お客さまと保険会社とをつなぐ、大切な役割を果たしている保険代理店。そのなかでも保険代理業を専業とし、保険商品のみならず、お客さまが直面し得るさまざまなリスクのことも熟知し、ビジネスパートナーとしてサポートするのが、「プロ代理店」と呼ばれる方たちです。

 

本連載では、プロ代理店がお客さまの課題をどのように解決しているのか、その実例とともに紹介します。

 

第六回となる今回は、宮城県仙台市にある有限会社末広(以下、末広)代表取締役 細川博康さん。1991年創業の末広はさまざまな業界のお客さまを抱えていますが、特に社会インフラを支える地下埋設物関連の業界に強みを持っています。さらに東北地方という土地柄、東日本大震災や豪雨災害などを経験し、自然災害による被害に備える提案にも力を入れてきました。仕事に対する考え方に加え、お客さまのリスク事例や今後の展望についても伺いました。

お客さまに安心していただくのが代理店の務め

——細川さんは大学時代から保険と縁があったそうですね。当時のエピソードを伺いたいです。

 

大きくふたつあり、ひとつめは「保険論」という授業を取っていたことです。保険に特別な興味があったわけではなく、評判を聞いて履修しました。小中高と保険について勉強する機会がなかったため、最初の講義で学んだ海上保険が近代保険の起源であることをはじめ、すべてが新鮮でした。

 

ふたつめは交通事故に遭ったことです。バイクで通学中に、前方不注視の車にはねられ、大けがをして3ヶ月間入院し、1年間休学しました。相手は自賠責保険のみで、任意保険には加入していませんでした。示談が成立しましたが、この経験を通じて保険の重要性を痛感しました。

――とても大変な出来事でしたね。大学卒業後は商事会社に就職し、保険代理業とは異なる業界で働いてきました。その後、保険代理業へ転職した経緯を教えてください。

 

その頃、父は多忙で、母は心臓の病気を抱えていました。そんな両親を見ていると離れて暮らすのが心配で、「家族のそばで仕事をしたい」という思いが強くなっていったんです。物理的に近いところにいれば、何かあったときにいつでも駆けつけられますから。そこで、転勤がない・地元で働ける・将来的には独立も考えられるという3つの条件で仕事を探すうちに、AIU(*1)との出会いがありました。他の保険会社からも内定をいただいていましたが、外資系企業で経験を積むことを選び、現在のICA社員(*2)として入社して5年勤務しました。

*1 AIU保険会社。2018年に富士火災と統合し現在のAIG損害保険となる。

*2 AIG損保が1964年に業界の先陣を切って開発したプロ代理店(プロフェッショナル・エージェント)の養成制度(ICA社員制度)で、研修生は最長5年間のトレーニングと実務経験により必要な知識と営業力を身につけます。本制度開始以来、数千のプロ代理店を輩出しています。詳しくはこちらをご覧ください。

――その後、独立を果たし、社名は末広に。縁起のいい「末広がり」を連想しましたが、社名の由来を伺いたいです。

 

「末広」は私にとって特別な意味を持っています。祖母が昔、飲食店を営んでいたんです。私が10歳くらいのころに亡くなりましたが、当時は合資会社末広という会社を立ち上げたばかりでした。幼い頃からおばあちゃんっ子だったものですから、働く祖母を見て憧れもありましたし、自分が独立する際は末広を社名にしたいと強く思っていたんです。

 

今では保険代理店として認知を得ていますが、独立したばかりの頃は「ラーメンを注文したいのですが」といった電話が来たこともありました(笑)。末広と聞くと中華料理店をイメージする人もいたのでしょう。

独立3年目に制作したオリジナルバッジ

末広という社名にちなみ、かつ仕事への向き合い方を表現するオリジナルバッジを30年前に作りました。当時の合資会社末広は、扇子(扇形)のロゴデザインを使用していましたが、保険代理店の末広では逆さまの末広がりにデザインしました。その理由は「当社が先頭に立ってお客さまを支え、安心していただきたい」という思いからです。この考えは今も変わらず、日々の業務に常に反映させています。

――独立して33年が経ちますが、業務に対する初心は変わっていないのですね。現在は10人の社員を抱えながら、細川さん自身も現場に出てお客さま対応をしています。お客さまとお話をするとき、どんなことを意識しているか伺いたいです。

 

顧客対応を含むすべての業務に対し、地道で丁寧なアプローチを続けてきました。私たちの仕事の中で特に重要なのは保険の満期管理です。

 

お客さまには保険が満期を迎える前に、保険を更新するか見直すかを入念に検討いただく必要があります。それだけでなく当社を信頼してくださるお客さまにご迷惑をかけることのないよう、すべての業務に対し慎重に向き合っています。

 

