中小企業に求められる介護と仕事の両立支援とは?
超高齢社会において、介護は避けて通れない課題となっており、企業は介護と仕事の両立ができる体制を整える必要性が高まっているといえるでしょう。実際、仕事をしながら介護にあたっている人は、2017年には約346万人となっています。
そこで、働きながら介護をする労働者の現状と、企業による両立支援が必要な理由のほか、中小企業で両立支援制度を導入する際のポイントをご紹介します。
出典:「平成29年就業構造基本調査 結果の概要」(総務省)
介護離職の歴史と現状
2017年の離職者約735万人の中で、「介護・看護」を離職理由にする人は約9万人(全体の約1.2%)になります。ですが、2007年には「介護・看護」を離職理由にする人が年間5万人だったことを考えると、10年間で2倍近くに増加しているのです。
今後も働きながら介護を担う人は増えると予想されていますので、人材不足の深刻化を招かないためにも、企業による介護と仕事の両立支援の充実が求められています。
出典:内閣府ホームページ(https://www.cao.go.jp/)
「介護離職の現状と課題」(株式会社大和総研)
中小企業の介護と仕事の両立支援は進んでいない
中小企業は、大企業に比べて女性従業員や年齢の高い従業員の割合が高い傾向があります。さらに、働いている人のうち、介護をしている人が最も多い年代は、男性の場合55~59歳、40~49歳、50~54歳の順になっています。また、女性の場合40~49歳、50~54歳、40歳未満の順です。要介護者がいる場合、54.4%と半分以上の人が同居して介護しており、主な介護者の65.0%は女性となっています。
これらのことから、女性従業員や年齢の高い従業員が多い中小企業では、介護と仕事の両立支援が特に大切だといえるでしょう。
しかし、中小企業における介護と仕事の両立支援制度の整備は、大企業に比べてなかなか進んでいません。例えば、2017年のデータでは、事業所規模が30人以上の事業所の場合、7割以上が「介護休業制度」「介護休暇制度」「短時間勤務制度」の規定を設けています。しかし、30人未満の事業所では、同制度の規定を設けているケースは、5~7割にとどまっています。また、介護休業制度の利用率は、100人未満の事業所では1割にも届いていません。
このような現状を見る限り、中小企業の介護と仕事の両立支援は進んでいないといえるでしょう。
出典:「中小企業における両立支援推進のためのアイディア集」(厚生労働省)
出典:「平成29年就業構造基本調査 結果の概要」(総務省)
出典:「2019年 国民生活基礎調査の概況」(厚生労働省)「IV 介護の状況」
出典:内閣府ホームページ(https://www.cao.go.jp/)
「介護離職の現状と課題」(株式会社大和総研)
中小企業が介護と仕事の両立支援制度を進めるメリット
介護と仕事が両立しやすい環境を整えることは、中小企業にとって経済的な負担が大きいように思えます。しかし、両立支援制度を充実させることによって、下記のようなメリットをもたらします。
中堅世代の離職防止につながる
介護と仕事の両立に悩んでいる多くの人は、業務の中核となる40~50代の中堅層です。介護と仕事の両立支援制度を充実させることで、離職防止につながります。
人材確保・人材の定着につながる
現時点で介護に携わっていない同世代の従業員や若い世代の従業員も、いずれは介護を行う可能性があります。ですから、会社に介護と仕事の両立支援制度があれば、安心して働き続けられるでしょう。また、人材の定着率が高くなれば、働きやすい企業として認知され、就職先として選ばれやすくなります。そうなれば、優秀な人材を確保しやすくなることも期待できます。
従業員のモチベーションアップにつながる
安心して介護と仕事を両立できる環境があれば、従業員のモチベーションアップにもつながります。結果として売上アップによい影響を与える可能性もあるでしょう。
介護と仕事の両立支援制度を導入・改善する
介護と仕事の両立支援制度を導入・改善するためには、どのようにすれば良いのでしょうか。この場合、厚生労働省が作成した「企業における仕事と介護の両立支援実践マニュアル」や「『介護支援プラン』策定マニュアル」が参考になります。
具体的には、下記のような順番で、介護と仕事の両立支援制度を導入・改善するようにしましょう。
1. 従業員の介護と仕事の両立に関する実態を把握する
従業員にアンケートや聞き取りなどを行って、介護と仕事の両立に悩んでいたり不安を感じていたりする従業員がいるのかを把握します。また、自社の両立支援制度は従業員に周知されているのか、従業員のニーズに対応できるものになっているのかを確認します。
2. 介護と仕事の両立支援制度の見直しや整備を行う
すでに介護と仕事の両立支援制度がある場合は、アンケート結果から課題を洗い出し自社で採用している制度を見直します。もし、制度はあるものの法律で定められた基準を満たしていないのであれば、至急改善が必要です。
現時点で介護と仕事の両立支援制度がない場合は、育児・介護休業法に定められた「介護休業制度」「介護休暇制度」「短時間勤務制度」などを整備して、就業規則に明記します。就業規則に明記するだけでなく、制度を利用したい場合に相談する窓口も、明確にしておくことがポイントです。
3. 従業員に情報提供を行う
介護と仕事の両立支援制度を用意していたり、新たに作ったりしても、従業員が知らなければ意味がありません。特に、すでに制度がある場合のアンケートで「制度があることを知らなかった」「制度があることは知っているが、具体的な利用方法はわからない」との回答が多ければ、従業員への周知徹底に力を入れることになります。
