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企業が事業を行う上では、職場の安全衛生についての取り組みを行っていくことが大切です。企業には労働安全衛生法にもとづいたさまざまな義務が定められており、怠った場合には罰則が科される可能性もあります。
この記事では、企業で求められる安全衛生と、労働安全衛生法によって企業に求められる人員や業務体制などについて解説します。
なぜ職場で安全衛生を考えるべきなのか
安全衛生とは、労働者の安全(労働安全)と健康(労働衛生)を守り、快適な職場環境を形成するための取り組みです。
企業にとっての重要な資産である労働者を守るために、企業は労働者の健康維持と災害防止に努めなければなりません。危険のない安全な労働環境や設備を整え、労働者が健康を保ちながら安心して働くことができるようにしなければならないのです。
安全な労働環境や設備を整えられなければ、労働災害が発生してしまうかもしれません。労働災害とは、労働者が業務に起因して被るケガや病気、死亡などのことです。労働災害による死傷者数は、長期的には減少傾向にありますが、2021年度の死亡者数は2019年、2020年よりも増加しています。また、休業4日以上の死傷者数は近年増加傾向にあり、2021年度は1998年以降で最多となりました。
同時に、近年では過労死やメンタルヘルス不調への対応も急務とされています。
労働災害を防止することで安心して働ける職場になれば、労働者のモチベーションが向上したり、コミュニケーションが活性化したりすることも期待できます。結果、組織全体のパフォーマンス向上にもつながっていくはずです。
労働災害防止は企業の責任であるという強い自覚を持ち、安全で快適な職場環境を整えていく必要があります。
出典:「令和3年 労働災害発生状況」(厚生労働省)
労働安全衛生法で企業に選任が求められる人員
労働安全衛生法とは、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境を形成する目的で1972年に制定された法律です。労働安全衛生法では、職場の安全衛生を確保するため、業種や業務内容、事業場規模などに応じてさまざまな人員の選任を求めています。
ここからは、労働安全衛生法によって選任が義務づけられている人員について解説します。
なお、この常時使用する労働者の人数は事業場ごとの人数をいい、日雇労働者、パートタイマーなどの臨時的労働者の数を含めて、常態として使用する者を数えます。また、派遣労働者については、事業場規模の算定に当たっては、派遣先の事業場及び派遣元の事業場の双方について算出します。
■労働安全衛生法によって選任が義務づけられている人員と選任の条件
名称 |
業務内容 |
業種 |
常時使用する労働者数 |
総括安全衛生管理者 |
衛生管理者と安全管理者の指揮、職場の安全と衛生の統括管理 |
すべての業種 |
林業、鉱業、建設業、運送業および清掃業は100人以上(その他は業種によって異なる) |
安全管理者 |
安全に関する技術的な管理 |
林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業、製造業など危険な業務を伴う業種 |
50人以上 |
衛生管理者 |
労働者の作業環境や健康などの管理 |
すべての業種 |
50人以上 |
労働者の安全・衛生のための措置や教育 |
林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業、製造業などの業種 |
10人以上、50人未満 |
|
衛生推進者 |
労働者の安全・衛生のための措置や教育 |
安全衛生推進者の選任が必要な業種以外 |
10人以上、50人未満 |
産業医 |
労働者の健康管理についての指導・助言 |
すべての業種 |
50人以上 |
元方事業者と請負事業者が同一の作業場で生じる労働災害の防止。元方事業者が選任 |
建設業、造船業 |
特定元方事業者の従業員と関係請負人の従業員の合計が30人以上など、仕事によって異なる |
|
店社安全衛生管理者 |
統括安全衛生責任者などの選任が義務づけられていない作業現場において、ずい道工事などの工事で統括安全衛生管理担当者を指導・援助する |
建設業、造船業 |
20人以上50人未満(仕事によって異なる) |
元方安全衛生管理者 |
統括安全衛生責任者の業務のうち、技術的事項の管理を行う |
建設業、造船業 |
統括安全衛生責任者を選任した場合(特定元方事業者の従業員と関係請負人の従業員の合計が30人以上など、仕事によって異なる) |
