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お客さまと保険会社とをつなぐ、大切な役割を果たしている保険代理店。そのなかでも保険代理業を専業とし、保険商品のみならず、お客さまが直面し得るさまざまなリスクのことも熟知し、ビジネスパートナーとしてサポートするのが、「プロ代理店」と呼ばれる方たちです。
本連載では、プロ代理店がお客さまの課題をどのように解決しているのか、その実例とともに紹介します。
第四回となる今回は、岡山県倉敷市にあるMOMOそうごう保険株式会社(以下、MOMO) 代表取締役 福田憲児さんと専務取締役 吉田覚さん。2009年創業のMOMOは特に建設業界に強みを持っています。現場での事故をはじめとして、他業界よりも労働災害が多い傾向にある建設業界ならではのリスクや事例、さらには今後の展望を伺いました。
「お客さまに必要な保険」を追求し伝えることが、代理店の社会貢献
――福田さんはインテリア、吉田さんはアパレルと保険とは異なる業界のご出身です。はじめに、保険代理業へ転職した経緯を教えてください。
福田氏: 父が保険代理店を営んでいて、跡を継ごうと考えたのがきっかけです。AIU(*1)の代理店だったため、数ある保険会社の中から自然とAIUを選んで、代理店研修生(*2)として入社し、2年勤務しました。その後、起業するまでの約2年、父の会社で働きながら実務を学びました。
吉田氏: いつか地元に戻って自分で事業をやりたいという思いをずっと持っていました。転職サイトでたまたまAIUを見つけて、最長5年間の研修期間を経た後、代理店経営者として独立できることに魅力を感じ入社しました。
*1 AIU保険会社。2018年に富士火災と統合し現在のAIG損害保険となる。
*2 AIG損保が1964年に業界の先陣を切って開発したプロ代理店(プロフェッショナル・エージェント)の養成制度(ICA社員制度)で、研修生は最長5年間のトレーニングと実務経験により必要な知識と営業力を身につけます。本制度開始以来、数千のプロ代理店を輩出しています。詳しくはこちらをご覧ください。
――おふたりは約2年、同じ環境で仕事をしていたそうですね。当時の互いの印象や記憶に残るエピソードがあれば伺いたいです。
吉田氏: 福田は私より1歳上で、入社時期が1ヶ月早かったこともあり、兄のような存在でした。独立することが決まっていたからか、強い使命感のようなものを感じました。それもあって、競争相手というより相談相手であり、効果的な営業ツールや提案方法があれば共有していましたね。共に切磋琢磨していきたい仲間といえる存在でした。
福田氏: 吉田は営業成績がずば抜けて良かったです。勉強・研究熱心で負けず嫌い。当時ふたりでいろいろな話をしましたが、お客さまに関する知識が豊富なだけでなく、その深さにも驚かされたものです。人の何倍も努力して数字を積み上げている姿を見て、尊敬の念を抱いていました。
――そうやって互いの存在が良い刺激になっていたおふたりが、2009年から二人三脚でMOMOさんを経営するようになったのは自然な流れのように感じました。創業当時から掲げている経営理念「お客さまに必要な保険を追求し伝えていく」に込めた想いを伺いたいです。
福田氏: すべての企業は社会に貢献するために存在し、それができない企業は淘汰されると思います。では、私たち保険代理業は社会に対しどんな貢献ができるのか──起業当時、考え尽くして着地したのが「お客様に必要な保険を追求し伝えていくこと」という理念でした。
弊社で保険に加入していただくことがゴールではなく、なぜその保険が必要であるかを追求してお伝えすることが、弊社の社会的役割だと考えます。また、弊社で保険に加入していただける場合でも、単に保険に加入するのではなく、お客さまにとって本当に必要な保険を理解した上で加入いただいて、万一のときにお役に立てたらと考えています。お客さまの企業経営にとって必要な保険代理店として、お客さまをお守りする存在でありたいという想いが根本にあります。
――たとえ同じ業界であってもお客さまは一社一社、異なるリスクや悩みを抱えておられるからこそ、聞く姿勢を大事にされているのを感じます。お客さまとお話をするとき、どんなことを意識していますか。
吉田氏: お客さまの考えや思い、情報を引き出すような会話を心がけています。お悩みや教えていただいた事柄をもとに、お客さまにとって適切な方法は何か考え、調べて、提案するのが私たちの仕事です。ご提示する内容はお客さまによって異なりますが、場合によっては保険以外の方法を含むこともあります。お客さまに「このような選択肢だってある」と知っていただき、最適なものを選択していただくことが大事だと考えています。
――特に、お客さまが想定していなかった選択肢を提示できると、お客さまにとって大きな支えになりそうです。
吉田氏:私たち代理店はお客さまに対して、そのときに自分たちができることを精一杯すべきだと考えています。お客さまのことをいろいろとお聞きし、教えていただくのは私たちの側です。ただ、あえてネガティブな言い方をするならば、最後に選択するのはお客さまであり、私たちにできることは選択肢を提示することまでです。結果として、お客さまが望まれるそれぞれの解決には必ずしも至らないかもしれません。だからこそ、お客さまのことを一緒に徹底的に考えた上で、誠意を込めたご提案をしたいんです。
