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CLO(Chief Logistics Officer)と物流政策ガイドラインにおける物流統括管理者

「物流の2024年問題」とは

2019年4⽉に通称「働き⽅改⾰」(正式名称「働き⽅改⾰を推進するための関係法律の整備に関する法律」)が施⾏されました。この法律のねらいは、「労働時間法制の⾒直し」と「雇⽤形態に関わらない公正待遇の確保」です。

この法律の労働時間法制の⾒直しにおいて、⾃動⾞の運転業務は施⾏から5年間の猶予期間が決められていました。この猶予期間が終了し、時間外労働の上限規制が変わるのが2024年4⽉となっています。

この時間外労働時間の上限規制の変更により、物流効率化に取り組まなかった場合の輸送能⼒不⾜は、国⼟交通省、農林⽔産省、経済産業省の三省による持続可能な物流の実現に向けた検討会の資料によると、2024年度で最⼤14.2%、2030年度で34.1%と試算されており、「物流の2024年問題」として⼤きく取り上げられています。

働き⽅改⾰のポイント

出所:働き方改革~一億総活躍社会の実現に向けて 厚生労働省 物流(ロジスティクス)の基本教科書 日本能率協会マネジメントセンター より作成

「物流の2024年問題」解決のために

2023年6⽉に政府の我が国の物流の⾰新に関する関係閣僚会議は、「物流⾰新に向けた政策パッケージ」を発表しました。これは、荷主企業、物流事業者(運送・倉庫等) 、⼀般消費者が協⼒して我が国の物流を⽀えるための環境整備に向けて、抜本的・総合的な対策を「政策パッケージ」として策定されたものです。具体的な施策として、「商慣⾏の⾒直し」「荷主・消費者の⾏動変容」「物流の効率化」が挙げられています。

これと同時に経済産業省・農林⽔産省・国⼟交通省から発表された「物流の適正化・⽣産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」は、「物流⾰新に向けた政策パッケージ」施策の⼀環として、発荷主事業者・着荷主事業者・物流事業者が早急に取り組むべき事項をまとめた内容となっています。

物流統括管理者の選任

ガイドラインでは、発荷主事業者、着荷主事業者、物流事業者に対して、実施が必要な事項と実施することが推奨される事項が挙げられていますが、その実施することが必要な事項の⼀つとして今回のテーマであるCLOと密接に関係する「物流統括管理者の選任」が挙げられています。

2024年5⽉に、「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律、及び貨物⾃動⾞運送事業法の⼀部を改正する法律」が公布されました。この法律の中で、「物流統括管理者は、特定荷主が⾏う事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にある者をもって充てなければならない」とされ、「役員クラス」の選任が求められています。

物流の適正化・⽣産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン

出所:物流の適正化生産性向上に向けた荷主事業者物流事業者の取組に関するガイドライン経済産業省・農林水産省・国土交通省 より作成

CLOとは

CLOは、企業のロジスティクス全般についての責任を持つ者のことです。欧⽶ではロジスティクスのカリキュラムを持つ⼤学なども多く存在しており、CLOから最⾼経営責任者(CEO =Chief Executive Officer)に就任している例もあります。また、CLOではなく、サプライチェーン全体の責任を負う最⾼サプライチェーン責任者(CSCO =Chief Supply Chain Officer)を置いている企業もあるようです。

今回選任が求められる物流統括管理者は、「物流の2024年問題」への対応のためのイメージが強く、管理的な地位からより実務的な実効性のある施策を推進するという役割と考えられます。その推進のためには、物流部⾨だけでなく、⽣産、販売などの他部⾨との施策の推進が必要であり、「物流統括管理者」は、物流の部⾨⻑ではなく、その管理的⽴場ですから、ロジスティクスの領域が対象となります。

それに対し、CLOは同様の業務も⾏うものの、より経営的な側⾯も持ち合わせていると考えたほうがよいと思います。ただし、企業ごとに名称と権限や役割が異なりますので、この点には注意が必要です。

