AIG UKマルチナショナル・ヘッドのヌーノ・アントゥネスは、不確実な時代に運営されているグローバル保険プログラムがどのように機能できるかを考察します。
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不確実な世界をナビゲートする
米中貿易摩擦からブレグジット、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に至るまで、多国籍企業はダイナミックで分断化が進む世界の貿易環境で活動しています。多国籍企業やキャプティブ保険会社を所有する企業の視点からすると、グローバル保険プログラムは、補償の一貫性と確実性を提供するために、発生する変化 – それがたとえ急激であっても - に対応しなければなりません。
世界貿易を支えるルールに基づく秩序は大きな転換点にあります。世界貿易機関(WTO)は、貿易量の増加は2018年の3%から2019年には2.6%に減少すると予想しています。貿易摩擦、経済的・政治的な不確実性の増大、保護主義の台頭、全体的に益々複雑で相互に関連し合う世界は、多国籍企業とその保険会社に対して新たな課題を提示しています。
WTO事務局長のロベルト・アゼベドは2019年4月、「このように不確実性が高い状況では、貿易が成長を牽引する役割を十分に果たすことはできない。」と述べています。「我々は、緊張を解消し、技術革新や雇用創出及び開発促進の必要性といった今日の経済における真の課題に対応し、世界貿易のための前向きな道筋を描くことに焦点を当てることがますます喫緊の課題になっている。」
このような課題に直面し、AIGは、3大陸から政策立案者、ビジネスリーダー、世界貿易の専門家を集め、地域の視点から重要な貿易問題を検討するグローバル・トレード・シリーズ(Global Trade Series)を発足しました。ワシントンDC、ロッテルダム、上海において、AIGとそのパートナーが主催したイベントでは、WTO改革の必要性や、新技術とデジタル化が貿易パターンに与える影響などがテーマのひとつとして議論されました。
また、世界貿易の将来を形成する問題や、マクロ地政学的状況の不安定化の増大など、その環境で行うビジネスの課題についても検討されました。これには、政治的圧力や米国と中国の不安定な貿易関係、ブレグジット後の英国とEUの不明確な貿易政策に対する懸念、地政学的な対立、金融市場の混乱、急速な技術進歩が含まれていました。
AIGで誘拐保険部門の責任者を務めるジョン・グレゴリー氏は6月に上海で講演し、野心的な一帯一路構想の一環としての活動や建設事業が多国籍企業にもたらす潜在的な人的脅威について語りました。一方、5月にロッテルダム港で開催されたイベントでは、AIG海上保険部門グローバル・ヘッドのクリストフ・デ・ブレム氏とAIG貿易金融部門グローバル・ヘッドのマリリン・ブレットナーホイルが、技術とデジタル化がそれぞれの保険市場の取引にいかに新たな効率性をもたらすかについて語りました。見識と情報は、政策立案者、パートナー、そして多国籍顧客企業との間で広く共有されました。
"「不確定要素がこれほど高い水準にあると、貿易は成長の推進に十分な役割を果たすことはできない。」"
WTO事務局長 ロベルト・アゼベド
多国籍企業への影響
より複雑で相互に繋がったグローバル・リスクの状況が、企業に新たなリスクをもたらしていることは明らかです。アウトソーシングやインフラ開発(中国の一帯一路構想の一環としてプロジェクトが計画されているか、すでに進行中の地域を含む)への参加へシフトすることで、企業が発展途上の市場に参入すると認識し、軽減すべき新しいリスクと増大するリスクの両方が必然的に存在します。
例えば、環境リスクは、多くの地域で事業を行っている多国籍企業にとって重要な懸念事項です。2019年のWEFグローバル・リスク・レポートで注目された懸念するリスクのなかで最大なものは、過去最悪の自然災害の年となった後だったこともあり、異常気象でした。エーオンベンフィールド(再保険ブローカー)によると、2018年の自然災害による経済的損失は2250億ドルに達し、そのうち900億ドルが保険でカバーされたといいます。
インドネシアでの地震、日本、インド、ナイジェリアでの洪水から、ハリケーン・マイケルと台風チェービー(平成30年台風第21号)などの米国とアジアでの大暴風、ハワイとグアテマラでの火山噴火まで、かなりの経済的被害がありました。一方、ギリシャとカリフォルニアの山火事は、人為的な気候変動による異常気象とそれに関連する危険への増大する影響について疑問を投げかけました。
これと並行して増大しつつある事業リスクの無形化により、サイバーリスク保険などの商品の必要性が高まっています。WannaCryやNotPetyaなどの大規模なランサムウェア攻撃が示すように、リスクとしてサイバーは国境を越えます。サイバーリスク保険市場はまだ発展途上の段階ですが、グローバル・サイバーリスク保険に対する需要の高まりに対して、伝統的な保険できっちりと補償されるのかを確かめる協調的な動きがあります。
法律や規制の観点から見ると、最近の貿易環境の変化のいくつかは、警告もなく急に起きています。過去12ヶ月の間に次のようなことがありました。
- 強制保有率と国内マーケット活用の規制変更。その場合、海外保険マーケットにアプローチする前に国内マーケットで保有できる最大の水準まで達しなければならない(例えば、韓国、イラク、インド、マレーシア)。
- 保険税および金融取引税の動向
- 最低保険料率の変更(ウガンダとエジプト)
- サイバー関連法制定 例:GDPR(EU一般データ保護規則)、カリフォルニア州消費者プライバシー法、ニューヨーク州金融サービス局のサイバーセキュリティ規制など。