また、現時点で介護と仕事の両立をしている従業員がいなくても、いざ介護を行う必要に迫られたときに、スムーズに制度を利用してもらえるよう、朝礼やパンフレットの配布、研修など、さまざまな手段を用いて、従業員に介護と仕事の両立に関する情報を伝えていきます。
4. 介護に直面した従業員への支援を行う
相談窓口の担当者が介護に直面している従業員から相談を受けたときに最初にすべきことは、介護と仕事を両立する上で何が問題になるのかを整理することです。企業で対応できること、地域の病院などに相談すべきこと、家族で話し合ったほうがいいことなどを整理し、企業として支援できる働き方を提案しましょう。もし、従業員が社内では相談しにくいということであれば、外部の専門家などに相談できるように手配する方法もあるでしょう。
5. 制度を利用しやすい雰囲気をつくる
介護と仕事の両立ができる制度があっても、利用しにくい雰囲気ではなかなか活用されません。残業を削減する、部署内での情報共有を進めて有給休暇を取得しやすい環境を整えるなど、従業員が支援制度を利用することを「悪い」と思わせない雰囲気づくりも大切です。
出典:「企業における仕事と介護の両立支援実践マニュアル」(厚生労働省)
利用できる助成金について
厚生労働省では、中小企業の両立支援制度整備を後押しするために、「両立支援等助成金」の中に「介護離職防止支援コース」を設けています。
対象となるのは、策定した介護支援プランにもとづいて、労働者の円滑な介護休業の取得や復帰に取り組んだ中小企業事業主と、介護のための柔軟な就労形態の制度を導入して実際に労働者の利用があった中小企業事業主です。
具体的には、下記の条件を満たした場合に助成金が支給されます。
<介護離職防止支援コースの助成金支給条件>
・介護休業:労働者が介護休業を合計5日以上取得し、復帰した場合
・介護両立支援制度:介護のための柔軟な就労形態の制度を導入し、労働者が合計20日以上利用した場合
・新型コロナウイルス感染症対応特例:新型コロナウイルス感染症への対応として、家族を介護するために特別休暇を取得した場合
例えば、介護支援プランを策定し、対象労働者に合計5日以上の介護休業を取得させた事業主には、従業員の介護休業取得時と復帰時に、それぞれ28万5,000円支給されます。なお、3年前の生産性よりも6%以上伸びていれば、労働生産性※の向上要件を満たしたとして、支給額はそれぞれ36万円となります。
※労働生産性の計算は、政府が用意した「生産性要件算定シート」に人件費、減価償却費、動産・不動産賃借料、租税公課、営業利益を入力することで計算することが可能です。
中小企業における両立支援制度の実践例
厚生労働省が提案する介護と仕事の両立支援制度の導入方法は、あくまで基本となるべき指針です。実際に運用するためには、企業に合った体制が必要でしょう。
続いては、介護と仕事の両立支援制度の導入事例をご紹介します。また、厚生労働省の「中小企業における両立支援推進のためのアイディア集」も参考になりますので、ぜひご一読ください。ほかにも、厚生労働省の「仕事と家庭の両立支援プランナーによる(介護)無料支援」がありますので、参考にしてください。
医療・福祉施設を運営するF会は、就業規則などの見直しを進める中で、介護と仕事の両立支援制度の整備も開始。就業規則や休暇制度について従業員の理解が十分ではなかったことから、従業員への周知にも力を入れてきました。
また、法定の介護と仕事の両立支援制度以外にも、1日の就業時間を短縮するか、勤務日数を減らすかを選択できるなど、従業員の意見を取り入れて、独自の介護短時間勤務制度を作りました。
C社は、高齢の従業員が多いことから、早くから介護と仕事の両立支援の取り組みに注力していましたが、2016年にあらためて現状把握のための従業員アンケートを実施しました。結果として、法定対象外の人の介護にも使える制度が望まれていたため、2018年に育児・介護休業法にもとづく短時間勤務制度とは別に、独自の短時間社員制度を導入しています。
また、「勤務希望一覧表」を作って、従業員の希望をシフトに反映する工夫も行いました。制度を利用して継続就業したり、一度退職しても再雇用制度で復職したりする従業員が増え、経営の安定につながっています。
S社は、2011年にキャリアカウンセリング室を開設するなど、早くから介護と仕事の両立支援に取り組んでいます。しかし、2014年に従業員が介護休業日数を消化してしまう事態が生じたことから、法律で定められている制度だけで、介護と仕事の両立支援が十分であるかどうかを再検討しました。
その結果、介護休業は法定どおりですが、「できるだけ長く働き続けてほしい」との思いから、会社の承認を得れば短時間勤務制度を上限なく利用できるように制度を変更しています。また、介護休暇は有給とし、30分単位で利用可能にしました。
出典:「女性の活躍推進・両立支援総合サイト」(厚生労働省)
両立支援制度の充実は従業員の安心につながる
中小企業の場合、社員数の少なさから、現時点では介護と仕事の両立に悩んでいる従業員がいないことも多いでしょう。
ですが、企業が両立支援に取り組む姿勢を示し、両立支援制度を整えることは、今後、制度を利用することになる従業員に安心を与え、モチベーションアップにもつながります。ぜひ、積極的に取り組んでみてください。
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