統括安全衛生責任者がいる事業場で生じる労働災害の防止。請負事業者が選任 |
建設業、造船業 |
特定元方事業者が統括安全衛生責任者を選任する場所 |
総括安全衛生管理者
常時使用する労働者が一定数以上になると、総括安全衛生管理者の選任が必要です。総括安全衛生管理者は、林業、鉱業、建設業、製造業など多くの業種において選任される役職で、衛生管理者と安全管理者を指揮し、職場の安全と衛生の統括管理を行います。
出典:「職場のあんぜんサイト:総括安全衛生管理者[安全衛生キーワード]」(厚生労働省)
安全管理者
安全管理者は、安全に関する技術的な管理を担い、危険防止のための措置のほか、安全についての教育や訓練、労働災害の原因調査や再発防止措置などを行います。危険な作業を伴う業種で、常時50人以上の労働者を使用する事業場において選任する必要があります。
出典:「職場のあんぜんサイト:安全管理者[安全衛生キーワード]」(厚生労働省)
衛生管理者
衛生管理者の役割は、労働者の作業環境や健康などを管理し、健康障害を防止することです。具体的には、作業環境の衛生上の調査や改善、衛生についての教育、労働者の健康管理などを行います。業種を問わず、常時50人以上の労働者を使用する事業場で選任が義務づけられています。また、労働安全衛生規則では、衛生管理者は週1回の職場巡視の実施を義務づけられています。
出典:「職場のあんぜんサイト:衛生管理者[安全衛生キーワード]」(厚生労働省)
安全衛生推進者・衛生推進者
常時使用する労働者が10人以上50人未満の事業場のうち、一定の業種では安全衛生推進者を、それ以外の業種では衛生推進者を選任しなければなりません。安全衛生推進者・衛生推進者は、労働者の安全・衛生のための措置や教育などを行います。
安全衛生推進者については、下記の記事をご覧ください。
出典:「職場のあんぜんサイト:安全衛生推進者[安全衛生キーワード]」(厚生労働省)
産業医
産業医は、労働者の健康管理について専門的な立場から指導・助言を行う医師で、健康診断の実施やその結果にもとづく指導・勧告などを行います。業種を問わず、常時50人以上の労働者を使用する事業場で選任が必要です。なお、労働安全衛生規則では、産業医は月1回の職場巡視の実施を義務づけられています。
出典:「職場のあんぜんサイト:産業医[安全衛生キーワード]」(厚生労働省)
統括安全衛生責任者・安全衛生責任者・店社安全衛生管理者・元方安全衛生管理者
統括安全衛生責任者は建設業と造船業において「元方事業者」が選任するもので、事業の一部を請負事業者に請け負わせる「元方事業者」と「請負事業者」が、同一の作業場で生じる労働災害を防ぐ役割があります。安全衛生責任者は「請負事業者」が選任するもので、統括安全衛生責任者とともに労働災害防止に務める役割です。
また、店社安全衛生管理者は、統括安全衛生責任者などの選任が義務づけられていない事業場で、統括安全衛生管理を行う人への指導を行います。元方安全衛生管理者は、統括安全衛生責任者を選任する事業場で、その職務を補佐する役割として選任されます。
統括安全衛生責任者と安全衛生責任者については、下記の記事をご覧ください。
出典:「職場のあんぜんサイト:統括安全衛生責任者[安全衛生キーワード]」(厚生労働省)
出典:「職場のあんぜんサイト:安全衛生責任者[安全衛生キーワード]」(厚生労働省)
出典:「職場のあんぜんサイト:店社安全衛生管理者[安全衛生キーワード]」(厚生労働省)
出典:「職場のあんぜんサイト:元方安全衛生管理者[安全衛生キーワード]」(厚生労働省)
労働安全衛生法で求められる業務・体制
企業は、労働者の危険や健康障害を防ぐために、さまざまな措置を講じなければなりません。労働安全衛生法によって義務づけられている主な措置を、下記の表にまとめました。
■労働安全衛生法によって義務づけられている主な措置
措置 |
内容 |
衛生委員会・安全委員会の開催 |
労働者の健康障害防止や健康増進について労使一体となって調査審議を行う衛生委員会と、労働者の安全や危険防止について労使一体となって調査審議を行う安全委員会を開催。また、一定の業種では安全委員会と衛生委員会、または両委員会を統合した安全衛生委員会を設置し、毎月1回以上開催しなければなりません。 衛生委員会・安全委員会・安全衛生委員会については、下記の記事をご覧ください。 |
健康診断の実施 |
企業が労働者を雇い入れる際には、医師による健康診断を労働者に対して実施する必要があります。採用後は、1年以内ごとに1回(特定の業務の場合は6ヵ月に1回)の医師による健康診断を実施する義務があります。 |