――それこそお客さまを本気で思う向き合い方だと思います。最近、御社には営業の新入社員さんが入ったと伺いましたが、そういった対顧客に関する教育はどのような形でされているのでしょうか。
福田氏: 13期目(2022年)にして初めて新しいメンバーを採用したこともあり、教育についてはまだ手探りの状態です。「MOMOが大切にしている5つのこと」としてクレド*3を作り、社内に浸透させています。このクレドは2年ほど前に私が下書きを作っていたのですが、2022年夏に吉田を含めた初期メンバーに共有して、アイデアを出し合いながら作っていきました。私が最初に考えた原型はほぼ残っていませんが(笑)、結果的に良いものができたと思っています。
*3 「MOMOが大切にしている5つのこと」として「感謝の気持ちで接する/相手の立場を理解しようと努める/目的を意識する/学びを怠らずに伝える/仕事を通して成長し幸せに生きる」といった内容がまとめられています。
リスクを前にした経営者の不安を取り除き、本業に全力を注いでもらう
――そういった行動指針をもとにみなさんが日々向き合っている、お客さまの具体的なリスク事例について教えてください。
吉田氏: 業務中に転落して背骨を粉砕骨折する大事故に遭い、現在も治療中の従業員を抱える経営者(A社長)の事例をお話しします。
A社長にとって初めての経験で、当時は大変動揺しておられて、大ケガをした従業員にどう対応すればいいかと相談いただきました。治療段階で見舞金を渡すべきか、いくらほど渡すといいのか、後遺障害が残った場合に裁判に発展するだろうかなど、いろいろなことに頭を悩ませておられました。そんなA社長にまずは落ち着いてくださいとお伝えし、後遺障害が認定されるまでは、従業員が不安に感じていることを聞いたり、身体の回復をサポートしたりすることを最優先でしましょうとお話ししました。
――リスクに直面したとき、いきなりお金で解決しようとするのではなく、まずは本人の気持ちに丁寧に寄り添いましょう、と。
吉田氏: これまでも従業員が事故で後遺障害を負った事例に対応してきましたが、どの経営者にも「今やれることを精一杯やりましょう。変に取り繕うことなく、真っ直ぐ向き合うことが大切です」と一貫して伝えてきました。先ほどの事例も同様です。「結果として後遺障害が残った場合ももちろん補償可能です。そこに社長の想いをプラスしてくださっても結構です。ただ、たとえ誠意を持って向き合っても従業員が不満に感じることはあります。その後、訴訟になった場合でも、私たちは精一杯対応致しますので安心してください」と伝えました。
万一の際、大変な出来事から目を逸らさず勇気を持って向き合うことで、会社はより良い方向へと進んでいくものであり、保険=すべての課題を解決してくれる魔法ではないことも知っていただくよう努めています。
――A社長としては気が気でない状況だったと思いますが、かなり安心していたのではないでしょうか。
吉田氏: 「お金の準備を優先的にすべきかどうか迷っていたけれど、吉田さんの話を聞いて、自分の考えていたタイミングは間違ってなかったと気づけたよ」と言っていただきました。従業員のケガへの対応に奔走し、頭の中がそればかりで占められてしまうと、社長業、言い換えると会社経営に支障が生じることもあります。社長が心の平穏をできるだけ取り戻し、自身の仕事に集中できる状態になれば、保険代理店として微力ながらお役に立てたかなと思えます。
社長が不安に感じている場合「一緒に労働基準監督署へ話を聞きにいきましょう」といった提案をすることもあります。それは恥ずかしいことでも何でもありません。経営者の心配の芽を取り除き、本来の業務に注力してもらうために私たちができることは何だろう? とそのときどきで考え、行動に移していくことが何より大事だと思っています。
――保険につながるリスクの話は、顧問税理士や社労士に相談しても、その道の専門家ではないため、経営者が求めている解は得られないと思います。保険業だからこそできるコミュニケーションなのでしょうね。
吉田氏: そうだと思います。自社の企業責任を問われるような事故だとなおさら、同業他社に「御社ではどうしていますか?」なんて話もしづらいかと。保険代理業をしていると、いろいろなお客さまと接してきているので、参考になりそうな他社事例を取り上げて、ひとつの解決方法として提示することもできます。
福田氏: 吉田の話に補足すると、これまで多くのお客さまと出会い、私たちのでき得る限りでご支援してきました。小さな組織ではありますが、メンバーそれぞれが向き合ってきたお客さま事例が知見やノウハウとなり、新たなお客さまをバックアップするための武器になっていると思います。
吉田氏: 私たちがたくさんの事例を積み上げてこられたのは、元はというとAIG損保のおかげです。研修生時代、法人営業方法やマインドを学ばせてもらったおかげで、創業からずっと新規のお客さまと接することができていて、私たちも常に新しいことを勉強させてもらっていますから。
AIG損保と二人三脚で自己研鑽し、お客さまのお役に立ちたい
