2024年10⽉15⽇ 公開
2024年4⽉から、ドライバーも働き⽅改⾰がスタート
2019年4⽉に通称「働き⽅改⾰」(正式名称「働き⽅改⾰を推進するための関係法律の整備に関する法律」)が施⾏されました。この法律のねらいは、「労働時間法制の⾒直し」と「雇⽤形態に関わらない公正待遇の確保」です。
この法律の労働時間法制の⾒直しにおいて、⾃動⾞の運転業務は施⾏から5年間の猶予期間が決められていました。この猶予期間が終了し、時間外労働の上限規制が変わるのが2024年4⽉となっています。
働き⽅改⾰のポイント
出所:働き⽅改⾰〜⼀億総活躍社会の実現に向けて 厚⽣労働省 物流(ロジスティクス)の基本教科書 ⽇本能率協会マネジメントセンター より作成
「物流の2024年問題」は、⼤きな問題を抱えている
有効求⼈倍率が全産業平均の2倍程度で推移し、今までも⼈⼿不⾜ですが、さらに労働時間法制の⾒直しにより、輸配送⼒が減少し、物流が滞ることが想定されるため、「物流の2024年問題」と呼ばれています。
2024年の法改正に対応して、物流効率化に取り組まなかった場合の輸送能⼒不⾜は、国⼟交通省、農林⽔産省、経済産業省の三省による持続可能な物流の実現に向けた検討会の資料によると、2024年度で最⼤14.2%、2030年度で34.1%と試算されており、⼤きな問題を抱えている。
不⾜する輸送能⼒の試算
出所:持続可能な物流の実現に向けた検討会 国⼟交通省、農林⽔産省、経済産業省 2023年5⽉
資料3 物流の適正化・⽣産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者が取り組むべき事項(案) より
想定される影響と対策
2024年4⽉以降は、トラック運転者の労働時間が短縮されるため、運送事業者はより効率的な運⾏を⾏い、短時間で今までの収⼊を確保しなければ経営に⼤きなダメージを受けることとなります。今までは、荷主が運送事業者を選定して業務を委託する形でしたが、今後は効率の悪い荷主の業務は、運送事業者が受託しないことが想定されます。これは、今までと⽴場が逆転することを意味しています。
今まで何とかなってきたので今回も何とかなるだろうと考えるのは危険です。運送事業者は、体制維持が困難となるリスクがあり、最悪は事業継続ができない事態を招くことも予想されます。したがって、運送事業者は、⽣産性向上と運賃のアップや附帯料⾦の収受の動きをさらに活発化させることとなり、荷主はそれに対応していくことが求められます。
ここでは、いくつか具体例をご紹介します。
2024年問題の影響
出所:荷主と運送事業者の協⼒による取引環境と⻑時間労働の改善に向けたガイドライン 厚⽣労働省・国⼟交通省・全⽇本トラック協会 より作成
「物流の2024年問題」への対策例
ここでは、いくつか具体例をご紹介します。
(1)⾞両の⼤型化
いままで別のトラック2台で輸送していたトラックの貨物を積み合わせ、もしくは連結させて1台のトラックにすることで、ドライバー2名を1名にすることができます。
この場合、⼤型化により、事故があった場合の被害も増えるリスクがあります。⼤型⾞、連結トラックなどの運転に関する教育、育成が必要となります。
⾞両⼤型化のイメージ
出所:荷主と運送事業者の協⼒による取引環境と⻑時間労働の改善に向けたガイドライン 厚⽣労働省・国⼟交通省・全⽇本トラック協会 より作成
(2)モーダルシフト
モーダルシフトとは、輸送機関を変更することです。⻑距離輸送については、トラックからフェリーなどの内航海運や鉄道の利⽤に切替えるモーダルシフトを進めることで、トラックドライバーは最寄りの港湾や貨物駅までの輸送で済むこととなり、拘束時間の短縮が可能となります。
この場合、フェリーや鉄道は運⾏ダイヤが時間的な制約となるため、発荷主/着荷主の理解と協⼒が不可⽋です。また、トラックから鉄道・船舶への積卸しのためのハンドリングが必要になる場合や鉄道などは遅延時に旅客優先になる場合がありますし、船舶は天候などによる遅延リスクもありますので、対象貨物などの検討が必要です。
モーダルシフトのイメージ
出所:荷主と運送事業者の協⼒による取引環境と⻑時間労働の改善に向けたガイドライン 厚⽣労働省・国⼟交通省・全⽇本トラック協会 より作成
(3)運転業務と作業の分離
現在トラック運転者による積卸作業が、⼀般的であると思います。さらにいろいろな付帯作業を⾏っている場合もありますが、これらの作業を荷主側で⾏ったり、荷役作業員に分離したりすることにより、拘束時間の短縮が可能となります。
