福利厚生に関する求職者ニーズの変化
働き方改革が進む中で、求職者は働きがいを感じられる企業や働きやすい企業を求めるようになりました。
特に若手はその傾向が強く、独立行政法人労働政策研究・研修機構による『企業における福利厚生施策の実態に関する調査』では、「現在の勤め先を選ぶときに、福利厚生制度の内容を重視したか」の設問において、「ある程度は重視」と回答した世代は、20歳代が43.9%(男性38.6%、女性47.0%)となり、各世代のうち最も高い数値を示しました。
また、「非常に重視」の回答も含めると、20歳未満は66.9%・20歳代は52.6%と高い数値を示し、若い年代の求職者は「福利厚生の充実」を企業選択の大切な判断軸にしていると考えられます。
「福利厚生の充実」をイメージさせる制度とは
労働保険や社会保険などの「法定福利費」は、従業員を雇用する事業主に負担が義務付けられています。
一方で、事業主が任意に設けて従業員に提供する独自の福利厚生が「法定外福利費」です。従業員や求職者にとっての「福利厚生の充実」は、法定外福利費に関わる福利厚生制度と言えます。
【法定外福利費とは?】
◆企業が任意で実施する従業員等向けの福祉施策の費用
◆施設の維持、修理営繕、運営のための一切の費用(建設費を除く)
◆慶弔金、現物給与、拠出金など金銭ならびに現物給付の会社負担額
<具体例>
■住宅関連:住宅・持家援助
■ライフサポート:給食、購買・ショッピング、被服、保険、介護、育児関連、ファミリーサポート、財産形成、通勤バス・駐車場、その他
■医療・健康:医療・保健衛生施設運営、ヘルスケアサポート など
一般社団法人日本経済団体連合会『第64回福利厚生費調査結果報告』における、従業員1人1ヵ月当たりの「2019年度福利厚生費等の項目別内訳」によると、法定外福利費は下記3項目が上位となりました。
▼住宅関連48.2%(11,639円)
▼ライフサポート22.8%(5,505円)
▼医療・健康13.2%(3,187円)
医療・健康に関わる福利厚生制度の充実がポイント
また、同調査内の「2019年度福利厚生費等の項目別内訳」では、従業員1名にかかる1ヶ月間の法定外福利費は24,125円とされています。
2018年度の25,369円からは微減しているものの、前年度との比較では、上位3項目のうち「医療・健康」だけが増加しました。
ちなみに、独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査では、従業員が「必要性が高いと思う制度・施策」について、
▼人間ドッグ受診の補助(21.8%)
▼慶弔休暇制度(20.0%)
▼家賃補助や住宅手当の支給(18.7%)
▼病気休暇(有給休暇以外)(18.5%)
▼病気休職制度(18.5%)
と、医療・健康に関わる項目が上位でした。働き方や自己啓発など、数ある福利厚生制度の中でも、「医療・健康」に関連した福利厚生制度の充実は従業員や求職者が重視しているポイントと考えられます。
病気になっても長く働ける福利厚生の必要性
医療・健康にかかわる福利厚生制度のニーズに応えるべく、企業は制度の充実に取り組んでいます。ここからは、医療・健康にかかわる福利厚生制度の導入を検討すべき理由を解説します。
従業員が病気・ケガを負うリスクは常にある
企業が従業員の健康管理に細心の注意を払っていたとしても、病気やケガを負うリスクはゼロにできません。
万一の事態に備えて補償のある保険に加入するなど、個人として対策をとる従業員も少なくないでしょう。
病気やケガにより休業を与儀なくされた場合に備え、企業が福利厚生としてのサポートを整えていれば、従業員は安心して業務に取り組めます。
従業員の休職時には賃金が支給されない
賃金は従業員やその家族の生活を維持するものです。ただし、労働基準法では「ノーワーク・ノーペイ」の原則のもと、賃金を「労働の対償」と定義しています。したがって、従業員が病気やケガで働けなくなった際には、賃金は支給されません。
病気やケガによる休業時には、収入が減少し治療費の負担が増す“ダブルパンチ”の状態になりがちです。従業員の不安を軽減できるように取り組む企業は、求職者にとって大きな魅力となるはずです。
安全配慮義務・増悪防止措置義務の違反
企業は「職場において従業員の心と身体の健康を害さないように配慮しなければならない」という安全配慮義務や、持病などを抱える従業員に「それ以上病気が悪化することがないように配慮しなければならない」という増悪防止措置の義務があります。
一方、従業員は病気やケガをしていても生活費を確保するために無理をして働き続けてしまったり、休業しても生活費の不足や解雇への不安から無理に職場復帰してしまったりすることが想定されます。
その結果、もし従業員の状態が悪化し退職せざるを得ない状況に追い込まれてしまえば、企業は安全配慮義務違反の責任を問われてしまう場合があります。
従業員が病気やケガを抱えてしまった際には、不安を軽減させるとともに治療に専念できる環境の整備が欠かせません。
公的補償だけでは生活費が足りない場合も
病気やケガで働けない従業員には、労災に該当する場合に休業(補償)給付が、労災以外の私傷病の場合には傷病手当金が支給されます。
これらの給付や手当金は非課税であるものの、給付金額は賃金を基準に算定されますが、賞与は算定に含まれないため、休業前の収入を100%補償しているわけではありません。
一方で、入院・通院・リハビリ時の費用は、治療費のほか、家族が付き添う際の交通費などさまざまな費用が発生します。そのため、公的給付だけでは生活費が不足してしまいがちです。
従業員が安心して働ける福利厚生制度の導入を検討しよう
大企業の場合、企業および企業グループが運営する健康保険組合に属する従業員の休業時には、独自に給付金が支給される場合があります。こうした企業独自の給付は多くの費用を要するため、自社単体での制度導入は容易ではありません。
中小企業の場合、例えば民間の保険各社が展開している従業員の休職時に給付金を支給する商品を導入することで、従業員が安心して働ける環境を提供できます。
そのほかにも、24時間電話対応の健康サポートなど、病気やケガを抱えた際に役立つサービスの利用を検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ
従業員や求職者にとって、安心して働ける福利厚生のニーズが高まっています。治療費を補てんできる保険や、病気やケガの悪化を防ぐサポートサービスの活用など、安心して働くための制度は魅力的です。
休業時の不安を解消する福利厚生の導入は従業員の定着につながり、求職者の目に留まる福利厚生として求人票内でアピールすることで、新たな人材の確保にも役立ちます。
一方で、こうした福利厚生の導入には、費用の増大・管理の煩雑さ・全従業員を満足させることの難しさなどのデメリットもあります。
より多くの従業員や求職者のニーズを満たす、魅力的な制度の導入ができるように各社の商品を検討しましょう。
出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構『企業における福利厚生施策の実態に関する調査』
出典:一般社団法人日本経済団体連合会『第64回福利厚生費調査結果報告』
執筆者プロフィール:
菅田 芳恵
社会保険労務士・キャリアコンサルタント・ファイナンシャルプランナー・産業カウンセラー
グッドライフ設計塾 代表
証券会社、銀行、生保、コンサルティング会社勤務後、独立開業。49歳から2年間で社会保険労務士やファイナンシャルプランナーの資格など7つの資格を取得。現在は13の資格を活かして、コンサルティングや研修、セミナーの講師、カウンセリング等幅広く行っている。最近では企業のハラスメントやメンタルヘルスの研修、ワークライフバランスの推進、女性の活躍促進事業等で活躍している。
MKT-2024-507