物流とロジスティクスの定義

物流 物資を供給者から需要者へ、時間的及び空間的に移動する過程の活動。⼀般的には、包装、輸送、保管、荷役、流通加⼯及びそれらに関連する情報の諸機能を総合的に管理する活動。 調達物流、⽣産物流、販売物流、回収物流(静脈物流)、消費者物流など、対象領域を特定して呼ぶこともある。
ロジスティクス 物流の諸機能を⾼度化し、調達、⽣産、販売、回収などの分野を統合して、需要と供給との適正化を図るとともに顧客満⾜を向上させ、併せて環境保全、安全対策などをはじめとした社会的課題への対応を⽬指す戦略的な経営管理。

出所:JIS Z 0111:2006

CLOの役割

CLOの基本的な役割は、企業のロジスティクスのビジョンや戦略を策定し、推進していくことです。そのためには、物流部⾨はもとより、調達や⽣産、販売部⾨に対しても責任を負うことになります。公益社団法⼈ ⽇本ロジスティクスシステム協会の資料にあるCLOの位置づけがイメージしやすいと思います。

また、顧客サービス⽔準の決定などの意思決定に関与する⽴場でもあります。これは、顧客サービス⽔準の内容が、⽣産、販売、物流などに⼤きく影響を与えるためです。

近年、取り巻く環境変化が⼤きく、スピードも速くなっており、すべてを⾃社単独で⾏うことはどんどん難しい状況下にあります。このような環境下において、新たなスキームを⽣み出したり、共同で施策を推進したりすることが求められますが、そのための同業他社や異業種との交流も役割であり、次世代のCLOや経営者を養成することも役割の⼀つです。

「物流の2024年問題」においての役割は、ガイドラインにある施策の推進において、物流部⾨単独での対応が難しく、⽣産や販売などの他部⾨との調整などが必要な場合です。

発荷主事業者において、例えば積み込みの荷待ち時間の短縮を推進する場合、物流部⾨ではより効率的でスピーディーな業務が求められますが、積み込むための貨物がタイムリーに⽣産されていなければ、いくら物流部⾨が頑張っても問題を解消することはできません。このように、問題の原因を整理し、部⾨間の壁を越えて問題解決を図ることがCLOや物流統括管理者に求められています。

着荷主事業者においては、例えば発注から納品までのリードタイムの延⻑を推進する場合、物流業務はタイムスケジュールの変更が必要ですが、実務を⽀える情報システム部⾨での対応も必要ですし、時には営業部⾨に販売先との調整を依頼する場⾯が発⽣するかもしれません。このように施策推進の関係部⾨と検討や調整を推進する役割があります。

物流の効率化は、物流という枠内で考えられるものを推進するだけでなく、その枠を外して考えることが必要です。売り⽅を変えれば物流が効率化する、作り⽅を変えれば物流が効率化するという例は多くあります。そのような場⾯でCLOは、⽣産や販売と物流の最適化を図ることが役割です。

CLOの位置づけ

出所:物流変革を目指す全ての方々へ「人材×変革」 公益社団法人 日本ロジスティクスシステム協会 より作成

重責のCLO

いままで、物流は縁の下の⼒持ちのようなとらえ⽅をされていましたが、現在の取り巻く環境から考えるともっと中⼼に考えるべきものです。そして、ロジスティクスは経営そのものです。調達を含めた⽣産、販売、物流を最適化するものです。CLOは、そのロジスティクスの最⾼責任者ですから、極めて重要なポジションであることがわかります。現在、商慣⾏の⾒直し、物流の効率化、荷主・消費者の⾏動変容についての抜本的・総合的な対策が求められていますが、CLOや物流統括管理者が選任され、その重責を果たすことが求められています。

以上

本記事について

執筆:ロジ・ソリューション株式会社
発⾏:AIG損害保険株式会社 海上保険部

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