世界のリスク事例

2024年6⽉14⽇ 公開

なぜ、アメリカでは企業に対する訴訟が頻発するのか?

アメリカにおいて、訴訟はビジネスの一部である

今後もアメリカは日本企業にとって魅力的なマーケットであり、様々な事業を積極的に展開する場であり続けていくでしょう。

私たちAIG損保Claims(損害サービス)部門は、「アメリカでビジネスを展開する以上は、訴えられることもビジネスの一部である。」と予め想定しておいた方が良いと感じています。なぜなら私たちは、企業が訴えられる場面に日々遭遇しているからです。

なぜ、我々が被告に?

アメリカで訴訟が頻発する理由として、まず、アメリカにおける原告の訴訟費用の安さがあげられます。これにより訴訟提起へのハードルが下がります。日本では訴訟提起に際して原告が裁判所に納める手数料(印紙代)は訴額に応じて増額されますが、アメリカでは多くの場合一律です。さらに、アメリカでは原告弁護士は成功報酬のみで受任することが多く、その場合は日本のような着手金も必要ありません。

次に、アメリカの陪審員制度です。アメリカでは、「資金力がある企業により一般消費者が救済されるべき」という風潮が強いようで、地域住民で構成される陪審団が出す評決は、その風潮が反映されやすいという特徴があります。その結果、職業裁判官が判断を下す日本と比較して、原告である個人(一般消費者)に有利な評決になることが多い傾向があると言われています。

また、評決額が高騰していることが挙げられます。評決額に比例して原告弁護士の成功報酬が高額化することや、ビジネスとして原告および原告弁護士を支える訴訟ファンドの存在も、訴訟が頻発する理由のひとつと考えられます。

さらに、多くの州では、日本では聞き慣れない「懲罰的損害賠償」という制度があります。これは、不法行為の抑止を目的とする制度ですが、不法行為を行った個人や企業に対して、裁判所または陪審団の裁量により、原告が実際に被った損害を補填するための損害賠償に上乗せして命じられる損害賠償です。

アメリカ社会では、訴えることも訴えられることも恥ではなく、訴訟とはより良い社会にするための手段の一つであり、「日々の訴訟から生まれる判例が社会での不法行為を減らす一助になりうる」という考えが根底にあるのではないか、と私たちAIG損保Claims(損害サービス)部門は感じています。

事例から見る!企業訴訟に発展する引き金とは?

以下は、私たちAIG損保 Claims(損害サービス)部門が実際に担当させていただいたお客さまの事例や、同部門が情報収集した日本企業に対する訴訟事例です。

  • 顧客情報または企業の特定につながる記述を割愛してご紹介いたします。

複数企業が被告として訴えられた集団訴訟

食品に関する 日本の安心・安全と海外の安心・安全は違う!

【背景】
日本の商社が、日本国内メーカーの食品を海外の販売店へ卸すビジネスに従事。

日本では栄養価が高くて健康に良いとされている食品でしたが、食文化が異なる海外の消費者にとっては著しい健康被害を引き起こすリスクがあるとして、海外の消費者500人以上が原告団となり、日本の商社のほか、その卸先であった現地販売店と日本のメーカーの合計3社を被告として提訴しました。

被告が責任を免れることは困難であり、被告3社間での責任分担についての協議も難航、訴訟期間は4年と長期化。最終的に原告団への和解金は3社合計で約30億円となりました。

  • 食品衛生法をはじめ、日本国内基準においては全く問題のない健康食品であった。
  • 陪審裁判なので、最後まで争うと巨額評決が下されるリスクがあった。
  • 原告団との和解交渉は、被告側3社の足並みの揃った対応が必要だった。
  • 被告側は三者三様の立場であり、各々が契約する保険会社を交えた協議が長期化した。
  • 複雑に入り組んだ訴訟の解決と巨額の和解金の支払に対して、経営判断が求められた。

従業員が海外出張先で自動車事故に遭遇

カーチェイスに巻き込まれたのに被告となる!

【背景】
アメリカで開催される展示会のため、日本企業の従業員が海外に出張。従業員がレンタカーで会場へ向かう道中の交差点で、信号無視の車が横から衝突してきました。従業員が車から降りると、さらに横から2台目の車が猛スピードで通過。衝突してきた1台目の車の運転手はその場から逃走し、1台目の車に残されていた同乗者は事故の後遺症で重度の障害を負ってしまいました。

日本企業の従業員は、自身は信号無視をした車に衝突された被害者であるという認識でいましたが、後遺症を患ってしまった1台目の車の同乗者は、1台目の車の運転手のほか、当該従業員と日本企業との合計3者を提訴しました。裁判において争点となったのは、1台目の車の運転手の責任の有無ではなく、日本企業の従業員が運転する車が僅かに制限速度を超過していたことでした。事故現場の州法においては、複数の被告に責めに帰すべき事由があると認められた場合、経済損害(Economic Loss)については、各被告は、他の被告の責任部分も含めて100%損害賠償する連帯責任(不真正連帯債務)を負う、とされており、これが原告の狙いでした。

事故後の調べにより、衝突してきた1台目の車と猛スピードで通過した2台目の車がカーチェイスをしていたことが判明しましたが、後遺症を患った1台目の同乗者は、事故当日の記憶がないと主張しました。その他、多くの疑問が残りましたが、僅かな速度超過とはいえ、日本企業とその従業員は完全に責任を回避することは困難であると判断し、連帯責任の存在ゆえに原告が低額で和解に応じることは期待できず、高額の和解金を受け入れて早期に解決することになりました。

  • 日本企業側は、信号無視の車による衝突事故の被害者という認識であったが、カーチェイスをしていた車の同乗者が提訴。
  • 法定速度を遵守していれば信号無視の車を回避できた可能性を完全には否定できず、その結果1%でも責任があると判断されると、他の被告が支払うべき賠償金(経済損害部分)も含めて100%支払わなければならないという現地法の存在。
  • 陪審員の話し合いで決まる評決額は、地域住民の感情を反映して巨額になることも。
  • 訴訟の進行に合わせた評価分析を随時行い、僅かな法定速度の超過という軽過失であっても、訴訟を長引かせることなく、和解金による早期の解決が最適なリスクコントロールとなると判断。

掲載情報はすべて掲載時のものです。

もし、アメリカから訴状が届いたら…。シビアな現実と解決へ向けた対応とは?

無断での使⽤・複製は禁じます。

お客さまのグローバルビジネスに、世界基準の知見とノウハウを

経験豊富な担当者が、グローバルリスクマネジメントに関するアドバイスから

グローバル保険プログラムの構築まで、お客さまのニーズにあわせたソリューションをご提供します。

まずはご連絡ください。