2025年2⽉21⽇ 公開
コンテナに収まらない特殊な貨物(プロジェクトカーゴ)の海上輸送では、船舶の選定が重要になります。本稿ではプロジェクトカーゴを輸送することを想定していない、ばら積み専⽤船を利⽤することによるリスクの解説とともに、効率的で安全な輸送を実現するために気をつけたいポイントを解説します。
2025年2⽉21⽇ 公開
コンテナに収まらない特殊な貨物(プロジェクトカーゴ)の海上輸送では、船舶の選定が重要になります。本稿ではプロジェクトカーゴを輸送することを想定していない、ばら積み専⽤船を利⽤することによるリスクの解説とともに、効率的で安全な輸送を実現するために気をつけたいポイントを解説します。
プロジェクトカーゴとは、⽯油、⽯炭、ガス、太陽光、⽔素、⾵⼒、原⼦⼒などを燃料とするエネルギー・プラントなどの、インフラストラクチャープロジェクト向けなど重量や⻑さがある⼤型の特殊な貨物を指します。
プロジェクトカーゴの国際輸送において、適切な輸送船舶を選択することは必須の検討事項です。船舶の種類の選択は、効率的で安全な輸送に⼤きな影響を及ぼします。
輸送コストの競争⼒の観点から、⼀般的には⻑尺物や重量物輸送を想定しないばら積み専⽤船が、時折プロジェクトカーゴの輸送に利⽤されることがあります。とくに、中国からの輸出案件で利⽤されることが散⾒されます。
しかしながら、安全性や効率性の観点からばら積み専⽤船をプロジェクトカーゴの輸送に利⽤することはあまり推奨されません。プロジェクトカーゴの輸送においては、利⽤する船舶の種類の選定に注意が必要で、その中でも、ばら積み専⽤船を起⽤することについてはリスクを⼗分検証したうえで、利⽤の可否の検討を⾏う必要があります。
プロジェクトカーゴ輸送に利⽤する船舶を選定する際、以下のような事項に注意する必要があります。
⽯炭、⼩⻨、原油などに代表される固体や液体の状態のばら積み貨物以外の貨物を輸送する船舶は、⼀般的にCSMと呼ばれる貨物固縛マニュアル(Cargo Securing Manual)を備え付け、乗組員が理解する必要があります。CSMは船籍国の管理当局による記載内容の承認が必要です。CSMにはその名の通り、貨物の固縛⽅法、資材の数量やスペックなどが記載されています。船主や船舶運航者によっては、CSMに記載された⽅法や数量に加えたより厳格な対策を追加することがあります。
プロジェクトカーゴの輸送で利⽤される在来船、多⽬的船、重量物専⽤船などとは異なり、ばら積み専⽤船では固縛設備や貨物の積み付け区画の設計がプロジェクトカーゴの輸送には適さないことが想定されることに注意する必要があります。また、ばら積み専⽤船の乗組員の場合、プロジェクトカーゴの取り扱い経験に乏しく、貨物の取り扱いスキルが不⼗分である可能性も⾼くなります。
プロジェクトカーゴの貨物損害事故は、混載する貨物の上に積み付けをおこなうなど、貨物同⼠で固縛する場合に多く発⽣します。とくに、フレキシブルコンテナバッグ(フレコンバッグ)や鉄鋼製品の上に積み付けた場合に発⽣しやすくなります。
フレコンバッグは重量のある貨物や⻑尺貨物を上に乗せることは想定しておらず、形状の安定しないフレコンバッグの上に重量のあるプロジェクトカーゴを積み付けることは⼤変危険です。フレコンバッグはISO規格に準拠している必要があり、最⼤圧縮荷重の制限もあります。また、多くの場合では3段積みまでと規定されています。
フレコンバッグが段積みされたところにプロジェクトカーゴを乗せた場合、貨物艙内の⾼い位置にラッシングポイントが無く、ラッシングをとれず、適切な固縛状態が確保できない可能性が発⽣します。
