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1.PL保険でカバーされないリスクがあるのをご存知ですか?
PL保険は、製造・販売する製品が原因で、他人にケガをさせたり、他人の物を壊したりしたために、事業者が法律上の損害賠償責任を負った場合に被る損害を補償する保険です。しかし、PL保険でカバーできない損害も近年顕在化しています。
この記事では、そもそもPL法(製造物責任法)とは何か整理した上で、PL保険でカバーできないリスクとその対策となる一般的な製造業E&O保険について解説します。
そもそもPL法とは?
PL法(製造物責任法)は、1995年7月1日に施行されました。PL法ができるまでは、製造物の欠陥が原因で消費者等が被害を被ったとしても、製造者の過失を証明することができなければ製造業者に責任を問うことができず、被害者が損害賠償を求めることは困難でした。
その後、PL法は民法の不法行為責任(民法第709条)の特則として設定され、被害者が製品の欠陥を証明することができれば、製造業者の過失の有無に関係なく、製造業者に損害賠償責任を求めることができるようになりました。
逆に製造業者の立場に立ってみれば、過失はなくても損害賠償責任を負わなければならないことになりました。
PL法が適用されるのは?
では、具体的にどんな場合にPL法が適用されるのでしょうか?
PL法で損害賠償を請求できるのは、製造物の欠陥のために「人の生命、身体に被害をもたらした場合」と、「欠陥のある製造物以外の財産に損害が発生した場合」です。
例えば、製造した電子レンジに欠陥があり、購入した人が火災に遭ったなどという場合にPL法が適用され、被害者は製造業者に損害賠償を求めることができます。
PL法では誰が責任を負う?
最近では、海外製品やOEMなど、消費者等の手に渡るまでにいくつもの事業者を経る場合もあります。消費者等が製造物の欠陥が原因で損害を被った場合、誰に責任を追及できるのでしょうか?
PL法では、製造物責任を負うのは「製造物を業として製造、加工又は輸入した者」と定めています。
販売業者は基本的にはこの法律の対象ではありませんが、例外があります。海外から製造物を輸入する輸入業者やプライベートブランドのようにその製品を作らせて販売している販売者の場合、「表示製造業者」として製造業者としての責任を負う可能性があります。
参照:消費者庁 製造物責任法の概要Q&A
PL保険では何がカバーできる?
PL保険で支払われる保険金は、被害者への「損害賠償金」「争訟費用(裁判・弁護士費用等)」などです。事故の状況によっては、億単位の賠償金がかかることもありますから、製造・販売事業者にとって、PL保険は今となっては欠かせない保険です。
しかし、一般的には製品自体の損害や修理・交換等の費用については支払いの対象外になっています。これらの費用は事業者にとって大きな負担となってしまう場合があります。
そして、さらに注意したいことは、PL保険では対象外の「第三者の身体障害や財物損壊を伴わない経済損害」についても、近年の賠償意識の高まりの中で、事業者の大きな負担になっているということです。
「第三者の身体障害や財物損壊を伴わない経済損害」とは?
消費者等がケガをしたり消費者等の所有物を壊したりはしていないけれども、製品が原因となって事業者が賠償責任を負うケースがあります。
具体的には、
・金属部品製造業者が、部品を精密機械メーカーに納品したところ、そのメーカーの検査において、部品に品質不良があり仕様に合わず、使用すると発火のおそれがあることが発覚した。部品交換のため出荷できなかったとして、精密機械メーカーから逸失利益を請求された。
・品質検査機メーカーが、部品メーカーに品質検査機械を納品した。ところが、プログラムエラーにより、十分な検査が行えず、工場の稼働が停止。部品メーカーから逸失利益を請求された。
上記例のように、
・消費者等がケガをしたり消費者等の所有物を壊したりはしていないが、製品に欠陥があるために顧客が被った経済的な損失
・生産物の仕様など、意図された効能・性能が発揮できなかった場合の経済的な損失
このような場合、製造業者に損害賠償を請求されるリスクがありますが、PL保険では補償されないので注意が必要です。
2.E&O保険って何?
E&Oとは「Errors&Omissions」の略称で、Errorsは「過失(不注意による失敗)」、Omissionsは「怠慢」です。「E&O保険」とは、業務遂行上の過失や怠慢が原因で起きた損害を補償する保険のことです。
多くの企業や店舗では、お客様など第三者に対する身体障害や財物損壊のリスクに備えて、PL保険やPLリスクがカバーされる企業総合賠償保険などに加入します。しかし、身体障害や財物損壊を伴わない経済損害はこの保険では補償されません。
そのような場合に備え、経済損害を補償する保険として開発されたのがE&O保険です。
E&O保険はもともと、弁護士、公認会計士などの専門職業人を対象とした専門職業賠償責任保険として海外で発展してきました。日本でいうと、弁護士、公認会計士、税理士、司法書士などの国家資格を持つ専門職業人は高度の専門知識と技能を要求され、高度な注意義務を要求されます。万一、業務上の注意義務を怠り、過失や過誤を招いて顧客に経済損害を与えた場合、法律上の賠償責任を負う可能性が高いといえます。
そして現在では、E&O保険はさまざまな分野で経済損害を補償する保険として、医師や金融事業者、IT事業者、建設事業者むけなどに多様化しています。
「製造業E&O保険」は、E&O保険の製造業版です。企業総合賠償保険やPL保険で補償されない「第三者の身体障害や財物損壊を伴わない経済損害」を補償します。
一般的に製造業E&O保険の対象となる事例は?
製造業E&O保険の補償対象となる第三者への経済損失の損害賠償の事例としては、下記のような例があります。
・製造販売された製品の欠陥又は不備に起因して生じた経済損失
産業用ロボットメーカーが、製造した産業用ロボットを納入後、購入者である製造業者の適合検査において要求していた製品仕様を満たしていないことが発覚した。至急で産業用ロボットを正しい仕様に合うよう再製造の手配をしたが、1週間かかった。購入者である製造業者から、製造着手の遅れにより生じた逸失利益の損害賠償請求を受けた。
・製造販売された製品が契約で定められた機能・効能の条件を満たさず起きた経済損失
発電装置を発電事業者に納品したところ、発電を開始した際に、発電装置の設計ミスにより十分な出力を発揮することができなかったことが発覚した。予定どおりの発電量が得られなかったとして、発電事業者から逸失利益を請求された。
3.まとめ
身体障害や財物損壊を伴わない経済損害はPL保険では補償されませんが、こういった損害発生の恐れは少なくありません。PL保険と合わせて製造業E&O保険に加入することで、総合的に製造上のリスクを回避することができます。
また身体障害や財物損壊を伴わない経済損害としては、「納期遅延」による経済的損失もあり得ます。現在では納期遅延による経済損失もカバーするような保険も開発されているので、合わせて検討されると良いでしょう。
執筆者プロフィール
奥野美代子
中小企業診断士/MBA/
中小企業診断士として250社以上の経営戦略策定や事業計画策定支援を行う。最新のWEBマーケティング支援による経営改善や社員育成で理想のお客さまからぜひと言われるブランディング支援で高い評価を得る。
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