日本には、集中豪雨・地震・津波・噴火などさまざまな災害リスクがあります。被害を少しでも減らすためには、災害対策が欠かせません。

災害対策の方法として、防災対策以外に減災対策があります。

 

今回は企業の減災対策とは何か、防災対策との違いや取り組みなどを紹介します。

企業における減災とは

企業における減災とは、災害の被害を少しでも減らし、従業員の安全を確保することや事業が継続できるように普段から備えることです。

自然災害の発生を防ぐことはできないため、災害の発生を前提に被害をいかに減らせるかを目的とします。

 

減災の考えが広まったのは、1995年に発生した阪神淡路大震災がきっかけです。阪神淡路大震災では6,434人が亡くなり、約10万5000棟が全壊、約14万4000棟が半壊する被害が発生しました。

出典:内閣府「阪神・淡路大震災教訓情報資料集阪神・淡路大震災の概要」

 

大きな災害が発生して防災意識が高まったにもかかわらず、その後にも東日本大震災や豪雨災害などで多くの被害が発生しています。

 

被害を完全に防ぐことはできない。しかし、あらかじめ備えることで、被害を減らすことはできる。そのための取り組みが減災です。

防災と減災の違い

防災とは、自然災害を未然に防ぐことや、災害が発生した際の被害をゼロに近づけるためにおこなう取り組みです。

一方、減災は被害を減らすことを目的としています。被害自体を防ぐことを目的とした防災とは、その点が異なります。

 

たとえば、地震が起きた場合に建物が損壊しないよう事務所を耐震化することは「防災」です。

一方、そうした防災対策はしっかりおこなった上で、それでも被災することを前提に備えることが「減災」です。たとえば事務所で避難訓練をおこなったり、地域の人と災害リスクを話し合いながらハザードマップを作成したりすることは「減災」にあたります。

 

できれば防災対策だけで被害をゼロにするのが理想です。しかし実際には、防災対策が進んでいる現在においても、災害のたびに大きな被害が発生しています。

そうしたことから、防災対策には限界があることを理解し、日ごろから減災対策にも取り組むことが重要です。

 

なお「防災」「減災」は狭義では上記のように区別されていますが、実際には減災の意味合いで「防災」が使われていることも少なくありません。また、具体的な対策は両者が重なるケースも多くあります。

企業における減災の必要性とは

減災対策を怠っていると、災害発生時に大きな損失を被る可能性があります。また、災害による被害は業種に関係なく発生します。

 

下記は平成30年度に発生した「西日本豪雨」、「台風19号~21号」、「北海道胆振東部地震」などによる企業の被害例です。

 

・金属加工業:工場内に大量の土砂や流木が流入

・運輸業:倉庫で預かっていた商品がすべて水没

・自動車部品製造:地震で生産設備の一部が損傷

・金属加工業:建屋が被災

・プラスチック部品製造:事務所が浸水して機器の基盤も浸水

 

出典:経済産業省「中小企業の防災・減災対策に関する現状と課題について」

 

被災した企業のなかには、給与が支払えず従業員全員を解雇したところをはじめ、顧客離れが進んだり、事業継続ができなくなったりしたところもあります。

 

こういった例には、減災対策をしていれば被害を軽減できた可能性のある事例も含まれています。事業を継続して雇用を守るためにも、企業における減災対策は重要です。

従業員の安全を確保する

企業における減災対策でもっとも大切なのは従業員の安全を確保することです。内閣府が発信している企業防災においても、「企業は、従業員や顧客の安全を第一に防災活動に取り組まなければなりません」としています。

引用:内閣府「防災」

 

自然災害には従業員が命を落とすリスクもあります。従業員や従業員の家族を守るためにも、減災対策をおこない被害を最小限に抑えることが重要です。

事業の継続性を確保する

前述の例でも説明したように、企業の減災対策は、事業の継続性を確保するためにも欠かせません。

災害発生後に事業活動を維持することは、雇用の確保や取引先企業の混乱、倒産を防ぎ、経済社会の安定や早期の復旧につながります。

 

予想されている大規模自然災害のなかでも、南海トラフ地震や首都直下型地震は特に緊迫性が高い災害です。これから10年、20年と事業を継続させるためには、これらの災害を乗り越えなければなりません。

 

そのためにも、「災害はきょう起こるかもしれない」という危機感を持って減災対策を積極的におこなうことが重要です。

経営リスクを低減する

減災対策することは経営リスクの低減につながります。

 

たとえば集中豪雨による水害が発生し、顧客の荷物を預かっている事務所が水没した場合、多大な賠償が発生することが予想されます。被害の規模によっては経営の危機に陥ることもあるでしょう。

