自然災害はいつどこで発生するかわかりません。災害発生時には従業員の安全を確保するとともに、会社が避難・待機場所になった場合に備えて防災備蓄品を用意しておく必要があります。

災害が発生したときに必要な防災備蓄品がどこにあるのかわからない状態を防ぐためにも、適切に保管することが求められます。

 

本記事では、企業が備えるべき防災備蓄品や、その調達・保管方法などをまとめています。

企業にとって防災備蓄品の重要性とは

企業が防災備蓄品を備える理由は、従業員の安全を確保するためです。

 

災害によって水道・電気・ガス・交通などのインフラが停止すると、従業員の避難・待機場所が事務所になることも想定されます。被害が大きくないように思えても、周辺の状況がわからない状態で従業員を帰宅させるのは危険です。

 

また災害発生時には、自治体や救急、消防などにより、被害状況の把握、避難所の設営、消火活動、救助活動といった対応がおこなわれます。企業が従業員を不用意に帰宅させることで道路や歩道に人があふれて、こういった活動の妨げになる場合もあります。

緊急対応を優先できる環境を作るためにも、企業は従業員をむやみに一斉帰宅させてはなりません。

 

そのため、企業は従業員の安全を確保できるまでの期間、事務所が生活の場になることを想定して防災備蓄品を用意しておく必要があります。

防災備蓄品に関する規則

企業が防災備蓄品を備えていなくても法律違反にはなりません。しかし、下記のように防災備蓄品の備えを促している条例も多くあります。

 

東京都帰宅困難者対策条例

大阪市防災・減災条例

愛知県帰宅困難者対策実施要項

福岡県備蓄基本計画

岡山市備蓄計画

 

条例による防災備蓄品の備えは、努力義務として義務付けられています。条例を守らずに防災備蓄品の備えを怠り、従業員に被害が発生した場合は、訴訟につながる可能性もあります。

 

また条例で定められていない場合でも、防災備蓄品を備えることは、企業として社会的責任を履行するために大切なことです。

 

災害発生時のトラブルを防ぐためにも、平時のうちに防災備蓄品を備えておきましょう。

会社が備えておくべき防災備蓄品の種類

会社が備えておくべき防災備蓄品を、種類別に詳しく紹介します。

 

・飲料水や備蓄水

・非常食や備蓄食などの食料品

・防寒具や電池などの機器

・衛生用品(簡易トイレや救護用品)

飲料水や備蓄水

飲料水は命を守るために重要です。飲料水がないと脱水症状を招くほか、水分不足で血流が悪くなる可能性があります。

また飲料水以外に生活用水も必要です。水で体を清潔に保つことは、衛生環境の悪化を防いでストレスを減らすメリットもあります。

 

水を備える場合、できれば5~10年間以上保存できる保存水をおすすめします。

保存水の賞味期限が長い理由は、通常のミネラルウォーターのペットボトルよりも厚いペットボトルが使われており、気体透過性が低く外部の空気と触れにくいためです。通常のミネラルウォーターと保存水で品質に変わりはありません。

非常食や備蓄食などの食料品

水と同様に、非常食や備蓄食などの食料品も重要です。災害が発生してすぐに食料が確保できるとは限りません。

食料を備える場合は、長期保存できるものや手間がかからないものを選びましょう。

 

非常食や備蓄食におすすめの食料は下記のようなものです。

 

・乾パン

・水を注ぐだけで食べられるアルファ米

・缶詰

・レトルト食品

・カップ麺

・クラッカー

 

アルファ米、レトルト食品、カップ麺などは調理に水やお湯が必要です。水やお湯の確保が難しい場合も想定し、調理が不要な乾パン・缶詰などを多く備えておくとよいでしょう。

防寒具や電池などの機器

防災で重要になるのが防寒対策です。特に冬季の災害で停電が発生すると、暖がとれずに低体温症になるリスクがあります。

寒さを軽減するためにも、一人1枚以上を目安に毛布を備えておきましょう。使い捨てのカイロや保温シートなどもあると便利です。

 

また、災害発生時の情報収集は主にスマホやラジオなどでおこないます。電池切れにならないように、電池・モバイルバッテリー・ポータブル電源などの機器を備えておきましょう。

 

