1 はじめに

企業における人手不足の問題や健康経営の促進を背景に、がんなどをはじめとする病気の治療を行いながら働く就労者を支援したり、健康管理を促進したりする取組みを実施することへの重要性が問われています。実際に両立支援を実施する場合は、そうした取組みを行う企業の事例を参考にしてみることもおすすめです。
ここでは、病気の治療と仕事の両立支援をめぐる現状について解説し、従業員が治療を行いながら、安心して働き続けられる職場づくりの方法を、事例を挙げてご紹介します。

2 1ヵ月以上欠勤する従業員の疾病

治療と仕事の両立支援の事例を挙げる前に、1ヵ月以上連続して病欠している従業員がいる企業で、どのような疾病が理由なのかを見ていきましょう。厚生労働省の調査によれば、疾病の割合は次のようになっています。

  • メンタルヘルス……38%
  • がん…………………21%
  • 脳血管疾患…………12%

このように、長期休業理由として、メンタルヘルスに次ぐ疾病ががんであることからも、企業側が従業員のがん治療と仕事の両立や、職場復帰を支援することの重要性は極めて高いといえるでしょう。

3 企業による治療と仕事の両立支援を行う意義とは

企業が治療と仕事の両立支援を行うことは、次のような観点からも取り組む意義があるといえます。

  • 継続的な人材確保および離職防止
  • 従業員の生産性の向上
  • 健康経営の実現
  • 社会的責任の実現
  • 従業員のワークライフバランスの実現

治療と仕事の両立支援の充実は、実際に治療を受ける従業員だけでなく、ほかの従業員に対する安心感やモチベーションの向上にもつながります。

4 治療と仕事の両立支援に関する事例

ここからは、実際に治療と仕事の両立支援に取り組む企業の事例をご紹介しましょう。

従業員の健康促進を経営の柱に

東京都の健康情報サービス会社の事例です。がんを対象とした治療休暇制度や定期健康診断の特別有給休暇などを設け、従業員の健康促進に努めています。

・がんを対象とした治療休暇制度
毎月2日まで特別有給休暇を取得できる「がんを対象とした治療休暇制度」を設けています。これにより、職場復帰後も、安心して治療と仕事を両立できる体制を整えています。この制度は、治療の状況に応じて働けるよう、半日単位での取得も可能とのことです。

・定期健康診断は特別有給休暇
定期健康診断の受診日を特別有給休暇にすることで、従業員は検査に専念できます。

全社を挙げてがん対策に取り組む

東京都の運送会社の事例です。50代の管理職ががんで亡くなったことをきっかけに、がん対策の必要性を痛感し、「健康管理規定」策定に着手したとのこと。従業員のがん検診受診を出勤扱いにしたり、受診費用を全額会社側で負担したりと、全社を挙げてがん対策に取り組んでいます。

・社内におけるがん対策への理解を促進
現場の意見も取り入れつつ、取締役みずからがん対策セミナーに出席し、社内セミナーを開催するなどして、がん対策への理解促進を図っているとのことです。

・本社の管理職と支店長に対する人間ドック受診の義務付け
義務付け後に管理職20人が人間ドックを受診したところ、2人もがんと判明したといいます。両者とも治療を行いながら、勤務を続けているようです。

外部リソースを活用し福利厚生の拡充を図る

東京都の印刷会社の事例です。50代前半の従業員が骨髄腫と診断され、長期の入院治療を行ったことをきっかけに、従業員の治療と仕事の両立支援へ本格的に取り組むようになりました。

・外部リソースを活用した福利厚生の拡充
病気やケガで長期間の就業ができなくなった際、有給休暇や全国健康保険協会の傷病手当金で対応しても、約1年半で補償が切れてしまいます。そこで、従業員と相談の上、一定期間補償する保険商品を導入しました。

・健康情報管理システムの導入
「健康情報管理システム」を導入し、従業員の疾病予防のための健康管理促進を図っているといいます。栄養士による食事内容チェックや、産業医の指導を受けられるサービスもあり、従業員からも好評です。

社内制度を活用して最適な就業スタイルを組み立てる

東京都の金融会社の事例です。「病気になった従業員に就業意欲がある場合は、治療を受けながら可能な範囲で働いてほしい」という考えのもと、休暇制度や時短勤務、在宅ワークなどの社内制度を通して両立支援を行っているとのことです。それぞれの従業員にとって、最も働きやすい就業スタイルが実現できています。

・復職プランに基づいた復職制度
治療が済んで「出社」をゴールとするのではなく、以前と同様に働けるようになるため本人と会社、産業医の3者で話し合い、復職プランを構築しているとのことです。

・がん検診の普及活動
2014年に「がん対策推進企業アクション」のパートナー企業に登録し、従業員のがん検診の受診率向上を目指す普及活動を行っています。

5 おわりに

治療と仕事の両立支援のアプローチは、企業によってさまざまです。具体的な支援方法や、医療機関との連携などに悩む担当者の方もいるでしょう。
厚生労働省の「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」では、両立支援の進め方や環境整備のポイントを詳しく掲載しており、取組みの参考にすることができます。
ガイドラインは厚生労働省のウェブサイトからダウンロードできるため、両立支援の導入や見直しを検討する担当者の方は、目を通してみてはいかがでしょうか。

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