安全衛生教育 |
労働災害を防止し、労働者が安全で衛生的に業務を遂行できるようにするための教育。労働者の雇い入れ時や作業内容の変更時の安全衛生教育(特定の危険有害業務従事者へは特別教育)の実施、新任の職長や監督者、指導者への安全衛生教育の実施が必要です。 |
労働災害防止措置 |
事業者が労働災害を防止するための措置として、機械・器具・爆発性の物などによる危険の防止措置、原材料やガス、粉じんなどによる健康被害の防止措置などが定められています。 なお、労働災害には労災保険(労働者災害補償保険)が適用され、労働者は治療費や休業時の補償などが受けられます。労働災害によってケガや病気を負った場合は、原則として労働者本人の医療費の負担はありません。 |
危険な作業が必要な機械などの届出 |
機械などのうち、危険もしくは有害な作業を必要とするもののほか、危険な場所において使用するもの、危険・健康障害を防止するため使用するものについて、設置・移転などをする際は労働基準監督署に届け出なければなりません。届出が必要な機械などの種類は、労働安全衛生法によって定められています。 |
リスクアセスメント |
職場の潜在的な危険性や有害性を特定し、それを除去・低減させるための一連の手順であるリスクアセスメントについて、製造業や建設業など一定の業種の事業場に対して、実施を努力義務としています。 |
危険な業務、危険物への対応 |
クレーン運転をはじめとした所定の危険な業務に関しては、免許保有者や技能講習修了者などの資格者でなければ業務に就けないという就業制限が定められています。また、爆発性や発火性などの危険物や、化学物質などの有害物を取り扱う場合は、定められた内容を容器などに表示するといった対応が求められます。 |
定期自主検査 |
事業者は、ボイラーなど対象となる機械について、定期的な自主検査と点検結果の記録・保管を行う義務があります。自主検査を行う機械のうち特定の機械については、一定の資格を持つ検査者による特定自主検査が必要です。 |
快適な職場環境のための措置 |
快適な職場環境を整えるために必要な措置や改善措置を、努力義務として定めています。具体的には、作業内容に応じた照度、騒音・振動の防止、休憩設備の設置、室内の換気などが挙げられます。 また、カウンセリングルームを設置したり、メンタルヘルス研修を実施したりするなど、メンタルヘルス不調への適切な対策も求められます。 |
ストレスチェック |
従業員自身のストレスへの気づきを促し、メンタルヘルス不調のリスクを低減させることを目的に実施します。常時使用する労働者数が50人以上の事業場では、2015年12月より、毎年1回のストレスチェックの実施が義務化されました。なお、労働者数50人未満の事業場では、努力義務となっています。 |
労働安全衛生法の罰則
労働安全衛生法に違反すると、懲役または罰金が科される場合があります。労働安全衛生法における多くの罰則は、両罰規定となっており、違反した実行者(行為者)だけでなく、事業主である法人なども罰せられるというものです。
罰則の対象となるケースには、労働者を雇い入れる際に安全衛生教育を行わない安全衛生教育実施違反(50万円以下の罰金)や、クレーン運転などの運転を無資格者に行わせる無資格運転(6ヵ月以上の懲役または50万円以下の罰金)などがあります。
参考:「労働安全衛生法」
職場の安全衛生管理は企業の重大な責務
労働者の安全と健康を守り、快適に安心して働ける職場づくりを行うことは、企業にとっての重要な責務です。労働安全衛生法の遵守はもちろん、職場の安全衛生を確保するために必要な対策を心掛けましょう。
今後、企業が成長していくには、人材の確保が重要になります。優秀な人材を確保するためには、福利厚生の充実とともに、安全で安心して働ける職場だということを認知してもらう必要があるでしょう。職場にどのようなリスクがあるかを把握し、労働安全衛生法にもとづいた防止策を検討・実行することが大切なのはもちろん、法令で定める以上の安全で働きやすい環職場づくりが重要です。
監修者プロフィール:
山本喜一(やまもときいち)
特定社会保険労務士、精神保健福祉士
上場支援、労働基準監督署、労働組合、メンタルヘルス不調者、ハラスメント、問題社員対応などを得意とする。著書「補訂版 労務管理の原則と例外 働き方改革関連法対応」新日本法規、「労働条件通知書兼労働契約書の書式例と実務」日本法令、「IPOの労務監査標準手順書」日本法令など多数。
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