・乾パン

・水を注ぐだけで食べられるアルファ米

・缶詰

・レトルト食品

・カップ麺

・クラッカー

 

アルファ米、レトルト食品、カップ麺などは調理に水やお湯が必要です。水やお湯の確保が難しい場合も想定し、調理が不要な乾パン・缶詰などを多く備えておくとよいでしょう。

衛生用品(簡易トイレや救護用品)

災害が発生すると、流通が滞ったりお店がオープンできなかったりといった理由で、衛生用品が一時的に手に入らなくなる可能性があります。

 

災害時には事務所が従業員の生活の場になることを想定し、衛生用品も防災備蓄品として備えておきましょう。

 

備えておきたい衛生用品の一例は下記のとおりです。

 

・簡易トイレ

・トイレットペーパー

・救急セット

・除菌シート

・マスク

・歯ブラシ

・タオル

・生理用品

 

衛生用品は命に直接かかわるものではありません。しかし、衛生用品で衛生環境の悪化を防ぐだけで、従業員のストレスが軽減される場合もあります。早いうちに備えておきましょう。

防災備蓄品の必要数の目安とは

防災備蓄品のうち、消耗品は多くの条例で最低3日分(推奨7日分)を想定して備えるように定められています。

 

必要数の目安は下記のとおりです(すべて従業員一人あたり)。

 

・水:1日3リットル

・食料:1日3食

・簡易トイレ:1日5回分

・トイレットペーパー:1日3ロール(ティッシュとしての代用も含む)

・マスク:1日1枚

 

ただし、防災備蓄品の必要量は地域性や従業員数などによって変わります。

 

たとえば、真夏の気温が40℃近くになる地域だと、1日3リットルの水では足りません。冬に積雪が多い地域だと、一人1枚の毛布では足りない可能性があります。

 

従業員が数十人を超える企業だと、人数分の防災備蓄品を置くスペースも考えなければなりません。できるだけ場所を取らないコンパクトな防災備蓄品選びが重要になります。

 

先ほどの目安をベースに、最終的には地域性や従業員数を考慮して備える量を決めましょう。

防災備蓄品の調達方法

企業が防災備蓄品を調達する方法には、主に下記の2つがあります。

 

・外部委託をおこなう

・自社で調達する

 

それぞれの調達方法のポイントを解説します。

外部委託をおこなう

防災備蓄品を外部に委託して調達・管理する場合、下記のようなメリットがあります。

 

・従業員数に応じて必要な防災備蓄品の調達を代行できる

・管理に手間がかからない

・賞味期限切れの食料や水を引き取ってくれる

 

外部委託の場合、基本的に防災のプロが企業を視察して、その会社が備えるべき防災備蓄品を決めるため、安心できます。

 

また、そもそも備蓄品は備えて終わりではありません。数や使用期限の管理も必要となります。特に従業員数が多く管理が難しくなる企業ほど、防災備蓄品の管理を含めて外部委託するメリットは大きいです。

 

一方で、外部委託には下記のようなデメリットもあります。

 

・余分なコストがかかる

・従業員による管理も必要

 

外部に委託するにはその分のコストがかかります。

また、防災備蓄品の管理は委託先がおこなうにしても、「どこに何がどれくらいあるか」の管理については従業員がおこなう必要があります。従業員による管理ができていないと、災害が発生したときに防災備蓄品を適切に使用できません。

自社で調達する

防災備蓄品を自社で調達するメリットは、以下のような点が挙げられます。

 

・余分なコストがかからない

・必要なものを必要な数だけ備えられる

 

委託する費用がかからないだけでなく、品物を取引先企業や安く買えるお店で調達できるので、コストをより安く抑えることができます。

 

一方で、自社調達にはデメリットもあります。

 

・在庫管理や機材の動作確認などの手間がかかる

・期限切れの飲料水や食料を廃棄する手間がかかる

 

在庫管理やポータルブル電源・ラジオの動作確認などを自社でおこなう必要があるため、手間がかかります。

ただし在庫管理は、必ずしも防災用品専用のシステムを導入しなくても、物品管理システムや在庫管理システムなどで代用が可能です。

 