しかし事前に荷物を1階から2階に移動させておくなどの対策をしていれば、事務所は水没して被害を受けたとしても、顧客の荷物が水没することは避けられ、経営の危機は回避できる可能性があるわけです。

 

このように、減災対策は経営リスクの低減にもつながります。

社会的責任を履行する

企業は、地域住民や社会に貢献することも責務です。減災対策することは、社会的責任(CSR)を履行する上でも重要になります。

 

たとえば、減災対策をおこなって事業を継続することは、地域の雇用維持や供給責任を果たすことになります。

減災対策をして事業を早期復旧させることは、社会的責任の履行につながるといえます。

企業が取り組むべき減災対策

減災対策は身近なところから取り組むのがコツです。企業が取り組むべき減災対策について、ここでは下記の順番で紹介します。

 

・オフィス内の什器を固定する・配置を見直す

・企業の各拠点の災害リスクを把握する

・定期的に社内の点検をおこなう

・従業員の教育や訓練をおこなう

・災害時に必要な備蓄品を準備する

・緊急連絡網を作成する

・防災マニュアルを作成する

オフィス内の什器を固定する・配置を見直す

地震が発生すると什器が転倒・移動し、避難の遅れや什器の下敷きになるリスクがあります。地震の減災対策として、オフィス内にあるイスや棚などの什器の配置を見直して固定しましょう。

 

什器は下記のように配置・固定するのがポイントです。

 

・避難経路と出入り口には転倒・移動しやすい什器を置かない

・什器の上に物を置かない

・従業員のデスク周辺に背の高い什器を置かない

・高いところにある什器は壁や床に直接固定する

・窓ガラスにはガラス飛散フィルムを貼っておく

・避難誘導灯がどこからでも見えるようにレイアウトを見直す

 

オフィス内の什器の固定や配置は一人で決めないようにしましょう。機能性や効率性において、普段オフィスを使用している従業員の声も大切です。従業員と相談しながら什器の配置や固定をおこないましょう。

企業の各拠点の災害リスクを把握する

企業が減災対策をおこなう上で重要になるのは、災害リスクの把握です。企業の拠点がある場所によって災害リスクは異なります。

たとえば、海や山から遠い市街地なら土砂災害や津波のリスクは少ない一方で、地震による建物の倒壊や集中豪雨による浸水のリスクはあります。

 

その地域で危険度が少ない災害に対し、減災対策をおこなっても大きな効果は望めません。企業の各拠点の災害リスクは、ハザードマップで把握ができます。

 

まずはハザードマップから各拠点にどのような災害のリスクがあるか調べておきましょう。

定期的に社内の点検をおこなう

減災対策として、社内の定期点検をおこないましょう。点検のポイントは下記のとおりです。

 

・危険物施設の安全点検

・消火器、発電機などの防災器具が正しく使えるか

・建物の耐震性や、耐震補強の必要性を確認

・廊下や階段、非常口に障害物がないか

・備品やOA機器の転倒・落下を防止できているか

 

減災対策をしていても、災害発生時に機能しなければ効果がありません。災害発生時に正しく機能するかを確認するためにも点検をおこないましょう。

従業員の教育や訓練をおこなう

企業の減災対策においては、従業員の減災意識も重要です。

経営者がどれだけ減災対策に力を入れても、従業員の意識が変わらないと災害時の減災効果は下がります。従業員の減災意識を高めるためには、下記のような減災教育や訓練が効果的です。

 

・計画的に避難訓練をおこなう

・定期的に専門家を呼んで防災や減災セミナーを開催する

・地域の防災訓練に参加する

 

地域の防災訓練に参加することは、企業と地域の関係を深めることにもつながります。社会的責任を履行する上でも地域との関係を深めることは大切です。

 

また、減災対策の意識を高めるためには、たとえば下記のように従業員の役割分担を明確にするのも効果的です。

 

・消火班

・統括班

・避難、誘導班

・従業員支援班

・救出班

・救護班

・非常持ち出し班

災害時に必要な備蓄品を準備する

災害発生時は、オフィスが従業員の避難場所になる可能性もあります。オフィスで過ごすことになった場合に備えて、必要最低限の備蓄品を準備しておきましょう。

準備する備蓄品の量の目安は3日分です。

 

備蓄品の種類は下記のとおりです。

 

・水:一日一人あたり3リットル

・食料:一日一人あたり3食分

・毛布:一人あたり1枚

・懐中電灯:一人あたり1個

 

