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有給休暇とは賃金が発生する休暇のこと -
有給休暇の基本ルールとは? -
中小企業が有給休暇の取得率向上に取り組むメリット
年次有給休暇(以下、有給休暇)は労働基準法で付与することが定められた、労働者の権利です。しかし、取得するための申請方法については法で定められているわけではなく、会社が独自に決めているのが現状です。そのため、会社によっては社員が「申請方法がわからなくて休暇が取りづらい」と感じているかもしれません。
ここでは、有給休暇についての基本ルールや、中小企業が有給休暇の取得率向上に取り組むメリットについて解説します。
有給休暇とは賃金が発生する休暇のこと
年次有給休暇とは、一定期間勤続した労働者に対して、心身の疲労を回復しゆとりある生活を保障するために付与する休暇のことです。労働基準法で付与することが定められており、労働者が取得した日にはあらかじめ定めた方法に従って計算した1日あたりの賃金を支払う必要があります。
厚生労働省が公表している「令和5年就労条件総合調査の概況」の「年次有給休暇の取得状況」によると、2022年の有給休暇の平均取得率は62.1%となっています。経営側としては、社員の権利への配慮やワーク・ライフ・バランスの実現のためにも、有給休暇はきちんと取得してほしいものです。
出典:「令和5年就労条件総合調査の概況」の「年次有給休暇の取得状況」(厚生労働省)
社員の有給休暇の取得率向上や、事業の円滑な運営のために、事前申請のルールはあらかじめ共有しておきましょう。
有給の基本ルールとは?
まずは、有給休暇の基本的なルールについて確認しておきましょう。ここでは、要件や付与日数、時季変更権のほか、事前申請について解説します。
有給休暇の要件と付与日数
有給休暇は、労働基準法によって労働者が一定の条件を満たすことで付与されるものと定められています。
厚生労働省が発行している「有給休暇ハンドブック」によれば、「雇入れの日から6ヵ月間継続勤務し、その間の全労働日の8割以上出勤した労働者に対して最低10日を付与しなければなりません」となっています。これは正社員に限ったことではなく、アルバイトやパートなどの雇用形態にかかわらず付与しなければなりません。
一度付与された日から1年ごとに有給休暇が発生し、勤務年数が増えるごとに付与される日数が増え、最終的には年に20日となります。
また、有給休暇の取得は労働者の権利であるため、原則として会社の承認や許可は必要ありません。そのため、社員から「◯月◯日に休暇を取りたい」という申し出があれば、指定日に付与するのが基本的なルールです。
有給休暇が付与される要件と、付与日数は下記のとおりです。
<有給休暇が付与される要件>
雇入れの日から6ヵ月間継続勤務 + 全労働日の8割以上出勤 = 有給休暇発生
■通常の労働者の付与日数
■週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の労働者の付与日数
出典:「年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています」(厚生労働省)
有給休暇の時季指定義務と時季変更権
有給休暇の時季指定義務とは、使用者(経営者)が労働者に、有給休暇の取得を促すことを義務化したもので、労働基準法39条第7項、8項にて規定されています。具体的には、年次有給休暇の付与日数が10日以上である労働者に対して、基準日から1年以内に取得した日数の合計が、年5日に不足する場合、労働者の意見を尊重しつつ、取得時季を指定するというものです。
一方で有給休暇の時季変更権とは、労働者が申請した有給休暇の取得日を、使用者が変更できる権利のことです。時季変更権は労働基準法第39条第5項に規定されており、事業の正常な運営を妨げる場合にのみ行使できます。
ただし、時季変更権の行使には条件があり、日常的な人手不足では不十分で、会社の規模、事業内容、労働者の作業内容、代替要員の確保可能性などを総合的に考慮し、本当に事業運営が困難になる場合に限られます。
可能な限り労働者が有給休暇を取得できるよう配慮することが使用者の義務となっているので、代わりの人員の調整や、業務を別の日にずらすなどの調整をする必要があります。それでも運営が困難な場合に、時季変更権の行使が認められるでしょう。
有給休暇の時季指定義務については、下記の記事をご覧ください。
有給休暇取得の事前申請
有給休暇取得の事前申請とは、労働者が有給休暇を取得する際に、一定期間、前もって会社に届け出るルールのことです。しかし、法律で「事前申請は何日前でなければならない」と決まっているわけではありません。このルールは、労働者の権利を尊重しつつ、会社の円滑な業務運営を両立させることを目的としています。
どのくらい前に申請するかは会社の規模や業種、業務の性質によって異なりますが、一般的に前日から2~3週間前程度の申請期間が設定されるようです。ただし、このルールは合理的で労働者の権利を不当に制限しないものでなければなりません。例えば、1ヵ月前の事前申請を求めるのは過度な要求とみなされる可能性があります。