- 顧客本人確認およびマネー・ロンダリング防止対策の要件厳格化(メキシコ、カタール、チュニジア)
- 異なる国/地域におけるリスクの補償調達を制限する新しい保険および再保険法
保護主義は、これらの新しい動きのいくつかの例において明白です。例えば、2018年8月からは、石炭・パーム原油の輸出業者とコメの輸入業者は、貿易条件にかかわらず、インドネシア国内の保険市場から貨物保険に加入しなければならなくなりました。インドネシアの保険会社が発行した保険付保証明書がなければ、輸出業者は当局から必要な許可を得ることができず、その結果、船の航行は許可されません。
保険はまた、保険以外の動向によって影響を受けます。例えば、最近英国で注目を集めた判決では、ザンビアに子会社を持つ英国の親会社に対するザンビアで生じた損失の訴訟が可能になりました。これは、持株会社が英国の裁判所で外国人原告から直接の賠償請求訴訟に直面する可能性があることを示す明確な兆候であり、リスクが発生した場所での責任に反する動きです。
新たに米国で税源浸食濫用防止税(BEAT)の導入が進められ、極めて短期間のうちに法制化されました。最近の米国における税制改革の一環であるBEAT税制と、経済協力開発機構(OECD)の政府間組織によって開発された税源浸食と利益移転(BEPS)プロジェクトでは、関連当事者の取引がより広範囲に焦点が当てられており、多国籍企業とそのキャプティブ保険会社に影響が及びつつあることをを示しています。例えば、欧州リスクマネジメント協会連合会(the Federation of European Risk Management Associations(FERMA))を通じた企業側での作業ならびに保険業界のワーキンググループ内双方で作業が行われています。FERMAは、「多国籍企業に対してキャプティブ保険会社に関する何らかの法的な確実性を担保するのに十分明確で堅固な」最終指針を作成するようOECDに求めました。
最後に、EUの課税透明性を導入する新イニシアティブDAC 6は、 「一定の要件を満たすクロスボーダー・アレンジメント」 の報告義務を導入します。 保険と再保険の仕組み(キャプティブ・アレンジメントを含む)が、この新しい法律によってどのような影響を受けるかはまだわかりません。
一貫性と確実性の必要性
世界貿易が直面している多くの地政学的な課題にもかかわらず、企業は、成長とコスト効率を求めて、ペースは落ち着いてきてはいるものの、引き続き地域を越えて拡大しようとしていますので、グローバル化は継続しています。多国籍企業の数は2011年以来70%増加1しています。また、AIGが中国から組成したマルチナショナル保険プログラムの数は2018年に30%増加し、ブラジルで11%、インドで8%増加しました。
グローバル・リスクの変化のペースと高強度化する性質は、保険とリスク・マネジメントの役割を高めました。現在の世界情勢に照らして、真のグローバル・リスク・パートナーの価値は明白です。多国籍企業は、数の増加と大規模化するリスクに対処できる国際的な保険プログラムによるカバーの必要性をますます認識しています。世界貿易がより保護主義的な体制を受け入れるようになると、企業が規制要件に抵触した結果生じる罰金や評判への影響を避けようとするので、コンプライアンスに関する影響が常に増大します。
保険会社やブローカーにとっては、シンクタンクやコンサルタントとのパートナーシップを通じて、社内外の情報や知識ツールにアクセスできるだけでなく、広範かつ緊密でグローバルなネットワークを持つことが重要です。加えて、損害事故対応を迅速かつ効果的に解決するためには、現地でのプレゼンスがますます重要です。
世界貿易がより保護主義的な体制を受け入れるようになると、コンプライアンスに関する影響が常に増大します......。
保険会社、ブローカー、被保険者の三者の関係を端緒として、その国/地域では現地保険事業認可を受けた保険会社から発行される保険証券が要求されるかどうかを知り、どんな税務ルールが存在するかを理解することは極めて重要です。場合によっては、現地での保険調達が要求される国では、手配した現地認可保険証券を補完するために「マスター」証券をドロップダウンするように、グローバル・プログラムを仕立てることができます。
コストの最適化とバランスシートの保護という明白な利点に加えて、マルチナショナル保険プログラムは、貿易環境がより不確実になるにつれて、企業が積極的に対応するのを助けることができます。保険会社やブローカーは、取引や法令に変更があった場合にプログラムのアーキテクチャを最適化することができ、補償にギャップがないこと、損害が発生した場合に個々の保険証券が期待通りに対応することを確認できます。
著者:
AIG UKマルチナショナル・ヘッド ヌーノ・アントゥネス
1. AIG調べ
※この記事はCaptive Reviewの「Global Programs supplement」に掲載されました。
上記の「ナレッジ&インサイト」文書は、グローバル保険会社であるAIGの知識や知見を広くご紹介するために、海外のAIGが公開している文書を翻訳したものです。
文書内で触れている商品やサービスのなかには、AIG損保では提供していないことがあります。「ナレッジ&インサイト」の原文は、下記リンクから参照できます。
なお、以下のリンクをクリックするとAIG損害保険株式会社のページからAIG, Inc.(AIG米国本社)のサイトに移動します。
https://www.aig.com/knowledge-and-insights
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