事故が発生した際の保険金請求手続きも、必要な情報を正確に伝え、完璧な書類を提出するよう努めています。私自身も最終確認を行い、細部に至るまでの対応を徹底することで、書類の手戻りがなく、事故の査定がスムーズに進みます。これにより、お客さまには迅速な対応を提供できて喜んでいただけます。

「直接会うこと」を大事に、日頃からお客さまに安心を届ける

——日々の地道なお仕事が良いサービスの提供につながっているんですね。御社では法人顧客向けに、あらゆるリスクを想定した上で、事業の継続に必要な保険を用意しています。中でも目立って多い業種・業界はあるのでしょうか。

 

地下埋設物関連業界、具体的には下水道本管工事や排水管の更生工事、地下インフラの管路調査や補修・清掃など私たちの生活になくてはならない事業を行うお客さまが多いです。リスクマネジメントがまだ充分に行われていないこれらのややニッチな分野へのアプローチを強化し、現在に至っています。

――同じ業界であってもお客さまは一社一社、異なるリスクや悩みを抱えておられます。お客さまとのやりとりの中で意識して、実際に行っていることを具体的に教えてください。

 

対面でのコミュニケーションを重視しており、契約時以外にもお客さまの会社を訪問し、接点を作ることでお客さまとの関係を深めています。

 

自動車保険に加入しているお客さまが多いため、「フリート契約」や「ノンフリート契約」(*3)に関わらず、訪問時には新しく追加された車両の確認を行います。とくに、車検証のない建設機械が新たに導入されている場合、自賠責保険への加入を提案します。公道を走らない構内専用車でも、万一の事故発生時には自賠責保険が重要な役割を果たします。こうして現場を直接目で見て話を聞くことで、最新の状況や正確な情報を得られ、お客さまのリスクを減らすことに貢献できていると確信しています。

*3「フリート契約」とは、所有・使用自動車の台数が10台以上の契約をいいます。「ノンフリート契約」とは、自動車の台数が1~9台の契約をいいます。

また、社用車は会社の看板を背負っており、事故発生時には運転者だけでなく会社にも道義的な責任が問われます。そのため、運転に際しては特に横断歩道や子どもがいる場所での注意を促すなど、お客さまの会社やそこで働く社員、その家族を守るためのアドバイスは欠かせません。

――お客さまと日頃から密にコミュニケーションを図り、信頼される状態をつくっておられると感じます。お客さまにとって必要なタイミングで、御社を想起して頼っていただく状態をつくるため、ほかに平時から取り組んでいることはありますか。

 

お客さまに日常的な安心を提供することを心がけています。そのための取り組みとして、専用アプリの提供があります。このアプリでは、事故や火災が発生した際に必要な連絡先や行動マニュアルを確認できます。さらに、当社からの最新情報をお知らせする機能も備えており、当社と直接連絡が取れない状況でも、お客さまがスムーズに初期対応できるよう支援しています。

 

また、フリート契約をしていただいたお客さまには、事故発生時やレッカー移動が必要な場合の連絡先ステッカーをお渡ししています。それを車両に貼ったり車内に保管したりすることで、緊急時に迅速に対応していただけます。このような地道な活動が功を奏しているためか、ありがたいことに多くの法人のお客さまに、お取引を長く継続していただいています。

迅速な事故対応を心がけ、お客さまの事業継続を支える

——「地域密着を目指し地域の方々と共に歩み信頼を受けるプロの代理店となる」という企業理念をもとに御社が日々向き合ってきた、お客さまの具体的なリスク事例について教えてください。

 

さまざまな事例に対応してきましたが、特に印象深かったのは東日本大震災時の対応です。この大災害では、地震や津波の影響で15,000人以上の方々が亡くなり、行方不明者はいまだに2,500人にものぼります。私たちのお客さまの中にも海沿いにいた方々が多く、当時は心が痛む場面に幾度となく遭遇し、仕事をしながら涙が止まらない日々を過ごしました。

 

この震災に関連する事例をお話しします。津波によってお客さまの施設が破壊されたケースです。当時現場で働いていた従業員のみなさまは、たまたま建屋の骨組みにつかまることができて助かりました。緊急車両で駆けつけた私は、壊滅的な被災状況を目の当たりにしました。

 

被災施設の写真を撮影し、保険金請求手続きを進め、災害発生から1ヶ月で支払いが完了しました。スピード感のある支払いにより、お客さまは施設の復旧を速やかに進めることができ、それからはさらなる設備投資をして成長しています。

 

また、他の事例としては、勢力の強い台風が来て大雨が降ったとき、お客さまが管理している下水処理施設の操作を誤り、汚水が道路から周囲に溢れ出ました。その現場も壮絶な状況でしたが、私を見てお客さまは安心してくださるのです。私自身も現場に行かないと分からないことが多いため、現場を見ながらお客さまと会話し、五感で状況を把握することを重視しています。

 