この場合、発着側での付帯作業対応のため、作業⼈員の確保や教育が必要となります。また、付帯作業の費⽤や作業分担や責任範囲の取り決めも運送事業者と荷主の間で検討が必要で、品質リスクと事故リスクの予防が必要です。
運転業務と作業の分離のイメージ
出所:荷主と運送事業者の協⼒による取引環境と⻑時間労働の改善に向けたガイドライン 厚⽣労働省・国⼟交通省・全⽇本トラック協会 より作成
(4)共同輸配送
共同輸配送は、今後注⽬すべき施策の⼀つです。各社が個別で⾏っている輸配送を複数荷主や複数配送先の貨物を積み合わせることにより、積載率の向上など⽣産性の向上が可能となります。また、荷卸し時間や荷待ち時間の短縮につながる場合も考えられます。
この場合、積替によるハンドリングの増加や普段取り扱っていなかった貨物に対する不慣れな業務、複数荷主の貨物混在による荷傷み、他社⾞両への委託により配送状況が⾒えにくくなる可能性があります。ルールや仕組みの取り決めや積み合わせ貨物の選定、作業者への教育などが必要です。
共同輸配送のイメージ
出所:荷主と運送事業者の協⼒による取引環境と⻑時間労働の改善に向けたガイドライン 厚⽣労働省・国⼟交通省・全⽇本トラック協会 より作成
(5)中継輸送
中継輸送とは、⼀⼈の運転者が⼀つの⾏程(発地から着地まで)を担うのではなく、⼀つの⾏程を複数⼈で分担する輸送⽅式です。⾞両を交換する⽅法やトレーラーとトラクターを切り離して交換するトレーラー⽅式もあります。これにより宿泊が伴う運⾏が⽇帰り可能な業務となり、ドライバーの⽣活の質の向上につながります。
この場合、異なる事業者間で⾞両の相互使⽤を⾏うことは、法的に問題はありませんが、運⾏管理や責任の範囲、事故発⽣時の損害賠償など事前に取り決めしておき、事故リスクを回避しておく必要があります。
中継輸送のイメージ
出所:中継輸送の実施に当たって 国⼟交通省 より作成
「2024年問題」解決のための切り⼝
2023年6⽉に政府の我が国の物流の⾰新に関する関係閣僚会議は、「物流⾰新に向けた政策パッケージ」を発表しました。これは、荷主企業、物流事業者(運送・倉庫等)、⼀般消費者が協⼒して我が国の物流を⽀えるための環境整備に向けて、抜本的・総合的な対策を「政策パッケージ」として策定されたものです。具体的な施策として、「商慣⾏の⾒直し」「荷主・消費者の⾏動変容」「物流の効率化」が挙げられています。
これと同時に経済産業省・農林⽔産省・国⼟交通省から発表された「物流の適正化・⽣産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」は、「物流⾰新に向けた政策パッケージ」施策の⼀環として、発荷主事業者・着荷主事業者・物流事業者が早急に取り組むべき事項をまとめた内容となっています。
さらに、2023年10⽉に我が国の物流の⾰新に関する関係閣僚会議は、「物流⾰新緊急パッケージ」を発表しました。これは、6⽉に発表されている「物流⾰新に向けた政策パッケージ」「物流の適正化・⽣産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」の成果が早期に得られるように実施すべき施策を上げています。また、それらの施策が前倒しで推進され、成果が早急に得られるように、必要な予算の確保も含め緊急的に取り組むとしています。
物流⾰新緊急パッケージ(抜粋)
物流の効率化 |
|
荷主・消費者の ⾏動変容 |
|
商慣⾏の⾒直し |
|
出所:物流⾰新緊急パッケージ 我が国の物流の⾰新に関する関係閣僚会議 より作成
「2024年問題」解決のために重要なこと
「物流の2024年問題」は、運送事業者だけで解決できるものではありません。荷主と運送事業者が共同で取り組むべきものです。また、施策などの実⾏も⼤切ですが、その条件となる商慣⾏や物流に対する意識を変えることから推進しなければ、⼗分な成果を上げられず結果としてリスクが顕在化することになります。
それぞれの⽴場で問題を正確に把握し、課題に対して施策を早急に推進し、成果を上げていくことが求められています。
以上
本記事について
執筆:ロジ・ソリューション株式会社
発⾏:AIG損害保険株式会社 海上保険部
AIG損害保険株式会社では、
運送業の2024年問題について資料をご⽤意しております。
詳しくは、海上保険部までお問い合わせください。
まずはお話をお聞かせください
AIG損保にコンタクトする
無断での使⽤・複製は禁じます。