Global Risk Manager

ESGリスクをERMに適用する5つのステップ

2023年2⽉2⽇ 公開

RIMS⽇本⽀部 × AIG損保

Global Risk Manager Vol.004 ESGリスクを全社的リスクマネジメント(ERM)に適⽤する5つのステップ

本連載シリーズは、リスクマネジメントのグローバルな⾮営利組織、RIMSの⽇本⽀部とAIG損保の共同編集により、これから海外進出を⽬指す、またはすでに海外進出している企業のリスクマネージャーのスキルセット向上を⽬指しています。⽇々の業務はもとよりビジネスの先を⾒据えた洞察・推察にお役⽴ていただければ幸いです。

近年、注⽬を集めている環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)のESG推進。海外ビジネスでは、現地のステークホルダーや規制当局から、取り組みを求められることもあります。経営判断や事業運営にESGの視点を取り⼊れるということは、ESGリスクも同時に受け⼊れることになります。そのリスクを管理するには、どうしたらいいのでしょうか。先⾏する欧⽶の事例をもとにERM(Enterprise Risk Management:全社的リスクマネジメント)の⼀部としてESGリスクを管理する実践的なステップをご紹介します。

ESG推進のメリットとERMプログラムによる管理

ESG推進の4つのメリット

ESGの策定と実践は、事業の持続可能性を理解するためのフレームワークとしても機能します。ESGを推進することで以下のようなメリット・利益を実現することができます。

  • 競争優位性の確⽴(競合他社との差別化と、戦略的コスト削減に伴う余剰資⾦の再投資が可能に)
  • ⽂化的転換の⼈材戦略活⽤(優秀な⼈材を引きつけ、保持することにつながる)
  • ブランドの強化(企業全体の意識強化と、コミットメントの結果による対外評価の向上)
  • リスク態勢の強化(リスクソリューションの⾃社開発など、管理能⼒の向上)

多くの企業がESGを業務および戦略の意思決定に取り⼊れるにつれて、ESG関連のリスクを管理するための統合的アプローチが、企業の成功に不可⽋となっていくでしょう。

ESGリスクの焦点領域

ERMは、企業がリスクポートフォリオを管理するための包括的かつ体系的なアプローチを提供する代表的な⼿法です。ESGリスクをERMに統合することで、以下のような潜在的、現実的および新興のリスク遭遇可能性を体系的に特定し、評価し、監視することが可能になります。

環境領域 社会領域 ガバナンス領域
  • 気候変動
  • エネルギー効率
  • カーボン・フットプリント
  • 温室効果ガス
  • 森林伐採
  • ⽣物多様性
  • 労働基準
  • 賃⾦と福利厚⽣
  • 多様性
  • ⼈権
  • コミュニティ関係
  • 健康と安全
  • サプライチェーン
  • コーポレート・ガバナンス
  • ⽅針と⼿順
  • 規制上のコンプライアンス

リスクの特定・評価・監視によって得られた情報は、適切なリスク開⽰と処理・軽減計画、経営戦略、事業活動にわたるまで、さまざまな洞察を提供してくれるでしょう。結果として、全社的にESGリスクの管理に必要な能⼒を⾼めることができるはずです。

ESGリスクをERMプログラムに統合する5ステップ

ステップ 1. ESGリーダーを早期に参画させる

ESG推進の⼀環として、企業は計画策定、戦略実⾏、⽬標達成のためにESG各領域のリーダーを任命するはずです。ESGリスクを体系的かつ効率的に管理するために、各リーダーを早い段階からERMメンバーとして参加させ、企業全体でESGリスクを管理する⽅法について話し合うべきです。

 

また各ESGリーダーは、ERM委員会における各領域のESGリスクのリーダーと位置づけると、責任の所在が明確になります。

ステップ 2. ESG戦略からESGリスクを導き出す

ESG戦略とは、具体的な⽬標と計画を⽴て、望ましい成果を達成するために企業がとるべき具体的な⾏動を⽰すものです。⼀⽅、ESGリスクとは、予測される結果からの乖離、または予測される結果を達成する上での不確実性の程度と⾔えます。

 

つまり、ESG戦略、⽬標、および計画をレビューすることが、監視すべきESGリスクの特定につながります。さらに、企業価値の増減の可能性についてより正確な⾒通しを提供するような、上⽅・下⽅の変動可能性を明確にしておくことも⼤切です。

 

ESGリスクの声明と変動可能性のシナリオの妥当性を確認して⽂書にしておくといいでしょう。

ステップ 3. リスク取得意欲を決定する

企業はしばしば、リスク取得意欲のパラメータの範囲内でリスクプロファイルを管理しています。これは、戦略、⽬標、計画にとって望ましい成果を追求するために、ある程度のリスクを受け⼊れる意思を伝えるためでもあります。

 

リスク取得意欲は企業全体としてのリスクの受け⼊れ姿勢を簡潔に⽰すものとなるため、ESGリスクに対応したリスク取得意欲声明を作成する必要があります。この声明は、特定のESGリスクに対する取得意欲を操作化するためのガイダンスとなります。

 

リスク取得意欲声明がESGリスクと合致すれば、リスク管理の担当者は、シナリオを様々な利害関係者にはっきり伝えるために、具体的な上限と下限を設けることを検討すべきです。

ステップ 4. 全体的アプローチを採⽤する

すでにERMプログラムをもつ企業は、ESGリスクに対処する際に、⼀からやり直すべきではありません。むしろ、ESGリスクを管理するための体系的かつ包括的なアプローチを提供するために、定着したERMプログラムを活⽤すべきです。

 

ESGリスクを検討するには、以下の要素に特に注意を払いながら、すでにあるERMプログラムの構成要素を修正していきます。

  • リスクの特定(リスク調査の統合)
  • リスクの評価(リスク評価の適⽤)
  • リスクの統制(回避、予防、移転、軽減を含む対応計画の適⽤)
  • リスクの依存性(他のリスクや活動との相関性の明⽰)

ステップ 5. リスク評価のためにデータを活⽤する

企業がリスクプロファイルを効果的に管理しているかどうかを評価するには、データが不可⽋です。各領域のESGリスクリーダーおよびERM委員会と協⼒して、適した指標を準備しておきましょう。

 

同意を得た指標とそれを選択した根拠を⽂書化しておくほか、必要に応じて指標のデータをどのように収集するかを⽂書化する必要があります。

詳しくはRIMS⽇本⽀部の
『Risk Management』2022年7-8⽉号をご覧ください。

出典

本記事は、リスクマネジメントのグローバルな⾮営利組織、RIMSが発⾏する機関誌「Risk Management」2022年7-8⽉号を、RIMS⽇本⽀部とAIG損保が翻訳・共同編集したものです。原⽂と和訳に相違があるときには、原⽂を優先します。

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