの、自社でハラスメント事案が発生した場合に備え、指針の内容を踏まえた体制整備を事前に進めておくことが大切です。

3 最近、注目をされている第三者型ハラスメント

 なお、最近、注目をされているものとして、いわゆる第三者型ハラスメント(所属する組織外の第三者に対するハラスメント、あるいは第三者から受けたハラスメント)が挙げられます。第三者に対するハラスメントの例としては、たとえば、自社の従業員が取引先の社員に対し、罵倒等のパワーハラスメントを行ってしまった場合が挙げられ、取引先の社員から加害者である自社の従業員だけでなく、事業主(企業)もまた使用者責任を追及され、損害賠償責任を負うリスクがあります。

 第三者型ハラスメントについては、今回の改正では規制の対象とはならなかったものの、雇用管理上の配慮が求められる旨の附帯決議がなされており、リスクマネジメントの観点からは、職場におけるハラスメント対策だけではなく、職場以外の第三者に対する、あるいは、第三者からのハラスメントをも想定した対応が有益です。

4 企業に求められるリスク管理

 現在、ハラスメント事案に適切に対応することは、各企業に共通する重要な経営課題です。

 パワーハラスメントやセクシャルハラスメントだけではなく、マタニティハラスメントやカスタマーハラスメントなど、日々、新たなハラスメント概念も発生しており、多様化するハラスメントリスクに対し備えることが求められています。

 関連規程の整備や研修の実施、相談窓口の設置等、ハラスメント対応のための体制整備を速やかに行うとともに、ハラスメント事案では、初期的な対応を誤った場合に、いわゆる「炎上」によるレピュテーションリスクなどが顕在化することも多く、実務的にはハラスメント問題発生後、初動を迅速かつ適切に行うことも重要です。

 そして、ハラスメント問題が訴訟に発展した場合には、事業主には金銭的・時間的負担だけでなく、レピュテーションの低下や取引先からの信用失墜(失注)、さらには職場環境の悪化に起因する人材不足といった様々な問題に発展する可能性も否定できません。企業においては、これらのリスクを想定したうえで、日頃から体制整備等をすることが求められています。

(このコラムの内容は、令和2年3月現在の法令等を前提にしております)。

(執筆)五常総合法律事務所 弁護士 持田 大輔

[i]正式名称は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律を改正する法律 」。

[ii] なお、大企業については本年6月1日から施行される予定です。

[iii] 正式名称は「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(厚生労働省告示第5号)。

MKT-2020-500

ハラスメントは自社には関係ない、その認識が大きな問題に。

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