固縛はプロジェクトカーゴの輸送においては⾮常に重要です。とくに、荒天が予想される場合は⽣命線といえます。固縛の⽅法としては、本船上のラッシングポイントにラッシングベルトなどの資材の取り付けや、保定のために鋼材などの資材を溶接する場合もあります。資材の選択、数量、配分には⼗分な検討が必要です。例えば、ラッシング‧チェーンを選ぶ際には、⻑さ、⾓度、耐荷重、安全係数などの要素を検討する必要があります。
しかしながら、そのほかのばら積み貨物の上に積載する場合、利⽤できるラッシングポイントに制限が⽣じ、ラッシング資材が⼗分な効果を発揮しなくなる可能性や、技量が不⼗分な乗組員が本船ではなく混載されている貨物に無理やり固縛するケースがあり、こうしたことは避けなければなりません。
加えて、プロジェクトカーゴのような⼤型重量物を輸送する事を想定していないばら積み専⽤船のような船舶の場合は、ラッシングポイントなどの固縛設備が不⼗分であることが想定され、輸送時には資材や設備の追加が必要になる場合があります。
⼀般的には、ラッシング資材の取り付け場所となるラッシングポイントにはDリングが利⽤されます。とくにLP-11型のDリングは広く使われています。LP-11型Dリングの破断荷重は36トン、最⼤保定荷重は18トンです。Dリングは、船舶のフレームなどの構造上、強固な場所に取り付ける必要があります。
ラッシング資材が取り付けづらい場所にラッシングポイントを設置した場合、想定とは異なる形で固縛され、オーバーロード状態になり不具合を引き起こす可能性があります。追加のラッシングポイントを設置する場合、このような問題を避けるためにも適切な場所に設置することが⾮常に重要です。取り付け位置や固縛⽅法については、検定業者や重量物輸送の荷役に精通した業者などの第三者に意⾒を求めることも有効です。
固縛の問題にはタンクトップ(貨物艙の底部)やツイーンデッキの最⼤積載荷重の問題が懸念されます。広がって積まれるばら積み貨物と異なり、プロジェクトカーゴのような重量物は⼀部の場所に荷重が偏る、集中荷重が発⽣することがあります。したがって、集中荷重が発⽣することによる船体設備の損傷を防ぐためにも、適切な荷重分散をおこなえるような積み付けの計画も必要になります。
ばら積み専⽤船は多くの場合、ハッチカバーを含む暴露甲板上に貨物を積み付けることを想定していません。仮にばら積み専⽤船によりプロジェクトカーゴを輸送する場合は、タンクトップやハッチカバーが貨物重量を⼗分に⽀えることができる船体の構造強度があるのかということを確かめる必要があります。 また、ばら積み専⽤船は貨物が満載の場合、乾舷が低く、甲板上と海⾯が近いため、⻘波やしぶきにより海⽔濡れのリスクが⾼まります。
ばら積み専⽤船は貨物艙を覆うハッチカバー周辺に少し広めの暴露甲板が存在しますが、在来船は⽐較的狭い暴露甲板になっていることが多いです。また、在来船の場合、暴露甲板から⽴ち上がったハッチコーミングといわれる垂直構造物が⾼くなっており、⻘波やしぶきによる海⽔濡れのリスクも少し低くなります。ばら積み専⽤船はこうした構造の違いから、荒天時に暴露甲板上やハッチカバー上に海⽔が流⼊する可能性が⾼いです。
こうした理由から、ばら積み専⽤船は甲板上やハッチカバー上に貨物が積み付けられることを想定していないということに留意しなければいけません。
仮にばら積み専⽤船によりプロジェクトカーゴを安全に輸送するためには、甲板上かタンクトップ上のラッシングポイントへ固縛する必要があります。また、貨物同⼠で固定することを避け、必ず貨物は本船と固縛するべきです。
ばら積み専⽤船では固縛設備や貨物の積み付け区画の設計がプロジェクトカーゴの輸送には適さないことが想定されることに注意する必要があります。
本記事について
出典:American International Group, Inc. Marine Risk Consulting Bulletin
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