国土交通省によると、建設業界は全産業の平均よりも高齢化が進んでいるだけでなく、建設就業者の数も2002年の618万人から減少し続け、2010年には504万人まで減少しました。近年は大きく減少はしていないものの、2019年で499万人となっています。しかし、高齢化が進めば、引退によって就業者の数は減りますし、若年層の就業が活発にならなければ、やがて深刻な人手不足となるでしょう。

このような背景の中、対策のひとつとして、外国人労働者の雇用が求められています。そこで今回は、建設業界が外国人を雇用するために必要な在留資格のほか、外国人を雇用する注意点とメリット・デメリットについてご紹介します。

 

出典:「国土交通白書 2020」(国土交通省)

建設業の外国人雇用状況

建設業界は、慢性的な人手不足に加え、東京オリンピック・パラリンピック開催準備の特需で、さらに逼迫する状況がありました。そこで政府は、2018年12月に「特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針について」の閣議決定を行い、人材確保が困難な建設業界は、外国人による人材確保を認める特定産業分野とする対策を立てたのです。

この対策が功を奏し、建設業に従事する外国人が増加。2020年10月時点で、前年比20.5%増の11万898人となりました。これは、日本で働く外国人の6.4%です。なお、外国人を斡旋する外国人雇用事業所のうち、建設業に斡旋する事業所は全体の11.7%を占めています。

 

出典:「「外国人雇用状況」の届出状況まとめ」(厚生労働省)

建設業で外国人を雇用するために必要なことは?

相手が日本人であれば、基本的に就労資格は必要ありません。ですが、外国人を雇用するためには、下記のように知っておかなければいけない就労資格の有無や、国に対する届け出なども必要です。

外国人を雇用する場合は在留カードを確認する

いくら日本に住んでいる外国人でも、就労する場合には、業種に応じた資格が必要になります。そこで、在留カードを確認し、建設業界で就労可能な資格を持っているかを確認しましょう。就労可能な資格については後述します。

また、併せて有効期限の確認も必要です。中には偽造された在留カードである可能性もありますので、要注意です。在留カードの内容を確認する際は、コピーの提出ではなく現物を確認し、コピーは会社が行うようにしましょう。コピーの提出ではホログラムなども確認できず、偽造したコピーを使われても気づきにくい場合があります。

なお、偽造カードの見極め方としては、出入国在留管理庁のリーフレットが参考になります。もし確認を怠ったり、不法就労を黙認したりした場合は、不法就労助長罪により最大で懲役3年、300万円の罰金が科せられる可能性があります。

外国人雇用状況の届出を提出する

在留カードに問題がなく、実際に就労することが決まれば「外国人雇用状況の届出」を厚生労働大臣に提出します。提出しない場合は、1名につき30万円の罰金を科される可能性があります。なお、離職させる場合も同様に、届出を提出します。

また、下請企業から元請会社に、「外国人建設就労者建設現場入場届出書」の提出が必要な場合があります。ただし、これはすべての外国人労働者に必要な書類ではなく、在留資格が永住者や技能実習である場合は必要ありません。

建設業の就労に必要となる在留資格の種類

日本の建設業界で働くためには、どのような在留資格が必要なのでしょうか。続いては、建設業に就労するために必要な在留資格について見ていきましょう。

なお、紹介している在留資格以外に「外国人建設就労者」がありましたが、こちらは2021年3月31日をもって終了しています。

特定技能(特定技能1号、特定技能2号)

2019年4月に、人材不足の対応策として新設された在留資格が「特定技能」です。特定技能は申請式となっており、「日本語試験」と「建設分野特定技能1号評価試験」の両方に合格することで取得できます。また、日本の建設業で3年以上の実務経験があれば取得できます。ですから、建築業で雇用した場合、即戦力として役立つ可能性が高いです。なお、特定技能は「特定技能1号」と「特定技能2号」に分かれており、技能水準や日本語の水準によって決まります。1号は通算で5年間の滞在ができ、特定技能2号は滞在期間が無制限となっています。