このケースも、保険金を速やかに受け取っていただけて、経営者や社員のみなさまから喜んでいただけました。

——今お話しいただいたような地震や豪雨など、自然災害が多発する昨今、事業者が所有する財産を取り巻くリスクは多様化しています。リスクコンサルティングをするにあたって、どんなことを大事にしていますか。

 

異常気象による災害や地震など、リスクは日々変化し拡大しています。温暖化や豪雨、地震などは、みなさんがニュースでも接する身近な話でもあります。それらの話題を通じて注意喚起し、関連する保険や保険加入によって得られる安心についてご紹介するよう努めています。

 

 

また、事業所が川沿いにあるお客さまには、水災特約を含む保険への加入を推奨しています。水災は意外な盲点で、多くのお客さまが既存の保険に水災補償が含まれていると思い込んでいますが、水災特約を外して加入しているケースも良く目にするため、保険の内容を見直すことを助言しています。

 

具体的には、事業者の財産に対する直接損害に加え、利益損失や営業継続に要する費用などの間接損害も補償する保険、ゲリラ豪雨や都市型水害、地震災害などの自然災害に対する補償が充実した保険なども、丁寧に説明した上でおすすめしています。

 

特にフルカバータイプの保険を推奨するのは、お客さまにとってさまざまな小さなリスクをカバーし、万一の事態にも対応できるようにするためです。事故や災害が起こった際には、お客さまに「保険金のご請求手続きをすぐに進めますので、ご安心ください」とお伝えし、できるだけ早く元の生活に戻っていただくことを目指しています。

地域で信頼される保険代理店でありたい

——金融庁が公表している「顧客本位の業務運営に関する原則」を採択し、同原則を踏まえて「お客さまとの約束」および「『お客さま本位』による業務の実践に向けて」という方針を策定したり、事業継続力強化計画認定事業者になったりと、新たな挑戦も積極的に行っています。これらの挑戦の背景、また知見を用いてお客さまにどのようなご支援を行っていきたいかを教えてください。

 

この先もお客さまの繁栄と幸せを総合的にサポートしていく目的で策定しました。私たちがこれまでに築いて守ってきた企業理念やお客さまとの約束に、金融庁の顧客業務運営のPDCAを組み込んでいきました。「顧客本位の業務運営に関する原則」に基づき「金融事業者リスト」(*4)に掲載されるまでには、新型コロナの影響もあり約3年を要しました。この過程を通じて、お客さまへの的確な情報提供と問題解決を図るよい方針が形成されたと自負しています。

*4 金融庁では「金融事業者における顧客本位の業務運営のさらなる浸透・定着に向けた取組みについて」の一環として、「金融事業者リスト」を金融庁Webサイトで公表し、金融事業者における顧客本位の業務運営への取組みの見える化に努めている。

また、事業継続力強化計画認定事業者として、お客さまの事業継続力強化計画の申請サポートも行っています。事業継続力強化計画の認定を受けることは多くのメリットをもたらします。自社の自然災害リスクや対応策について申請書に記載する必要があるため、この過程でリスクの認識や対策の計画が具体化します。これにより自然災害への意識が高まり、より強固な対策を講じられるようになるのです。そのことはお客さまの事業継続にも関わってくるため、申請時に悩まれているお客さまがいらしたら、私たちのノウハウをお伝えして支援し、貢献したいと考えています。

――最後に、今後の展望について伺います。プロ代理店としてどうありたいか、それによりどんな社会貢献をしていきたいか、また、そのために取り組んでいることを教えてください。

 

私たちはお客さまから信頼されるプロ代理店であり続けることを目指し、リスクマネジメントの品質向上を常に意識しています。そのために、毎週木曜日の16時から勉強会を実施し、加えて月に一度、損害査定の専門家を招いた勉強会も行っています。公的保険や労災保険を含む多様な情報を習得することで、個々のお客さまに適したリスクマネジメントを提供できるよう努めているのです。

 

今後のことを考えて、組織体制も少しずつ変えていっています。少し前、AIG損保での研修を終えた息子が当社に入社しました。当社にはベテラン社員が多いのですが、今後は30代の若手を数人迎えて息子が核となる若いチームを結成し、事業の拡大と世代交代とともに事業の継承を図っていきます。

 

若い人の力を取り入れることで、ベテランとは異なる視点で新しいリスクへのアプローチが可能になり、お客さまにさらなる価値を提供できると信じています。

 

お客さまのおかげで自分たちがあることに感謝し、今後も引き続き信頼される保険代理店として質の高いサービスを提供していきます。

細川博康

1959年生まれ

宮城県仙台市出身。1991年に有限会社末広を設立し、代表取締役就任。

MKT-2024-516

「ここから変える。」メールマガジン

経営にまつわる課題、先駆者の事例などを定期的に配信しております。
ぜひ、お気軽にご登録ください。

関連記事

お問い合わせ

パンフレットのご請求はこちら

保険商品についてのご相談はこちらから。
地域別に最寄りの担当をご紹介いたします。

キーワード

中小企業向けお役立ち情報