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1 データで見る新型コロナウイルスと労災認定の現状
厚生労働省の資料によると、令和3年3月12日現在、新型コロナウイルス感染症に関する労災請求件数は、請求件数6737件、決定件数3351件、うち支給件数3168件と公表されています。
現在、厚生労働省では、感染防止の観点から、新型コロナウイルスへの感染を理由とする労働災害の実態を把握することが重要であるとして、医療従事者だけではなく、すべての業種の事業者に対し、業務での感染が疑われる場合には、積極的に労災申請の手続きを従業員に周知し、感染防止策を徹底するよう求めています。
このため、使用者には、新型コロナウイルスに関する労災認定について、基本的な実務の運用を理解するとともに、労働者へ周知し、併せて労働者の安全・健康を守る観点から、クラスターの発生防止等を含めた職場環境づくりをすることが求められています。
本コラムでは、新型コロナウイルスに関する労災認定の基本的な考え方及び実際の認定事例を確認したうえで、企業として求められる対策について概要を解説いたします。
2 新型コロナウイルスに関する労災認定の考え方
(1)労災認定の概要
まず、前提となる労災保険の概要から見ていくことにしましょう。労災保険とは、「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」という「業務災害」が生じた場合に、必要な労災保険給付を行うものです。通常、「業務上」と言えるかどうかについては、業務と災害の発生との間及び災害発生と負傷等との間に相当因果関係があるかどうかで判断されます。
(2)新型コロナウイルスに関する労災認定
現在、厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、新型コロナウイルスに係る労災認定については、2つの通達を発出しており、同通達を踏まえ、認定実務が行われています。
まず、令和2年2月3日付基補発0203第1号では、「一般に、細菌、ウイルス等の病原体の感染を原因として発症した疾患にかかる業務上外の判断については、個別の事案ごとに感染経路、業務又は通勤との関連性等の実情を踏まえ、業務又は通勤に起因して発症したと認められる場合には、労災保険給付の対象となる」としたうえで、新型コロナウイルス感染が労災保険給付の対象となることを前提に、慎重な判断を行う旨が示されました。
そして、同年4月28日付基補発0428第1号では、国内の場合の具体的な取扱いとして、以下のとおり、判断を行う旨が示されました。
このうち、「ウ(ア)複数(請求人を含む)の感染者が確認された労働環境課での業務」とは、請求人を含め、2人以上の感染が確認された場合をいい、請求人以外の他の労働者が感染している場合のほか、例えば、施設利用者が感染している場合等を想定しているとされています(厚生労働省:新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)(令和2年5月12日時点版))。
3 実際の労災認定事例
それでは、厚生労働省が公表をしている「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る労災認定事例」から、実際に労災認定がされた具体例について、見ていくことにしましょう(以下の表は、同資料から抜粋・引用したものとなります)。
まず、医療従事者等以外の労働者であって感染経路が特定された場合(上記イ)としては、以下の事例が紹介されています。
次に、感染経路が特定されない場合の事例のうち、複数(請求人を含む)の感染者が感染された労働環境下での業務(上記ウ(ア))については、以下の事例が紹介されています。
このように、感染経路が特定された場合はもちろん、特定がされていない場合でも、感染リスクが相対的に高いと考えられる労働環境下での業務に従事しており、私生活での行動等から一般生活で感染するリスクが非常に低い状況であったことが認められる場合には、実務上、労災認定が認められています。
4 企業としての必要な対策~従業員の健康・安全を守るために~
企業としては、前述した新型コロナウイルスに関する労災認定について、基本的な内容を把握し、従業員に周知するとともに、従業員の健康・安全を守る観点から、新型コロナウイルスに対する会社としての対応方針を策定し、感染症の拡大、さらには職場におけるクラスターの発生を防止するため、必要な措置を講ずることが求められています。
厚生労働省では、「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト」を公表し、基本的な対策について確認をするとともに、クラスター発生防止のための対策についても言及しており、参考になります。
前回のコラムでも指摘をしたとおり、職場環境の整備や労務管理を怠ると、従業員から安全配慮義務違反を問われるなどのリスクが生じます。
新型コロナウイルスへの感染を完全に防ぐことはできませんが、感染発生後の感染拡大、さらには事業への影響については、迅速かつ適切な対応をすることで、最小化することが可能となります。
いつ発生するか分からない問題だからこそ、発生を想定した事前の準備・対策が求められています。
(このコラムの内容は、令和3年3月現在の法令等を前提にしております)。
(執筆)五常総合法律事務所
MKT-2021-505
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