労働者の安全衛生を守ることは、企業が事業を行う上での務めです。労働安全衛生法の遵守はもちろんですが、安全と健康が保たれた安心できる職場環境を整えることで、労働者のモチベーションやパフォーマンスの向上にもつながります。

労働者の安全(労働安全)と健康(労働衛生)を守る役割のひとつが、安全衛生責任者です。特定事業で元方と下請が混在する作業場では、その規模に応じて安全衛生責任者の選任が義務付けられています。

ここでは、安全衛生責任者の役割や選任要件、統括安全衛生責任者や職長との違いなどについて解説します。

建設業または造船業で現場の安全に責任を負う安全衛生責任者

安全衛生責任者を設置する必要があるのは、建設業または造船業(特定事業)の現場です。特定事業の現場では複数の関係請負人(協力会社・下請会社)に仕事を請け負わせることが多く、このような、元方事業者の労働者と協力会社などの労働者が、同一の場所において作業を行うことを混在作業といいます。

特定事業の一定規模以上の混在作業においては、労働災害防止のため、元方事業者が統括安全衛生責任者を、関係請負人が安全衛生責任者をそれぞれ選任する必要があります(労働安全衛生法第15条第1項または第3項)。安全衛生責任者は、請負事業者の代表として、現場の安全に対して責任を負う役割を担います。
 

統括安全衛生責任者については、下記の記事をご覧ください。
安全衛生とは?企業に求められる人員や業務体制を解説
 

出典:「職場のあんぜんサイト:安全衛生責任者[安全衛生キーワード]」(厚生労働省)

安全衛生責任者の役割

安全衛生責任者の主な職務は、統括安全衛生責任者との連絡・調整です。統括安全衛生責任者から受けた内容を関係者に伝えたり、整合性の確保を図るための調整を行ったりして、現場の安全衛生管理に努めます。また、請負事業者の従業員の安全衛生管理や労働災害防止なども重要な役割のひとつです。

安全衛生責任者の選任については労働安全衛生法で定められており、選任したら遅滞なく元方事業者へ報告しなければなりません。

統括安全衛生責任者との違い

安全衛生責任者と統括安全衛生責任者は、選任する事業者が異なります。安全衛生責任者は業務の請負人が選任しますが、統括安全衛生責任者は元方事業者が選任します(労働安全衛生法第15条)。特定事業の一定規模以上の混在作業においては、統括安全衛生責任者は元方事業者が選任した安全衛生責任者と連絡をとり合い、その指導のもとに安全衛生管理体制を構築します。

職長との違い

安全衛生責任者は職長と兼務されることもありますが、本来の役割は異なります。職長とは労働者に対して作業の指揮監督を行う立場の人を指します。安全衛生責任者の役割は、労働災害防止のために統括安全衛生責任者との連絡・調整を行うことですが、職長は現場の指揮監督をする立場で、事業者と作業者をつなぐ現場のまとめ役を担います。

安全衛生責任者を選任する必要がある事業場

安全衛生責任者や統括安全衛生責任者を選任しなければいけないのは、建設業または造船業(特定事業)の混在作業において、元方事業者と関係請負人の労働者の合計が常時50人以上の場合です。

ただし、ずい道(トンネル)建設、一定の橋梁の建設、圧気工法による作業を行う仕事では、労働者数が30人以上で選任が必要になります。

安全衛生責任者に選任される要件

安全衛生責任者に就くために必須となる資格や実務経験はありませんが、「安全衛生責任者教育」という講習を受けている必要があります。講習は会場で受講するほか、ウェブで受講する方法もあります。

なお、建設業では職長が安全衛生責任者に選任されることが多いため、「安全衛生責任者教育」と「職長教育」を統合した「職長・安全衛生責任者教育」が推進されています。

職場の安全衛生管理のため安全衛生責任者を選任しよう

元方事業者と請負人の労働者が同一の場所で作業をする場合、請負人が多くなるほど、安全衛生に対する責任が薄くなりがちです。だからこそ、特定事業における一定規模以上の混在作業時には、請負人は安全衛生責任者を選任し、現場の安全衛生管理に努めなければなりません。

安全衛生責任者を選任しなければいけない状況なのかがわからなければ、社労士に確認するといいでしょう。社労士がいなければ、労働基準監督署に相談することも可能です。
 

業務上でのリスクを認知し、労働者の安全衛生を確保する取り組みを行うことは、福利厚生の充実などと同様に、人材確保の大きな決め手になります。求職者から選ばれる企業になるためには、リスク認知とその対策が必須といえるでしょう。

監修者プロフィール:

山本喜一(やまもときいち)

社会保険労務士法人日本人事

特定社会保険労務士、精神保健福祉士

上場支援、労働基準監督署、労働組合、メンタルヘルス不調者、ハラスメント、問題社員対応などを得意とする。著書「補訂版 労務管理の原則と例外 働き方改革関連法対応」新日本法規、「労働条件通知書兼労働契約書の書式例と実務」日本法令、「IPOの労務監査標準手順書」日本法令など多数。

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