事前申請制度を導入する際は、代替要員の確保や業務調整に必要な最小限の期間を設定し、社員と十分に共有することや、急病や緊急事態などの場合は事後申請を認めるなど柔軟な対応が大切です。
労働時間の把握義務などについては、下記の記事をご覧ください。
中小企業が有給休暇の取得率向上に取り組むメリット
中小企業が有給休暇を取得しやすくすることで、どのようなメリットが得られるのでしょうか。ここでは取得率向上に取り組む4つのメリットについて紹介します。
福利厚生が充実した企業と認知される
有給休暇の取得率向上に取り組むと、福利厚生が充実している企業と認知されます。福利厚生とは、社員とその家族の生活の質を向上させるために会社が提供する、さまざまな制度やサービスのことで、有給休暇も含まれます。
企業が有給休暇の取得率向上に取り組むと、社員にとって働きやすい環境を提供でき、社員満足度の向上が期待できるでしょう。そして、有給休暇の取得率を公表することで、社外からも福利厚生が充実している企業だと認知されやすくなります。
福利厚生の充実については、下記の記事をご覧ください。
仕事と家庭の両立支援ができる
社員が仕事と家庭を両立しやすくするために、有給休暇の取得率向上を目指すことも有効な手段です。
有給休暇の取得制度を工夫することで、社員は育児や介護、自身の治療など、家庭におけるさまざまなライフイベントに対応することができるようになります。例えば、行使しなかった有給休暇を積み立てて、最長90日間の取得を可能とする制度を設けることで、社員が長期治療や介護休暇に利用できるといった事例があります。
なお、制度だけを整えても有給休暇の取得率向上にはつながりません。企業内での情報共有を進めて、有給休暇を取りやすい雰囲気づくりや職場環境を整えることが大切です。
出典:「企業における仕事と介護の両立支援実践マニュアル」(厚生労働省)
仕事と家庭の両立支援については、下記の記事をご覧ください。
メンタルヘルスケアになる
有給休暇の取得はメンタルヘルスケアにもつながります。社員が定期的に休暇を取得することで、心身のリフレッシュが可能となり、ストレス軽減にもなります。
休暇中にリラックスし、趣味や家族との時間を過ごすことで精神的な疲労回復が期待でき、仕事の生産性向上にも寄与するでしょう。有給休暇の取得率向上を目指す環境づくりは、社員のメンタルヘルスケアに大きな効果をもたらすといえるのです。
職場とメンタルヘルスケアについては、下記の記事をご覧ください。
人材確保につながる
有給休暇の取得率向上に取り組むことで、結果的に人材確保につながります。近年、ワーク・ライフ・バランスを重視する傾向が強まり、休暇の取得しやすさは求職者にとって重要な判断基準となっています。実際に、計画的な有給休暇の付与を実施した保育園の取組みでは、職員のモチベーション向上や業務効率化、人手不足のリスク解消につながりました。
有給休暇が取得しやすいことで、社員の満足度や定着率が向上し、長期的な人材確保につながるというメリットが得られます。さらに、休暇を取得しやすい環境は、会社の魅力として求職者に強くアピールでき、優秀な人材の獲得も期待できるでしょう。有給休暇の取得促進は、会社の競争力向上と持続的な成長を支える重要な施策といえるのです。
人材確保につながる取組みについては、下記の記事をご覧ください。
有給休暇を取得しやすくして福利厚生の充実や人材確保の向上につなげよう
有給休暇の取得は労働者の権利であるため、原則は会社の承認や許可なしで取得が可能です。しかし、同じ日にたくさんの社員が休んだり、前日に有給休暇取得を申請されたりすることが続けば、業務に支障が出ることは十分にありえます。時季変更権はなかなか行使できるものではありませんし、社員側も気を使ってしまって休暇の取得がしにくくなっているかもしれません。
事業運営のバランスを保ち、社員にも気持ち良く休暇を取得してもらうためには、会社側が有給休暇のルールを正しく把握して、取得しやすい運用をすることが大切です。休暇が取得しやすくなることで、社員のワーク・ライフ・バランスが向上し、長期的な就業継続が期待できるほか、会社の魅力度が向上して人材確保にもつながる可能性が広がります。
中小企業にとって、福利厚生の充実によって職場環境を整えることや人材確保はとても重要な課題です。改めて、有給休暇のあり方を確認し、社員のためのルール作りを図ることをおすすめします。
監修
渋田 貴正(しぶた たかまさ)
司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、相続登記をはじめ相続関係手続きや、会社の設立など法人関係の登記に特化している司法書士事務所V-Spiritsの代表。また、V-Spiritsグループの税理士として各種税務相談にも対応している。
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