1 はじめに

 2010年6月に閣議決定された「新成長戦略」において、2020年までの目標のひとつとして掲げられているのが「受動喫煙のない職場の実現」です。受動喫煙とは、喫煙することで発生した有害な煙を吸ってしまうことです。そこで、厚生労働省は事業場の受動喫煙をなくすための取組みを促進するために、財政的または技術的支援の提供を行うこととしています。

従業員の健康と健康経営の実現のためにも、受動喫煙予防対策を実施し、従業員に対しては受動喫煙のリスクや対策への理解を促すための周知を図ることも大切です。 

そこで、職場で予防対策を講じるにあたって押さえておきたい受動喫煙のリスクや、受動喫煙対策の具体的な取組みなどについてご紹介します。

2 受動喫煙のリスク

まずは、受動喫煙によるリスクについて見ていきましょう。

たばこの先から出る副流煙は、たとえ目に見えない煙だとしても害があります。この副流煙を吸うこと…つまり、受動喫煙が原因となって身体に害を及ぼすのです。受動喫煙が原因で起きるリスクとしては、次のようなものが挙げられます。

・肺がんや急性心筋梗塞など

・乳幼児突然死症候群

・子供の呼吸器感染症や喘息発作の誘発 

なお、厚生労働省の研究によると、受動喫煙による肺がんと虚血性心疾患の死亡者数は、年間約6,800人となっています。そのうち、職場における受動喫煙が原因とみられるのは約3,600人ですので、死亡者の半数以上が職場での受動喫煙が原因となっていることがわかります。つまり、職場での受動喫煙を防止することは、健康経営を考える上で、とても大切なのです。

※出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「我が国のこれまでのがん対策について」

※出典:厚生労働省「すすめていますか? たばこの煙から働く人を守る職場づくり」

3 国内外の受動喫煙防止対策

ここからは、受動喫煙対策に関する国内外の動向を見ていきましょう。

国際的な動向

世界保健機関(WHO)は、2005年2月に法的拘束力を持つ国際条約「WHOたばこ規制枠組条約」を発効しました。日本もこのたばこ規制枠組条約の締約国であるため、たばこに関する規制を行う義務があります。

また、2007年7月に採択された「WHOたばこ規制枠組条約 第8条実施のためのガイドライン」には、次のような記載がされています。

・完全禁煙以外の措置(換気、喫煙区域の使用)は不完全である

・すべての屋内の職場、屋内の公共の場および公共交通機関は禁煙とすべきである

つまり、国際的な観点から見れば、職場における完全禁煙以外の措置は問題であることがわかります。

国内の動向

日本における職場の受動喫煙防止対策については、1992年以降に労働安全衛生法に基づいて事業者への指導が行われました。この指導は、就労者が安心して快適に職場で過ごせることを目的とした「快適職場形成促進事業」の一環として行われたもので、受動喫煙への対策が進捗しました。その後、2003年に健康増進法で「多数が利用する施設」が受動喫煙防止の対象となり、さらに2010年2月には「公共の場では原則として全面禁煙にすべき」という厚労省健康局長通知も出されました。

このような国内外の受動喫煙防止の影響を受け、労働政策審議会でも2010年12月に、「労働安全衛生法における快適な職場づくりの一環として、取組みの見直しが必要な状況である」との意見が交わされました。

4 職場における受動喫煙防止対策のための体制整備

職場で受動喫煙防止対策を講じるにあたってのポイントを見ていきましょう。

受動喫煙防止対策の周知

受動喫煙防止のためには、事業者が率先して対策に取り組むことが求められますが、実現させるためには従業員の協力も必要です。

従業員への周知を徹底するためにも、社内で喫煙と健康に関する講習会を開催したり、ポスターの掲示や受動喫煙予防の重要性や具体的な方法についてまとめたパンフレットを配布したり、禁煙場所の明確な表示をしたりしましょう。

禁煙を希望する喫煙者へのサポート

喫煙者の従業員に対して、禁煙支援を行うことも大切です。

健康診断などを利用して、喫煙によるリスクや禁煙の効果についての情報を提供する場を設けましょう。また、禁煙外来の受診で処方される禁煙薬を利用させるなど、喫煙者へのサポートを行いましょう。

全面禁煙と空間分煙の違い

職場で完全禁煙または空間分煙を行う場合、正しいルールを踏まえて実施することが大切です。

まず、全面禁煙とは建物「全体」を常に禁煙とする状態をいいます。

職場にいるすべての人々の受動喫煙リスクを完全になくすためには、確実な方法といえるでしょう。コストがかからず、喫煙スペースを清掃する手間も省けるといったメリットがあります。 

一方で、空間分煙とは「喫煙スペースでのみ」喫煙が可能であり、それ以外の場所では禁煙とすることをいいます。

喫煙スペースからの副流煙のもれを防ぐためにも、喫煙スペースの外の粉塵濃度を抑えたり、喫煙スペースへ向かう気流を一定以上維持したりする必要があるため、完全禁煙よりもコストがかかります。

5 おわりに

職場の完全禁煙を目指す場合、いきなり完全禁煙とするのは難しいでしょう。そこで、禁煙にするための体制を整備しながら、従業員の理解を促していくことが重要です。そのためには、喫煙および受動喫煙のリスクを社内で周知するだけでなく、禁煙サポートも積極的に行い、完全禁煙を目指しましょう。

完全禁煙が難しい場合も、できる限り受動喫煙が起きないよう、対策をとることが大切です。

MKT-2019-505

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