――AIG損保のお話が出た流れで伺いたいのですが、研修生時代に学んで今も生きている考え方や仕事の方法があれば教えてください。
福田氏: AIG損保が得意とする法人営業に特化した手法やノウハウは、創業後もずっと実践しています。それこそ15年くらい前に学んだことですが、普遍的な内容です。当時受けたあの研修なくして今の私たちはないと思っています。
吉田氏: 自分の頭でゼロから考えて、待ちの姿勢ではなく主体的に動くことの大切さを学びました。高い目標を現実化するために、地域・業界・業種・商品・アプローチ法含め、総合的に考えていく姿勢が自然と身についていました。ある程度のびのびと営業できる場を与えてもらった分、自分で常に考える・発想することが自然と身についた経験は大きかったですね。
――先ほど紹介いただいた事例もそうですが、御社には建設業界のお客さまが多いと伺っています。研修生時代、建設業界に特化した営業手法を学ぶ機会があったのでしょうか。
福田氏: そうですね。AIG損保自体、建設業界に強みを持っています。お客さまとの最初の接点として傷害保険から始まり、賠償責任保険、自動車保険などの契約にもつなげていく営業手法を私たちも研修生時代に学び、独立後もそれを実践していたら、建設業界のお客さまとのご縁がたくさんできていました。これまでやってきたことは他業界・業種のお客さまにも横展開できています。
――御社やAIG損保の代理店が高い専門性をもってお客さまと向き合うプロフェッショナルであると、改めて感じるエピソードです。現在のAIG損保との関わり方を教えてください。
吉田氏: AIG損保には当社のような代理店に、商品情報の提供や制度のレクチャー、販売・経営に関わる助言などを通じて、代理店の営業活動を支援する社員(ソリシター)がいます。我々はソリシターと密に関わっていて、営業面はもちろん、経営・戦略・人材に関してもアドバイスをもらっています。「相変わらずお節介だな」と思う瞬間もありますが(笑)、そのファミリーライクなスタンスはありがたいですし、ビジネスパートナーとしての頼もしさも感じています。
福田氏: 代理店の経営に対してそこまで目配り、気配りをする風土は純粋にすごいなと思います。当社の経営計画もAIG損保と一緒に作っています。起業して数年間は自分たちで作った経営計画に沿って動いていたのですが、AIG損保の作成した経営計画が非常に濃い内容だと感じ、今はそれを弊社の経営計画書としても使用しています。当社とAIG損保と合同で開く経営計画発表会に、AIG損保の社員を招くのも恒例行事になりました。そうやって伴走してもらえるおかげで、日々自己研鑽できていると感じますし、得た知見をお客さまにも還元していきたいです。
保険業界をより良い業界にしていきたい
――ここからは今後の展望について伺いたいのですが、まずはプロ代理店としてどんな仕事をしていきたいか教えてください。
福田氏: 今は1〜2年先に何が起こっているかも見えづらい、不安定かつ不確実な時代です。将来を予測したり、長期的な視野で物事を考えたりするのが難しいとも言えます。ただ、コロナ下の3年、保険代理業は堅調な成長を続けていたと感じています。建設業のお客さまが多い当社も例外ではありませんでした。とは言っても、先のことが見えづらい今、地に足をつけた経営を続けるには、岡山県内全域を対象として新規営業を疎かにすることなく、新しいお客さまとの出会いも大事にしていくことが欠かせないと考えています。
吉田氏: お客さま、社員、その他関係者の方々に対して感謝の思いを忘れず、会社としては創業当初から変わらない、温かい雰囲気を保った代理店としてあり続けると共に、社員一人ひとりが成長していけたら最高ですね。
――温かい雰囲気は社名の一部である「MOMO」からも感じます。社名の由来は岡山の「桃太郎」とも関係しているのでしょうか。
福田氏: ありがとうございます。響きが良い・覚えてもらいやすいという理由で名付けました。岡山=桃、桃太郎と連想されるかもしれませんが、特に関係ないんです(笑)。お客さまに「MOMOさん」と呼んでいただきたいなという意図もありました。この取材中も最初の方で呼んでいただいていました。
――親しみやすい印象のネーミングなので、自然と口にしていたようです(笑)。最後に、保険代理業としてどのような社会貢献をしていきたいか、今後の展望を教えてください。
福田氏: 保険業界に入った20年近く前から「いつかは次世代にいい形でバトンを渡したい」という思いがあります。保険業界に身を置く者として、昔から続いている代理店など先人の功績に感謝しつつ、新しいものを取り入れて、次の世代につなげていきたいなと。業界をより良くしていくことを目指し、今後も個々のお客さまと向き合って、お手伝いを続けていきたいです。
福田憲児(写真右)
1976年生まれ
岡山県倉敷市出身。2007年に実父が営む福田総合保険事務所へ入社、2009年にMOMOそうごう保険株式会社を設立し、代表取締役就任。
吉田覚(写真左)
1977年生まれ
岡山県岡山市出身。2009年にMOMOそうごう保険株式会社に入社し、専務取締役就任。経営を担う福田氏に対し、吉田氏が実務を担う二人三脚経営を続けている。
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