安全運転管理者は、運転計画の作成や日常点検による安全運転の確保、危険防止のための対応など、さまざまな業務を行っていますが、2022年4月の道路交通法施行規則第9条の10(安全運転管理者の業務)のうち、6号と7号が改正されたことに伴い、アルコールチェックとその結果の記録と保存をする業務も加わりました。

また、2022年10月に改正された安全運転管理者の罰則強化を受けて、企業における体制の見直しも必要になります。

今回の記事では、企業における安全運転管理者の役割や業務内容のほか、企業が行うべき安全運転管理の対応・対策、安全運転管理者へのサポートについて解説します。

安全運転管理者とは?

安全運転管理者は事業所の安全運転の確保に必要な業務を行う者として、道路交通法第74条の3第1項で一定の事業所に選任が義務付けられています。

具体的には、運転計画の作成や運転者の指導、酒気帯び確認などの業務が定められています。

安全運転管理者として選任できるのは、原則として運転管理の実務経験が2年以上ある20歳以上の従業員です。

ただし自動車を20台以上保有し、副安全運転管理者の選任が義務付けられている事業所では、安全運転管理者は30歳以上である必要があります。

安全運転管理者選任の対象となる事業所とは?

安全運転管理者選任の対象となるのは、以下のいずれかを満たした事業所です。

  • 定員11人以上の自動車を1台以上使用
  • その他の自動車にあっては5台以上を使用

なお、バイクなどの自動二輪車(原付を除く)は1台を0.5台としてカウントします。

 

ここで対象となる自動車は、業務として利用しているマイカーやリース車両も含みます。

また、マイクロバスなど乗車定員が11人以上の自動車を保有している場合は、1台以上で対象になるので注意しましょう。

1事業所で使用する自動車の台数が20台以上の場合は、副安全運転管理者の選任(20台ごとに1人)が必要です。

たとえば、1事業所で使用する自動車が40台の場合は、安全運転管理者が1人、副安全運転管理者が2人必要になるということです。

安全運転管理者の業務とは?

安全運転管理者が取り組む主な業務は以下のとおりです。

●    運転者の適性を把握する

●    運行計画を作成する

●    交替運転者を配置する

●    異常気象・天災などの際に安全確保に必要な指示・措置を講じる

●    点呼や日常点検による安全運転の確保を行う

●    酒気帯び有無の確認をする

●    酒気帯びの有無の確認の記録を保存する

●    運転日誌の備付けをする

●    安全運転指導を行う

運転者の適性を把握する

運転者は、運転技術や安全運転に係る知識など、交通規則を遵守できる人材でなければいけません。

そのため、安全運転管理者が運転者の適性を把握し、選定する必要があります。

運転者に運転記録証明書や運転免許証の写しなど技術や知識が把握できる書類を提出してもらったり、運転に関する試験などを実施したりなど、適切な方法で運転者の適性を把握しましょう。

運行計画を作成する

道路状況や運転者の状態を把握し、日々運行計画を作成するのも安全運転管理者の業務です。

出発日時や走行距離、運行経路など目的地までに必要な情報を記載し、運転者に共有しなければいけません。

なお運行計画作成の際は、休憩場所や運転時の注意点を記載するなど、運転者がより安全に走行できるようアドバイスを付け加えると良いでしょう。

危険防止のための交替運転者を配置する

長距離運転や夜間運転をする場合は、過労による居眠り運転や過失事故などの危険を防止するため、安全運転管理者が交代できる運転者を配備し、未然に事故が防げるよう対策を取る必要があります。

長距離運転や夜間運転を行う事業所では、安全運転管理者を中心に人員の配備体制を構築し、交通事故を防止する体制を整えましょう。

異常気象・天災などの際に安全確保に必要な指示・措置を講じる

台風や大雪、地震などの異常気象が発生した場合は、安全に運転できるよう必要な措置を指示したり、運転を禁止したりなど安全を確保するのも安全運転管理者の役割です。

日々天候を確認しながら、状況に応じて運転者に指示を出しましょう。

異常気象時の対応についてのマニュアル作成、運転者との連絡体制の確保などの対応も考えられます。

点呼や日常点検による安全運転の確保を行う

安全運転管理者は、運転者の点呼の際に本人の体調や、車両の日常点検の実施状況などを確認し、安全運転を確保しなければいけません。

運転者の声や表情で体調を確認するほか、車両のタイヤ損傷やライトの不具合、ブレーキの作動など車両点検を日常的に行い、安全を確保する必要があります。

酒気帯び有無の確認をする

2022年4月道路交通法施行規則第9条の10(安全運転管理者の業務)のうち、6号と7号の改正により、安全運転管理者による運転者の酒気帯びの有無を目視等で確認することが義務付けられました。

点呼によって体調を確認するとともに、声や表情、臭いなどで酒気帯びの有無を確認しなければいけません。

対面で行うことが困難な場合は、携帯電話やモニターなどで状態を確認しなければいけません。

また、2023年12月1日からアルコール検知器を用いた酒気帯び確認の義務化が正式に決定されました。

記録を保存する

酒気帯び有無の確認後は、その内容を記録し、1年間保存しなければいけません。

決まった様式はありませんが、以下の事項は必ず記録が必要です。

●    確認者名(安全運転管理者)

●    運転者名

●    自動車のナンバー

●    確認の日時(対面でない場合は具体的方法)

●    酒気帯びの有無

●    指示事項

●    その他必要な事項

各事業所で上記の内容を記載した記録簿を作成し、適切に管理しましょう。

出典:警察庁「安全運転管理者の業務の拡充等

安全運転管理者の業務を補佐できる者とは、その範囲は?

