ガバナンスは、組織が健全な運営を行っていく上で必要となる仕組みづくりです。

企業ではコーポレートガバナンスともいわれており、近年はその重要性がより高まっているといえます。しかし実際には、「中小企業には関係ないのでは?」と思っていたり、「そもそも、どう取り組めばいいのか分からない」と悩んでいたりする経営者も多いのではないでしょうか。

ここでは、ガバナンスに関する基本的な知識を踏まえ、コンプライアンスなどとの違いのほか、中小企業においてガバナンスが重要な理由、機能していない場合に起きるリスク、強化に取り組む方法について解説します。

ガバナンスとは、健全な企業経営を目指すための仕組みづくり

ガバナンス(governance)とは、日本語で「統治・支配・管理」を意味する言葉です。特に、企業におけるガバナンスは「コーポレートガバナンス」といわれ、不祥事を起こさずに健全な経営を目指すための仕組みづくりを指します。具体的な施策としては、社外取締役を設置して監視する仕組みを増やしたり、社内の指示系統および役割を明確にしたりすることなどが挙げられます。

 

企業が取引先や従業員などのステークホルダー(利害関係者)と信頼関係を築いていく上で、ガバナンスを強化することは非常に重要です。そのため、大企業だけではなく中小企業や非上場企業などにも必要な取り組みであるといえます。

なお、ガバナンスを理解する上で知っておきたい関連用語は次のとおりです。

 

<主なガバナンス関連用語>

・ガバナンス強化:社外取締役や監査役の設置、企業理念の策定など、管理・監視体制を整えること

・ガバナンス効果:企業内の不祥事や不正な行為を抑えるなど、ガバナンス強化によりもたらされる効果のこと

・ガバナンスプロセス:企業において、意思決定や指揮、管理、監視を行うために実施する手順や手続きのこと

・ガバナンスモデル:企業がガバナンスを実行するために設計した枠組みおよびアプローチのこと

・コーポレートガバナンス・コード:金融庁と東京証券取引所が中心に作成した、コーポレートガバナンスを実現するための5つの基本原則のこと

ガバナンスと似ている用語との違い

ガバナンスと似ている用語に「内部統制」「リスクマネジメント」「コンプライアンス」があります。適切なガバナンスの構築のためには、それぞれが欠かせません。ガバナンスと3つの用語の意味の違いを確認しておきましょう。

■ガバナンスと似ている用語の関係

内部統制とガバナンスの違い

内部統制とは、企業が不祥事や不正を防ぎつつ、健全かつ効率的に運営していくために社内の体制を構築することです。もし不祥事が起こってしまうと、企業にとっては大きなダメージとなります。そういった事態を防ぐために、内部統制のシステムを整えておく必要があるのです。

内部統制とガバナンスは、どちらも健全な経営を実行するための取り組みですが、内部統制が経営層から従業員を監視するのに対し、ガバナンスは社内外から企業全体や経営層を監視するという違いがあります。内部統制は、ガバナンスを推進し、強化していく上で大切な要素のひとつとして捉えることもできます。

リスクマネジメントとガバナンスの違い

リスクマネジメントとは、経営において発生しうるリスクを事前に把握・想定し、対応策を構築しておくプロセスのことです。近年は多くの企業で業務を中心にビジネス全体が複雑化しており、それに伴ってリスクも多様化しています。適切なリスクマネジメントを怠ると、不祥事やトラブルによる損失が大きくなってしまうかもしれません。

リスクマネジメントは、内部統制と同じく、ガバナンスの枠組みに入る要素で、ガバナンスを強化していく上で大切な機能のひとつです。内部統制は主に社内に起因するリスクに対しての防止体制であるのに対し、リスクマネジメントは社内だけでなく社外のリスクにも対策を立てるという違いがあります。

コンプライアンスとガバナンスの違い

コンプライアンス(compliance)とは、日本語で「法令遵守」を意味します。ただし、一般的にコンプライアンスといった際に遵守するのは法令だけではなく、CSR(企業の社会的責任)や社会的な規範、それらを考慮して作成された社内規則も含まれます。一方ガバナンスは、企業がみずから統制、管理して健全な企業経営を目指す仕組みのことです。