また従業員が多い場合、賞味期限が切れた水や食料を廃棄するのも容易ではありません。

そうした場合には、下記で紹介するフードバンクやローリングストック法を活用するとよいでしょう。

フードバンクを活用する

賞味期限が近くなって使い道がない防災備蓄食料は、フードバンクに寄付することもできます。

 

フードバンクとは、廃棄が必要になる食料品をNPOなどが引き取り、食料を必要としている人に無償で提供する取り組みです。

 

インスタント食品、米、パン、菓子、飲料など、さまざまな食品が取り扱われています。フードバンクを利用することで廃棄を防ぎ、さらには社会貢献できるのもメリットです。

ローリングストック法を取り入れる

防災備蓄食料の賞味期限切れによる廃棄を防ぐためには、ローリングストック法もおすすめです。

 

ローリングストック法とは、賞味期限が近くなった食料を消費して新しい食料を新たに備える方法です。個人で防災備蓄品を備えるために広く使われている手法ですが、企業の備えにも応用ができます。

 

ローリングストックの流れは下記のようになります。

 

①    防災備蓄用の水・食料を購入する

②    「月に1回」や「半年に1回」など期間を決めて従業員が消費する

③    消費した分の防災備蓄食料を新たに購入する

 

ローリングストックをおこなうことで水や食料が定期的に新しいものに入れ替えられます。賞味期限が切れることもなく、廃棄を防ぐことができます。

 

企業で賞味期限のある防災備蓄品を消費する場合、企業独自の「防災の日」などを設定して、従業員で消費するのがおすすめです。また、従業員の家族に配布するのもよいでしょう。

 

ただし、ローリングストックをおこなう場合は定期的に防災備蓄品の購入・在庫管理が必要になるため、従業員の人数が多い場合は管理が難しくなるデメリットもあります。

防災備蓄品の保管場所と保管のポイント

防災備蓄品の保管場所は、従業員の目に見える場所に置くのがポイントです。従業員に防災備蓄品の存在を知らせるとともに、災害発生時には担当者でなくてもすぐに取り出すことができます。

 

防災備蓄品は複数の場所に分散して備えるのがコツです。一つの場所に集中すると、災害で取り出せなくなった場合に使えないためです。

 

具体的には下記のような場所がおすすめです。

 

・湿気が少なく水害の心配がないフロア

・小物は従業員のデスク

・事務所のフリースペース

 

また、保管する際は下記のポイントに注意しましょう。

 

・カビを防ぐために直接床には置かない

・段ボールに入れて保管する場合は乾燥剤を入れる

・スムーズに搬出できるように台車などを近くに置いておく

・避難通路の邪魔にならないように置く

 

経年劣化によっていざというときに使えなくなる防災備蓄品もあるため、点検は定期的におこなうことが大切です。

点検のタイミングは会社の防災訓練の日や大掃除の日など、事前に日程を決めておくと点検忘れを防げます。

また1年のうちで季節の変わり目とされる「3月1日」「6月1日」「9月1日」「12月1日」は「防災用品点検の日」と制定されています。この日にあわせて点検するのもよいでしょう。

まとめ

災害は発生してから被害の大きさがわかるものです。

防災備蓄品を備えていれば、想定外の被害が発生した場合に従業員を無理に帰すことなく、安全の確保ができるまで社内で待機・避難をさせることができます。従業員が安心して過ごすためにも防災備蓄品は欠かせません。

従業員の安全を確保するためにも、企業として防災備蓄品を備えましょう。

執筆者プロフィール:

田頭 孝志

気象予報士・防災士

アウトドア系の雑誌に気象コラムの執筆をはじめ、大手メディアでハザードマップの見方や異常気象に関する防災記事などを多数執筆。子どもから大人まで分かりやすい内容と好評。BS釣り番組でお天気コーナーを担当したほか、自治体、教育機関、企業向けに講演を多数 ・防災マニュアルの作成に参画。田頭気象予報士事務所の代表。

MKT-2024-513

「ここから変える。」メールマガジン

経営にまつわる課題、先駆者の事例などを定期的に配信しております。
ぜひ、お気軽にご登録ください。

お問い合わせ

パンフレットのご請求はこちら

保険商品についてのご相談はこちらから。
地域別に最寄りの担当をご紹介いたします。

キーワード

中小企業向けお役立ち情報