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お客さまと保険会社とをつなぐ、大切な役割を果たしている保険代理店。そのなかでも保険代理業を専業とし、保険商品のみならず、お客さまが直面し得るさまざまなリスクのことも熟知し、ビジネスパートナーとしてサポートするのが、「プロ代理店」と呼ばれる方たちです。
本連載では、プロ代理店がお客さまの課題をどのように解決しているのか、その実例とともに紹介します。
第三回となる今回は、福岡県福岡市にあるジェイアイシー九州株式会社 代表取締役 吉村充洋さん。ジェイアイシー九州は、東京に本社がある株式会社ジェイアイシーの九州を管轄するグループ会社の一社。福祉保険のパイオニアとして歩んできた経緯をはじめ、福祉保険ならではのリスクや活用事例、さらには今後の展望を伺いました。
本当に必要な方へ必要な保険を……
――具体的にどのような保険を取り扱っているのか教えてください。
保険代理店によって注力する業界は異なると思いますが、中でも私たちは福祉業界に特化し、事業を行っています。
福祉業界といっても幅広いのですが、私たちは「知的障がいのある方向けの保険」と「福祉施設向けの保険」を取り扱っています。
「知的障がいのある方向けの保険」のなかでも弊社が取り扱う大きな2つの保険が、『特別支援学校 知的障害教育校総合補償制度』と『生活サポート総合補償制度』です。
そもそも、知的障がいのある方は一般的な保険加入に制限がある場合が多いです。そこで、「障がいがある子たちのケガや他人への賠償に備える保険が必要だ」と考えたのがジェイアイシーグループの創業者(現会長)の小倉でした。
小倉の働きかけの結果、まず生まれたのが『特別支援学校 知的障害教育校総合補償制度』です。これにより、お子さんたちの補償を提供することができました。
その後、「病気で入院した時の補償を行う保険制度を何としても設立しなければ」という想いから、AIU*・全国知的障害者生活サポート協会・そしてジェイアイシーの3者が一体となって『生活サポート総合補償制度』の設立に向けて動き、2006年に保険制度が誕生しました。
この2つの補償制度によって、万一のことがあった際に障がいのある方やご家族の負担を極力軽減させることができるようになりました。
*AIU保険会社。2018年に富士火災と統合し現在のAIG損害保険となる。
――障がいのある方とない方で、補償内容に違いなどはあるのでしょうか。
契約形態は違いますが、補償内容は大きく変わることはありません。個人のお客さまの場合、病気やケガの補償、また他人にケガを負わせてしまったときの賠償保険などが主な内容になりますが、障がいのある方もない方も、生活上のリスクは何も変わらないからです。
また、福祉施設を運営する社会福祉法人の場合も、一般的な法人と補償内容は変わりません。社用車のための自動車保険、建物の火災保険、従業員の労災保険の上乗せ補償などがあると安心ですよね。
このように、私たちは今まで保険に入れなかった障がいのある方と、それを支える社会福祉法人が安心して過ごせるよう保険の面からサポートしています。
――創業者の想いを受け継ぐ形で、吉村社長を含め社員のみなさんで仕事をしていらっしゃるのですね。
はい、そうですね。社員全員で想いを引き継いでいます。といっても、私も最初から障がいがある方々の状況や日常をわかっていたわけではありません。創業者からジェイアイシー九州株式会社の代表をやってみないかと打診があり、引き受けたときに初めて知ったのです。私がこの業界に入った当時は、福祉施設に何度も通って実際の現場を見せていただいたり、福祉関連の法律に関わる多くの書籍を読んだりしました。
現在でも日々、施設の方々からのご相談に耳を傾けたり、施設の状況をお聞きしたりしています。さまざまな施設の声をお聞きすることで「ここの施設ではこんな取り組みをしていましたよ」という良い事例をまた別のお客さまにお伝えすることができ、喜ばれています。
知的障がいがある方々や施設の方々に普段から接し、少しずつ理解を深めていったことで、法制度や施設運営の仕組みの深い部分までを熟知できるようになったと感じています。
創業者と同じように「障がいのある方々が安心して暮らすためにこの保険はなくてはならないもの」と思うようになりました。もちろん、今もその思いは変わっていません。
リスクに向き合い、リスクをできる限り軽減する取り組み
――福祉業界だからこそ起こりうるリスク、また備えておくべきリスクというものはありますか?