そのほか、乾電池や非常用電源、衛生用品なども必要になります。

緊急連絡網を作成する

緊急連絡網は災害が発生した際に、従業員の安否確認や情報共有のために必要です。事前に従業員の連絡先と連絡の流れをまとめておきましょう。

 

緊急時の連絡方法には大きく4つあります。

 

・電話

・メール

・SNS

・安否確認システム

 

災害の範囲が狭い場合は電話で対応できます。しかし、大規模災害になると電話が通じにくくなるため、メール、SNS、安否確認システムなどが連絡手段になります。連絡方法の順番も決めておきましょう。

なお安否確認システムとは、災害が発生した際に従業員の安否を確認するために、セキュリティ会社などが提供しているサポートツールです。

 

ちなみに災害時に広く使用される災害用伝言ダイヤル(171)は、家族・親戚・友人の安否確認を目的としています。そのため、従業員の安否確認は災害用伝言ダイヤル(171)を使用せず、安否確認システムを使いましょう。

防災マニュアルを作成する

災害発生時に円滑な避難や行動を取るためにも、防災マニュアルの作成をおすすめします。

防災マニュアルは、災害発生時の具体的な防災・減災対策を盛り込んだ手引書です。従業員と共有することで、災害発生時の行動や対応がスムーズになります。

 

防災マニュアルに盛り込む内容のポイントを下記にまとめています。

 

・災害発生時の役割分担や組織体制

・情報収集の方法や手段

・連絡体制

・初期対応や避難方法

 

ICTやAIの普及によって、防災・減災対策の方法は日々進化しています。防災マニュアルもアップデートが必要になるため、期間を決めて定期的に見直しましょう。

減災対策に取り組む企業の事例

減災対策に力を入れる企業が増えており、中には業種の強みを生かした減災対策に取り組む企業もあります。

減災対策に取り組む企業の事例を紹介します。

出典:内閣官房「国土強靭化 民間の取組事例集」

 

①    金融機関:水害に備えるボート訓練

南海トラフや豪雨によって浸水する可能性のある店舗において、水害用のゴムボートを配置して職員が実際にボートの漕ぎ方を学んで店舗対決をおこなうという取り組みをしています。

 

②    製造業:拠点工場の分散化

大規模地震において同時被災の可能性が低いエリアに新しい新工場を設立し、災害時に事業がストップすることを防ぐ取り組みをおこなっています。

大規模災害発生時でもほかの拠点の工場で事業の継続ができるため、事業停止や納期遅れへの対策となります。

 

③    建設業:自社のリソースを活用した避難訓練や初動体制の構築

火災時における避難シミュレーションシステムや耐震診断のための仕組みを開発してきたノウハウを、避難訓練や初動体制の構築に活かしています。

たとえば、従業員の自宅と会社間の徒歩移動時間を算出できるシステムから発災時にどれだけの従業員が初動に動員できるかという策定をおこなっています。

中小企業防災・減災投資促進税制によって税制措置を受けられる

企業の減災対策では、条件を満たすと「中小企業防災・減災投資促進税制」による税制措置が受けられる場合があります。

この措置は、減災対策のために導入した設備や備品にかかった費用の18%(令和7年4月1日以降は16%)を特別償却できるというものです。

出典:中小企業庁「中小企業防災・減災投資促進税制(特定事業継続力強化設備等の特別償却制度)の運用に係る実施要領」

 

中小企業防災・減災投資促進税制が適用されるのは下記のような事例です。

 

・停電によって事業が継続できなくなることを防ぐために自家発電機を購入

・地震による火災被害を防ぐために防火シャッターを購入

・地震による建物の損壊を防ぐために耐震設備を導入

 

中小企業防災・減災投資促進税制を上手に活用することで、減災対策を節税につなげることもできます。

まとめ

減災対策は従業員の安全の確保や事業継続のために重要な取り組みです。

これからも災害は必ず発生します。そして、災害による被害を完全に防ぐことはできません。

しかし、日ごろの減災対策で被害を軽減することはできます。きょう、あす起こるかもしれない災害に備えるためにも、まずはできるところから減災対策を始めていきましょう。

執筆者プロフィール:

田頭 孝志

気象予報士・防災士

アウトドア系の雑誌に気象コラムの執筆をはじめ、大手メディアでハザードマップの見方や異常気象に関する防災記事などを多数執筆。子どもから大人まで分かりやすい内容と好評。BS釣り番組でお天気コーナーを担当したほか、自治体、教育機関、企業向けに講演を多数 ・防災マニュアルの作成に参画。田頭気象予報士事務所の代表。

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