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日本は4つのプレートに挟まれた珍しい国で、そのために地震が多いと言われています。大阪府北部地震や北海道胆振東部地震は記憶に新しいところです。首都直下型地震や南海トラフ地震も、いつ発生しても不思議ではないとされています。日本で企業活動を行う限り、地震への備えは必須といっていいでしょう。地震対策は、いざ地震が起こってからでは遅いもの。企業がどのような点に気をつけて対策すればよいか、地震を想定した労働環境の整備や安全配慮、とくに社員の保護について、法律的な観点を踏まえて解説します。
1 地震に関する労災認定の紹介
まずは、労災認定について確認しましょう。そもそも、労災給付は、業務災害(「業務上の」負傷等)か、通勤災害(「通勤による」負傷等)に対して支給されるものです。地震は自然現象ですので、一見、業務災害や通勤災害にはあたらないようにも思えます。では、業務中に地震が発生し、社員がけがをした場合は労災と認められないのでしょうか。
結論としては、地震によって負傷した場合も広く労災と認められる傾向があります。例えば、
・仕事中に地震に遭遇してけがをした場合
・被災地への出張用務中に地震に遭ってけがをした場合
・避難所から会社への通勤中にけがをした場合
などは、いずれも労災と認められます(参照:厚生労働省|平成28 年熊本地震に伴う労災・適用徴収に関するQ&A)。
勤務中や通勤中に発生した地震で社員がけがをした場合、労災保険が適用される可能性が高いことを紹介すれば、社員が安心できるのではないでしょうか。ただし、個人的な用事で外出しているときに被災した場合は、通常の労災同様、認定はされません。
地震後のメンタルヘルス対策は労災?
また、地震のような大きな災害の後は恐怖や不安、疲弊などがメンタルヘルスの問題につながることが少なくありません。社員にこのようなメンタルヘルス面の症状が出た場合、労災認定を受けられるのでしょうか。
地震後のメンタルヘルスの不調は私生活上の被害も影響するため、業務と症状との因果関係をはっきりさせることが難しく、一般的に労災認定は認められにくくなります。
そのため、企業としては、メンタルヘルスの相談窓口を設置するなどして、地震後の社員の心の問題に対策する必要があります。「社内では相談しにくい」「会社に相談内容を知られたくない」という社員の気持ちに配慮して、外部の相談窓口を設けることも検討すると良いでしょう。
2 地震に備えた安全配慮義務とは
地震によって従業員が亡くなった場合、遺族から会社に対して損害賠償請求される場合があります。
東日本大震災のときは、津波被害によって多くの労働者が亡くなり、遺族が企業の安全配慮義務違反を理由に訴えを起こすケースが多く見られました。
例えば、宮城県の七十七銀行女川支店の行員3人の遺族が、銀行に対し2億3,000万円の支払いを求めた訴訟では、最高裁まで争われた結果、遺族側が敗訴しました。
このように企業には高額の賠償義務が生じる場合がありますが、ここで賠償の有無を分けるのは、会社が「安全管理義務を果たしたか」です。企業は社員の生命や健康が自然災害の危険からも保護されるよう、安全に配慮する義務を負うものと考えられています(参照、七十七銀行事件に関する仙台地裁平成26年2月25日判決)。
地震を想定した安全配慮義務の判断基準が明確にあるわけではありません。しかし、例えば七十七銀行事件の地裁判決と高裁判決(仙台高裁平成27年4月22日)を参照しますと、企業の安全配慮義務としては、以下の対応が求められていると言えるでしょう。
地震発生前の対応
・ 合理的な災害対応マニュアルを策定し、社員に周知徹底すること
・ 定期的に社内の防災体制の確認や、通信機器等の操作訓練を実施すること
・ 定期的に従業員の避難訓練を実施すること
地震発生中・発生後の対応
・ ラジオ放送、テレビ放送等により、被害状況や二次災害について情報収集すること
・ 収集した情報や、災害対応マニュアルの記載をふまえ、臨機応変に合理的な避難行動をとること
一見当たり前のことに見えますが、まさに当たり前のことを確実に実施することが、法的にも重要です。
大事な社員を危険にさらさないため、上記の対策を心がけてください。
3 終わりに
これまで述べたほかにも、企業として対策すべきことはたくさんあります。家具の転倒や落下に備えてオフィスをレイアウトしたり、システムやデータは遠隔地にバックアップしたりといった防災対策、地震など大規模な災害を想定したBCP(事業継続計画)の策定・周知も、地震の際に社員を不安にさせないために必要でしょう。
地震は従業員の命にかかわるものです。まだ対策していなかった、では取り返しがつきません。社内マニュアルの確認や避難訓練の実施、非常食や飲料水、ラジオといった備品・備蓄の整備など、企業として事前にできる限りの対策を心がけてください。
(このコラムの内容は、平成30年2月現在の法令等を前提にしております)。
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