先程お話したように、病気やケガのリスクは障がいがある方とない方で変わりませんが、気を付けなければいけないのが、他人の物をこわしてしまった、他人をケガさせてしまったといういわゆる賠償に関わるリスクです。
例えば、自閉症のお子さんたちはこだわりがものすごく強いので、毎日決まった場所に決まったものがある、これが日常です。
しかしたまたま掃除等で物が動かされていたりすると、日常と異なるのでパニックになってしまい、物をこわしてしまったり、他人にケガをさせてしまったり、自分もケガをしてしまうというようなことが起きてしまうことがあるのです。そのため賠償保険の必要性は高いと感じます。
――そういうリスクがあるのですね。
そうですね。もちろん、賠償をすればそれは金銭的にはある程度解決できますが、心や体に負った傷までは癒すことができません。だからこそ、いかにケガをしないように周りの人がウォッチするか、どういったところに危険があるのか、そういったことを事前に予測しておく必要があるのです。
これを「危険予知トレーニング」(KYT)と呼ぶのですが、定期的に施設の職員の方々に集まっていただいて、KYTの勉強会を開くことも行っております。
――施設の方々の反応はいかがですか?
おかげさまで、とても良い反応をいただいています。当然、施設の方々は普段からかなり気を付けて運営をされているんです。子どもたちがケガをしないように、あらゆる対策を取っていらっしゃるのですが、それでも時々、私どものような全然違う視点が入ると、「そこは気づかなかった」、また「他の施設はこうしてるんだ、という気づきにもなる」という声をいただいたりします。
私たちもなるべく健やかに、ケガや病気がなく過ごしてほしいとの想いでサポートしています。
――他にも行っている取り組みがあれば教えてください。
2つの活動を行っています。
ひとつは、障がいのある子どもの親御さんへのセミナーの開催です。
例えば、特別支援学校を卒業した後、障がいのある方向けの支援施設に入るのか、自宅から就労支援を行っている施設に通い軽作業をするのか。あるいはグループホームに入って共同生活をするのか。そういった卒業後のプランをより具体的に考える機会を設けさせていただいております。
また、障がいのある方は20歳を迎えると障害者年金を受給できるので、その申請方法をご説明するセミナーを開くこともあります。セミナーは学校で行ったり、施設で行ったりと場所はさまざまで、保険商品を紹介させていただくこともあります。
もう一つはビジネス・コンティニュイティ・プラン(Business Continuity Plan)、いわゆるBCPと言われるものです。
BCPとは、災害等が起こった時に事業を継続していくためのプランのこと。それまでは、地震が起こった際には「何となくこうしよう」と曖昧にしている施設も多くありました。
しかし、それでは万一のときに業務に支障が生じる場合があります。そこで、災害時における基本方針や、指示系統の設定、対策本部の設置の有無など必要項目をひな形にし、施設に提供したのです。実際、九州で水災があった際、多くの施設で「このひな形があって助かったわ」「こういう項目に気を付ければいいのね」という感謝のお言葉をいただきました。
日常の中で起こる「重大な」リスクに備える
――具体的なリスクの事例について、教えてください。
私たちが受ける報告の多くは、施設の中で起こる事故によるものです。以前、こんなことがありました。
AさんとBさんが施設の中で遊んでいたのです。座布団の上に1人が立ち、もう一人がそれを引っ張る。そうすると立っていた子はごろんと転ぶ。それをお互いやりあって遊んでいたのです。引っ張った時に転ぶのがお互い面白かったんでしょう。しかし、Aさんが引っ張ったときに、たまたまBさんの打ちどころが悪くて、その後寝たきりになってしまったのです。
施設と、AIG損保と被害者の方を交えて交渉すること約5年。最終的には両者が納得する形で合意となりました。高額な保険金支払いになりましたが、そういった命に関わる事故が実際に起こることを常に意識しておかなければならないと感じています。
また、こんな事例もありました。
あるお子さんが2階から飛び降り足を複雑骨折してしまったことがあったのです。施設は窓に柵を付け、「それでも飛び降りる子がいるかもしれない」と考え、2階の下を人工芝で覆い、できるだけケガをしないように対応していました。考えうる万全の対策をしていたにもかかわらず、運悪く人工芝が無いところに飛び降りて骨折してしまったため、親御さんが施設を訴えたのです。
――どのように解決に至ったのでしょうか?