安全運転管理者の業務を補佐できる者とは、点呼や運転者への伝達など安全運転管理者の業務全般を補佐する人のことです。

たとえば、深夜や早朝などで安全運転管理者がいない場合に、酒気帯び有無の確認を代行したり、交通事故が発生した際に安全運転管理者に詳細を報告したりするなど、さまざまな業務を補佐します。

安全運転管理者の業務を補佐できる者は、人数や資格要件などに制限はなく、事業所内で選任が可能です。

なお、選任にあたっては警察署への届出は不要です。

安全運転管理について企業が行うべき対応と対策

ここからは、安全運転管理における企業としての対応・対策について解説します。

主な対応・対策は以下のとおりです。

●    安全運転管理者等の選任・解任に伴う届出を提出する

●    安全運転管理者のサポートを行う

●    適切な管理・メンテナンスを行う

 

それぞれを詳しく解説します。

 

選任・解任に伴う届出を提出する

安全運転管理者の選任や解任の際には、警察署に必要書類の届出が義務付けられており、選任の際は一般的に以下の書類が必要です。

●    安全運転管理者届出書

●    住民票の写し

●    運転記録証明書(3年もしくは5年のもの)

●    運転経歴(免許証の写し)

ただし、⾃治体により必要書類が異なる場合がありますので、詳しくは最寄りの警察署に確認しましょう。

また、事業所の住所や自動車台数、運転者数などが変更になった場合にも届出が必要になります。

書類は各警察署のホームページからダウンロードできるほか、オンラインでも申請が可能です。


出典:警視庁「安全運転管理者

安全運転管理者のサポートを行う

安全運転管理者は、さまざまな業務を実施しなければならないため、1人ですべての業務を行うのは困難です。

そのため、副安全運転管理者や業務を補佐する者がサポートを行い、運転管理に関する業務が円滑に行える体制を構築しなければいけません。

とくに従業員数の多い企業では、安全運転管理者の負担が大きくなるため、一度業務の棚卸を行い、サポートできる業務を明確にした上で、体制を整えましょう。

適切な管理・メンテナンスを行う

少子高齢化により人材不足が深刻化するなか、システムやアプリ等のデジタルツールを活用して管理体制を業務効率化することが推奨されます。

現在では、安全運転管理業務のDX化が進んでおり、アルコールチェックや運転日誌といった記録・保存業務が効率化できます。

また、デジタルツールを活用することで人的コストが削減できるだけではなく、記録の改ざんや紛失なども防げるメリットもあります。

安全運転管理業務を効率よく適切に行うためにも、システムやアプリといったデジタルツールの活用を検討しましょう。

安全運転管理者の業務対応が不十分だったときの企業リスク

点呼による従業員の体調の確認や車両の日常点検など、安全運転管理者が行うべき業務対応が不十分だった場合、従業員の過労による居眠り運転や車両不具合による事故が起こる可能性があります。事故によって人的被害が起こった場合は、企業は重い責任を負わなければなりません。

安全運転管理者の業務は、人命と企業の信頼性を背負う重要な役割を担っていると認識しておきましょう。

従業員が飲酒運転で事故を起こしたときの企業リスク

飲酒運転は、運転をしていた従業員本人が刑事責任を負うだけではなく、企業にも責任がおよびます。

なぜなら、従業員の飲酒運転による人身事故によって相手にケガや死亡させた場合には、民法715条に規定される使用者責任に基づいて企業が損害賠償請求を受ける可能性があるためです。

さらに、企業が従業員の飲酒を黙認した状態で運転させ、事故を起こした場合は経営者も懲役や罰金が科される場合もあります。

そうした状況にならないためにも、安全運転管理者だけではなく、従業員全員の飲酒運転に対する意識を持つことが大切です。

まとめ

安全運転管理を怠ると、企業の信頼度やイメージダウンにつながるだけではなく、被害者やその親族から訴訟を受けるリスクもあります。そのため、安全運転管理者は、事業所の安全運転を管理する責任者として、事故の防止や削減に取り組み、従業員が安全かつ円滑に業務を遂行できるよう中心的な役割を果たさなければなりません。

しかし、安全運転管理者の業務は多岐にわたるため、サポートする人材の配置や業務の効率化をしなければ、安全の管理が疎かになる可能性があります。

そのためにも、安全運転管理業務をDX化することで、安全運転管理者が責務をまっとうできる体制を整えましょう。

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