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1 建設業法等の改正
「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律案(令和元年法律第三十号)」が令和元年6月5日に成立し、一部の規定を除き、令和2年10月1日から施行されました。
今回の改正では、①建設業の働き方改革の促進(工期の適正化等と現場の処遇改善)、②建設現場の生産性の向上、③持続可能な事業環境の確保という3つの観点から、複数の事項について改正が行われました。
このうち、実務的に重要であるものの、特に中小の建設業者が見落としがちな改正点として、請負契約書等の記載事項の変更が挙げられます。
請負契約書等の記載事項については、令和2年4月1日より施行されている改正民法(債権法改正)の影響で、実務的に注意が必要な点も指摘されています。
今回のコラムでは、請負契約書等の記載事項をテーマに、改正点の概要及び民法改正の影響を踏まえた実務上の留意点について、解説いたします。
2 請負契約書等の記載事項の見直し
建設業法では、建設工事における請負契約の明確性・正確性の確保及び請負契約の当事者間の紛争を防止するため、書面による請負契約の締結を求めています。
建設業界では、従前より、長時間労働の常態化や週休2日の確保ができないなど、働き方に関する課題が指摘されていました。
今回の改正では、建設業界における働き方改革を促進するため、「工期の適正化」を図ることで、労働時間と労働日数を抑制するという取り組みが進められることになりました。
具体的には、①著しく短い工期の禁止、②工期等に影響を及ぼす事象に関する情報の提供、③工程の細目を明らかにする等の変更に加え、④これまで14項目とされていた建設工事の請負契約書の記載事項に、新たに「工事を施行しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容」を明記することが義務化されました(下記表の第4号。なお、併せて、第16号も新たに追加されたため、記載が必要な項目は16項目に増えています)。
このため、令和2年10月1日以降に締結する請負契約については、下記内容が記載された請負契約書等で契約を締結する必要があります。
3 下請業者の賠償資力の確認も忘れずに
なお、今回の建設業法等の改正内容ではありませんが、請負契約書等の記載事項に関しては、下請業者の賠償資力の確認も実務的には注意が必要です。
上記の表記載のとおり、建設業法が定める請負契約書等の記載事項の中には、「工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め」(9号)が規定されています。
令和2年4月1日により施行された改正民法においては、法定利率に関する見直しが行われ、法定利率が年5%から3%へと引き下げられました。
その結果、事故を理由とする損害賠償請求に関して、遅延損害金については、法定利率の引き下げにより改正前に比べ支払う金額は減少するものの、逸失利益(※事故がなければ将来得られたはずの収入等が得られなくなったことによる損害)については、法定利率の引き下げにより、中間利息として控除される金額が減少するため、改正前と比べると、賠償金額自体は増加することになります。
Ex:22歳のサラリーマンが建設現場近くを歩行中、資材の落下事故に巻き込まれ死亡した場合
※法務省作成の公表資料より事案を変えて引用
このため、請負契約書等で「工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め」を規定する際には、賠償金額自体が高額化している現状を踏まえ、事前に下請業者の賠償資力を確認したうえで、請負契約書等で賠償金の負担に関する定めを設けておくことが大切です。
4 労働災害だけではなく公衆災害をも含めたリスクマネジメントを
建設業界においては、従前より、労働災害に加え、公衆災害(※建設工事の施行に際し、当該工事関係者以外の生命、身体及び財産に関する危害並びに迷惑)についても対処すべき課題として指摘されてきました。
今回の改正により請負契約書等へ記載が必要とされた「工事を施行しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容」は、建設業界における働き方改革を進める観点から導入されたものであり、過重労働から生じる労働災害の防止も、その目的とするものと考えられます。
また、民法(債権法)改正により事故を理由とする損害賠償請求が高額化していることを踏まえると、公衆災害に対しては、自社だけではなく下請業者等を含めた当該工事関係者全体の賠償資力等を把握したうえで、適切にリスクマネジメントをすることが求められていると言えます。
本コラムを機に、普段使われている契約書の雛型や社内のチェック体制について、見落とし等はないか、今一度、確認をしてみてください。
(このコラムの内容は、令和3年5月現在の法令等を前提にしております)。
(執筆)五常総合法律事務所
S047238
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