Global Risk Manager

ロシア制裁が企業へ与える影響とビジネスリスクを管理する

2022年10⽉11⽇ 公開

RIMS⽇本⽀部 × AIG損保

Global Risk Manager Vol.001 ロシア制裁が企業へ与える影響とビジネスリスクを管理する

本連載シリーズは、リスクマネジメントのグローバルな⾮営利組織、RIMSの⽇本⽀部とAIG損保の共同編集により、これから海外進出を⽬指す、またはすでに海外進出している企業のリスクマネージャーのスキルセット向上を⽬指しています。⽇々の業務はもとよりビジネスの先を⾒据えた洞察・推察にお役⽴ていただければ幸いです。

2022年2⽉に起きたロシアによるウクライナ侵攻に対して、北⽶、欧州、アジアの各国政府は、ロシアに対して⼀連の制裁と輸出規制を課しました。これらの制裁や規制は、ビジネスにどのような影響を与えるのでしょうか。リスクマネジメントのグローバルな⾮営利組織、RIMSが発⾏する機関誌「Risk Management」2022年3-4⽉号の記事からポイントを抜粋してご紹介します。

ロシア制裁の内容と、企業の意思決定に与える影響

⼈物や企業を特定した上で⾏われる3つの制裁とは

「ロシアへの制裁措置は、明確な戦略に従っている」と、ヘンリー・スミス⽒(※)は⾔います。スミス⽒によれば、ロシア制裁は⼈物や企業を特定した上で、以下の3つの制裁が⾏われています。

● 国際⾦融市場や銀⾏ネットワークへのアクセスの制限

● 技術を含む財サービスの輸出の制限

● 特定のタイプの事業活動に対するより広範な制限

  • ヘンリー・スミス⽒は、英国・CONTROL RISKS社のパートナー兼、中近東ビジネスのインテリジェンスおよびデューデリジェンス担当部⾨⻑(記事作成時)。

ロシア制裁が、どのように企業の意思決定に影響を与えるのか

制裁下のロシアから脱出したり関係を断絶したりする企業、あるいは侵略に対して⽴場を明確にする利害関係者や同僚、そして顧客によるプレッシャーを感じている企業や従業員は多くいます。こうした状況は、コンフリクトが続いている間の重要な意思決定にさらなる複雑な影響を与えるでしょう。

 

各国政府は、制裁措置が経済的痛みを伴うことを認識しています。そのため、企業への影響を緩和させながら、⾃国経済へのコストを吸収しようとします。制裁に関する⼀連のガイダンスや質疑応答は、制裁に従う企業にとって何らかの助けとなるはずです。

ロシア制裁に向き合う企業が検討すべきこと

ロシアの危機によるリスクに遭遇する可能性の3パターン

程度は⼤きく異なるものの、ほとんどの企業は、ロシアの危機に晒されていて、進展している制裁態勢に対応しなければなりません。スミス⽒によれば、こうしたリスクに遭遇する可能性は、⼤きく3つに分けられます。

● ロシア国内で直接的に業務をすることでリスクに遭遇する

● 第三国に拠点を置く供給業者や流通業者を通じて間接的にリスクに遭遇する

● ロシアの海外機関との関係を通じてリスクに遭遇する

ロシア制裁に対応していくために検討したい5つの項⽬

1.紛争の進展と制裁に関連する意思決定を確実に監視すること

制裁の影響を受ける企業向けの各種⽂書を発⾏する政府機関を注視します。これらの⽂書は、制裁措置の遵守の仕⽅や対策実施の⽅法など、⼀般的な疑問の解決に役⽴ちます。

 

2.⾃社とロシアやロシアの団体との結びつきの程度を評価すること

投資家や株主、債権者、銀⾏、直接・間接的な顧客、供給業者、流通業者などを通じて、直接・間接的に調達されたロシア原産の財サービスをもとに関係性を評価できます。

 

3.最終的な受益者を含めて、それらの所有と⽀配の構造を明確に理解すること

代理店、販売業者および顧客が想定できる場合、ロシア国内の制裁を受けた事業体との相互関係を検証することで、直接的・間接的な制裁のリスク遭遇可能性を評価できます。

 

4.ロシア関係者、関係が疑われる者を、適正評価ツールを使って評価すること

指定・制限された事業体および個⼈の統合リストを参照することで、相⼿が制裁対象かを確認でき、⾃分がさらされているすべての制裁態勢を評価することにつながります。

 

5.⾃⾝の外部との関わりを考察すること

取引銀⾏、保険会社、合弁企業、主要な業者など、⾃社の事業に関わる企業を検証します。彼らの考え⽅や、リスクを低減させるトリガーを⾒極め、情報に基づいた判断を下します。

ロシア制裁の広がりと深刻さにつながるシナリオ

ロシア制裁に追随する国の広がりと「⼆次的制裁」の広がり

ロシアに対する制裁態勢が広がり、深刻になっていく、2つのシナリオが考えられます。

 

ひとつは、ロシア制裁に追随する国の広がりです。政策としての正式採⽤でなくても、ロシアと貿易(輸出⼊)する⼤規模なアジア・中東経済国の⼀部が実質的に加わることは、制裁態勢の地理的広がりと既存の措置の有効性が重要な意味をもつことになるでしょう。

 

もうひとつは、制裁を⾏っている政府が、より幅広い分野へと制裁を拡⼤し、いわゆる「⼆次的制裁」という形で他国への制裁を⾏うことです。これらは、制裁の経済的・政治的効果を最⼤化する狙いもあります。

制裁拡⼤に必要なのは政府間での合意の維持

制裁を実施している国の間では、ロシアの⽯油・ガス輸出やロシア国内での開発・⽣産能⼒に対する的を絞った措置を検討する政治的意思が強まっています。ロシアのエネルギー部⾨に対する制裁の最⼤の経済的・政治的な障害は、EUにあります。ロシアがEU経済圏のエネルギー安全保障における⼀定の役割を果たしているからです。

 

制裁拡⼤においては、政府間での制裁措置に関する合意を維持する必要がありますが、紛争を取り巻く⼒学が進化し続けるにつれて変化する可能性があります。

詳しくはRIMS⽇本⽀部の
『Risk Management』2022年3-4⽉号をご覧ください。

出典

本記事は、リスクマネジメントのグローバルな⾮営利組織、RIMSが発⾏する機関誌「Risk Management」2022年3-4⽉号を、RIMS⽇本⽀部とAIG損保が翻訳・共同編集したものです。原⽂と和訳に相違があるときには、原⽂を優先します。本⽂中は敬称略です。

RIMS⽇本⽀部のページ(外部のサイトに移動します)

あわせてこちらの記事もチェック!

ロシアによるウクライナ侵攻が⻑期化するいま、表⾯化していない次なるリスクとは。
現状把握と未来洞察、ふたつの視点からリスクマネジメントを考える。

ウクライナ危機だけじゃない!海外進出企業が感じているリスクとは?
担当者へのアンケートからリスク管理の実態に迫る。

グローバルリスクマネジメントの先端を追うキュレーションメディア

まずはお話をお聞かせください

AIG損保にコンタクトする

無断での使⽤・複製は禁じます。