ガバナンスを強化すれば、会社がコンプライアンスを遵守することにつながります。そのため、両者は密接な関係があります。コンプライアンスはリスクマネジメントにおいても内部統制においても重要な要素です。コンプライアンス推進体制を強化することで、結果として健全な企業経営を行うための仕組みであるガバナンスの強化にもつながるのです。

中小企業においてガバナンスが重要な理由

ガバナンスは大企業や上場している企業だけに必要な取り組みではありません。近年では中小企業や非上場企業にもガバナンスが求められています。中小企業において、なぜガバナンスが求められるのか、その理由について3つのポイントに分けて解説します。

企業価値が向上するため

ガバナンスの強化に取り組むことで企業価値の向上が期待できます。そのため、中小企業にもガバナンスは重要です。

ガバナンスの強化は、不祥事を防ぎつつ健全な経営を推進することにつながります。また、取引先や株主などステークホルダーからの信頼度が高まり、社外から優良企業であると認められる可能性が高まります。その結果として、企業価値の向上につながるのです。さらに、企業価値の向上によって金融機関や投資家からの信用が高まり、資金調達がしやすくなることも期待できます。

資金調達方法には、融資やエクイティ・ファイナンスがあります。エクイティ・ファイナンスとは、企業の事業や取り組み、将来性などに対する評価のもと、株式を発行する対価として出資者から資金の提供を受けることです。エクイティ・ファイナンスの活用によって企業の成長につながる可能性が広がるため、企業価値の向上が見込めるガバナンスは重要といえるでしょう。

内部不正を防止するため

ガバナンスの強化に取り組むことで、企業における内部不正の防止が可能となります。

ガバナンスの強化は、企業の内部統制やリスク管理の体制強化に結びつき、粉飾会計や不正会計のリスクを未然に防ぐことが可能です。また、社外取締役や監査役が経営者を監視する体制を整えれば、経営陣が私的な利益を追求したり、不正な利益を得たりすることを防ぐ効果も期待できます。

企業の信頼性を保つためにも、内部不正の防止は極めて重要であり、ガバナンスの強化はそのための基本的な手段といえるでしょう。

優秀な人材を獲得できる可能性が高まるため

優秀な人材を獲得できる可能性が高まるため、中小企業にもガバナンスは重要です。

先述のとおりガバナンスの強化により社外からの信用や評価が高まり、魅力的な企業として周知され、結果として優秀な人材を獲得できる可能性が高まります。

ガバナンスが機能していないと起きるリスク

ガバナンスが機能しないと、どのような問題が生じるのでしょうか。起こりうるリスクを3つピックアップして解説します。

社会的な信用を失う

ガバナンスが機能していない企業は、業務のプロセスにおいて不祥事や不正が発生するリスクが高くなります。

もし不祥事が発生してしまうと、社会的信用を失うことにつながります。場合によっては「投資家や消費者から大きな批判が起こる」「経営不振となり、倒産に陥る」といった事態に発展するかもしれません。

グローバル化に対応できない

近年は、多くの企業が海外への事業展開や市場拡大など、グローバル化を進めています。しかし、ガバナンスが機能していないと、経営の健全性や業務の効率化を確保できず、グローバル化に対応できない可能性があります。

海外での事業展開において、企業は海外のステークホルダーへの対応のほか、価値観や文化が異なる中で経営を行っていくための柔軟な対応や適応力が必要です。ガバナンスが機能していないと、海外のステークホルダーからの評価も低くなる可能性があります。結果として、グローバル化のチャンスを逃し、経営状態が悪化してしまう可能性があるでしょう。

企業が成長を遂げる機会を失う

ガバナンスが機能していないと、企業が継続的な成長を遂げていく機会を失うことになります。なぜなら、「不祥事や不正が起こる確率が高まる」「社会的な批判が多くなる」「企業経営が円滑、健全に進まない」「ステークホルダーに対する利益を生み出さない」といったリスクを抱えることになるからです。ガバナンスの構築は、企業が成長していく上で必要不可欠な取り組みであるといえます。