社会福祉法人で契約しているAIG損保の支払い担当者と弁護士も加わり、解決に向けて話し合いを進めていきました。
私どもには細かな賠償額の決定や過失割合などは判定できませんが、そういった重大なリスクが起こった後の対応を知っているからこそ、お客さまに「万が一の備え」をきちっとした形で提案することができます。
また、昨今ではこうした利用者の方々に関連したリスクだけではなく、「従業員が抱えるリスク」にも経営者は配慮しておく必要があります。ケガをしたときのために備える任意労災保険、業務中に発生してしまう賠償責任などのリスクは、他の企業と変わりません。
その中で近年、増えているのが「メンタル面で会社を休職・離職してしまった際に備える保険」の加入です。障がいのある方向けの施設で働かれる方は「誰かの役に立ちたい」と思われる方が多いので、その分仕事のストレスを抱えてしまってメンタルを病んでしまう人もいらっしゃいます。保険がお役に立つ機会が増えていると感じますね。
障がいのある方と、そのご家族が安心して暮らすために
――保険代理店として福祉業界に特化してきた想いを改めて聞かせてください。
福祉業界は高い専門性を求められます。私たちは30年超にわたって知的障がいのある方や施設に関わり、現場でさまざまなことを教わってまいりました。例えば、同じ障がいであっても、一人ひとり特性は異なること。こだわりについても強い弱いの程度差があること。それぞれ得意なこと、苦手なことがあり、それが個性であること。障がいのある方々が健やかに過ごしていくことを助けるためにはどうすればいいか。そのためには、親御さんや施設のスタッフの方々と常に対話を重ね、「専門性を高めていくこと」が欠かせません。
一つひとつの事例、というのではなく「一人ひとり」と向き合うことが何より大事な業界だからこそ、私たちは福祉一筋でその道のプロとなるべく、研鑽を重ねていきたいと考え、特化していく道を選びました。
お医者さんにも専門医がいらっしゃるように、私たちもまた「福祉業界の専門医」的な立場になりたいと思っているのです。
また、「福祉業界に特化したい」というのは私自身の強い希望でもあります。障がいのある方々のことを知るようになってから、保険が本当に「頼みの綱」となっていると感じる機会が格段に増えました。と同時に保護者の方、契約者の方からかけていただく「ありがとう」という言葉は何よりも重く、また力をいただく源でもあります。
この想いはおそらく今後も変わることはないでしょう。それくらい、この福祉業界で真摯にお客さまと向き合っていきたいと思っているのです。
――御社やAIG損保の代理店が高い専門性をもってお客さまに臨み、リスクの解決策を提案されているのが非常によくわかりました。最後に、今後の吉村社長の展望、会社として描きたい未来を教えてください。
今後、「福祉業界の保険といえばジェイアイシー」と言ってもらえるくらいの信頼をお客さまから得ること。そのためには、もっと知識や情報を蓄えて、いざというときだけでなく、日頃から障がいのある方や施設に寄り添える体制でいなければなりません。
障がいのある方やその親御さん、福祉施設の方々を、可能な限りサポートしていくことで「大丈夫、みんな幸せ」と呼べる体制をつくる。それこそが弊社の目指すべきところでもあり、弊社の理念です。
福祉業界は法律や制度など複雑なものが多く、万一リスクがあったときに「誰に相談すればいいのだろう?」と困ってしまう場面も多いのです。そういったときに、相談していただき、必要なアドバイスをすることができれば、親御さんや施設のスタッフの方々は安心してお子さんたちと向き合うことができます。「みんな幸せ」という「みんな」とは障がいのある方はもちろん、その周りにいる人々みなさんが幸せになること、それが大事なことだと思っています。
それからもう一つ、親御さんの中で一番多い生の声は、「私たちが死んでからこの子はどうなるのだろう。一人になるこの子のために今のうちに何ができるのだろう」というものです。
これを解決する方法というのはまだ見つけられていないのですが、少しでも何らかの形でその心配を和らげて差し上げる方法を日々考えて、一生懸命に仕事をしています。
日々生きるのが精一杯でも、未来に向けての「転ばぬ先の杖」をAIGとともに提案していくことが弊社の重要な役目であり、今後もお客さまの立場に立って「どんなサポートを必要としているのか」を考えながら、よりよい社会を作っていけるよう日々研鑽してまいります。
多くの方は、普段、障がいのある方の日常を知る機会や施設に行く機会はあまりないと思います。しかし、社会には障がいのある方やその方をサポートする方々がいるということをひとりでも多くの方に知っていただきたいと思っています。
同じ社会で生きている、ということがわかれば、例えば「駐車場の車いすマークには停車しない」「ヘルプマークの方に席を譲る」といった行動に繋がるのではないでしょうか。こういった行動をみんなで少しずつ進めていけば、社会はもっとやさしく生きやすくなるのではないかと考えています。
私たちは福祉業界での活動を通して、「誰もが生きやすい社会」の実現へ歩みを進めていきたいと思っています。
吉村充洋
1965年生まれ
山口県岩国市出身。心身に障がいのある方々の保険のパイオニアとして、九州より全国各地の関係団体を窓口とし補償システムの開発とご提供を行う。
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