中小企業がガバナンス強化に取り組む方法

中小企業がガバナンス強化に取り組むためには、どうすればいいのでしょうか。適切な体制を構築し、強化していくための方法を5つ紹介します。

経営者の意識改革

ガバナンス強化に重要なこととして、経営者の意識改革が挙げられます。中小企業で起こりやすいのが、経営者のみの判断で意思決定される組織になっているケースです。

ガバナンスを重視しつつ企業経営の持続性を高めるためには、経営者自身がこれまでの行動や姿勢について振り返る、意思決定に内部や外部の意見を取り入れるなど、意識を変えていく必要があります。

役員を含め全従業員へのガバナンス教育

役員を含むすべての従業員に対して、ガバナンスに対する理解を深めていくための教育を行いましょう。定期的に社内教育の機会を設けて、自社におけるガバナンスの方向性を浸透させることが効果的です。業務を遂行する際の判断基準を明確にすれば、不透明なルールによる行動を抑止することにつながります。

「ガバナンスについて改めて理解しなおす機会を設ける」など、企業全体でガバナンスに対する意識を高めていくことが重要です。

社内体制の整理と内部統制の構築

社内規定を見直すなど、社内体制を整理し、ガバナンスに必要な内部統制を構築します。

社内体制の整理には時間やコストがかかりますが、スモールスタートを意識し、一つひとつの課題に向き合っていくことが重要です。そして、ガバナンスの強化には、内部統制の構築も必要です。内部統制が機能していないと、社内・社外に対して透明性の高い情報を開示することができません。社内で順守すべきルールを定めた上で、ルールに従って業務が遂行されているかどうか監視したり、指導したりする体制を構築しましょう。そのためには、内部の監査部門や管理部門、取締役会など、各部門の役割を明確にしておくことが求められます。

第三者による監視体制の構築

第三者が独立性をもって客観的に評価できる監視体制を構築することも、ガバナンス強化にとって有効な取り組みです。具体的には、社外取締役や社外監査役、監査委員会などを設置する施策が挙げられます。

外部の人を取締役や監査役に置くことで、第三者的な視点から経営を監視することが可能です。社内だけでは気づくことができないような、業務プロセスの課題や不透明なルールを発見しやすくなります。経営陣による不正や不祥事にも対処しやすくなるでしょう。

専門家や支援機関などへの相談

必要に応じて、ガバナンスの構築や強化に精通した専門家や支援機関に相談しながら進めることも有効です。具体的には、下記のような支援機関や相談窓口が挙げられます。

■ガバナンス強化に関する主な相談先

 

相談内容

主な相談先

経営理念やビジョン、経営戦略の策定、経営体制の構築

・公認会計士
・中小企業診断士
・弁護士
・経営コンサルタント
・地域の金融機関

人材、労務

・社会保険労務士
・弁護士

会計、財務

・地域の金融機関
・公認会計士
・税理士
・中小企業診断士
・認定経営革新等支援機関

法務、知的財産

・弁護士
・弁理士

DX推進、情報セキュリティ

・ITベンダー

もし「相談できる支援機関が身近にない」「どの支援機関に相談すればよいかわからない」という場合は、商工会議所や商工会、全国中小企業団体中央会、中小企業基盤整備機構などに相談することも検討してみましょう。

出典:「中小エクイティ・ファイナンス活用に向けたガバナンス・ガイダンス(概要版)」「認定経営革新等支援機関」中小企業庁

監修

三浦 高(みうら たかし)

中小企業診断士、1級販売士、起業コンサルタント®、ドリームゲートアドバイザー、産業能率大学兼任教員。V-Spirits総合研究所株式会社代表取締役。これまで創業補助金検査員・審査員を従事。V-Spiritsでは起業支援担当として年間約30件の起業・開業をサポートし、資金調達担当としてクライアントの補助金や融資の獲得を支援している。各種補助金と融資の累計獲得件数は各々350件を超える。

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