注意点としては、特定技能の在留資格を持つ外国人を雇用する場合、「フルタイム」のみ雇用でき、短時間労働は認められていません。

技能

日本以外の建築様式に関する技能や知識を持つ外国人に与えられているのが、「技能」の在留資格です。技能の資格は、国内でゴシックやバロックなどの建築様式を利用した建築や修繕を目的とした資格ですので、単純労働などの目的で雇用することはできません。なお、技能の在留資格を取得するためには、5~10年の実務経験が必要となります。

技能実習生

発展途上国の外国人を対象とした技能実習生の在留資格があれば、建設業で就労することが可能です。この資格は国際支援を目的としており、日本の技術などを教えることで、発展途上国の人材育成に協力するためのものです。ですから、技能実習生を雇用する場合は、人手不足解消などが目的ではいけません。

資格外活動

原則として、留学生や留学生の配偶者など、就労目的以外で来日している外国人には、週28時間以内であれば地方出入国在留管理官署に申請することで、在留資格とは別に、「資格外活動」として就労する許可が出ます。ただし、単純労働しか認められていませんので、ご注意ください。

身分または地位にもとづく在留資格

特殊な在留資格として、身分または地位にもとづく在留資格があります。これは、日本での活動制限や在留期限のない在留資格ですので、建設業に限らず就労することが可能です。

身分または地位にもとづく在留資格としては「永住者」および永住者の「配偶者」「子ども」「特別永住者の配偶者」「日本人の配偶者」または「特別養子」「日本人として出生した子ども」があります。

建設業で外国人を採用するメリット

文化や言葉の違いを考えると、日本人と比べて外国人を雇用するのは大変ですが、その分メリットもあります。建設業で外国人を採用することで、具体的にどのようなメリットが得られるのか見ていきましょう。

若い労働力を確保できる

外国人労働者を採用するメリットとしては、「若い労働力の確保」が挙げられます。若者離れが進む建設業では、若年層の就業者が少ない状態です。しかし、建設業の現場では、若くて力のある労働力が必要です。外国人労働者は若い男性が多いので、適している人材といえるでしょう。

社内の活性化につながる

若い労働者が増えると、社内に活気が戻ってきます。また、日本人の場合、ほかの産業よりも低賃金なので労働意欲は低めですが、外国人労働者にとって日本の賃金は母国よりも高いケースが多いため、労働に対して意欲的です。これらのことから、社内の活性化につながるといえます。

社内教育が確立される

外国人を雇用する場合、日本語が得意ではない人を相手に社内教育を行う必要が出てきます。これは、一見デメリットでもあるのですが、外国人に教育をするためには「仕事は見て覚えるもの」という古い慣習だけでは成り立ちません。ですから、きちんと相手に伝わるようなマニュアルを作成する必要があります。その結果、社内でしっかりとした教育体制が確立されるのです。

なお、外国人労働者向けに安全衛生のポイントをまとめた、厚生労働省の「建設業に従事する外国人労働者向け教材」がテキストと動画で公開されていますので、参考にするのもいいでしょう。

建設業で外国人を採用するデメリット

建設業で外国人を採用するメリットはたくさんありますが、いくつかデメリットも存在します。

言葉の壁がコミュニケーションの障害になる

コミュニケーションは、いっしょに仕事をする上で大切な要素です。コミュニケーション手段としては会話がメインとなることが多いですが、時には日本人同士でもうまくいかないことがあります。特に建設業では、「見て学べ」という考え方で指導されたり、ミスをしたときに怒号を浴びせられたりすることもあります。

そんな中、日本語が得意ではない外国人が入れば、日本人よりも円滑にコミュニケーションを成立させるのは難しいでしょう。場合によっては、スマートフォンなどのデジタル機器を使ったコミュニケーション方式を導入するのもひとつの手です。

文化や価値観を理解しなければいけない

言葉だけでなく、外国人とのコミュニケーションを円滑に進めるには、文化や価値がそもそも違うのだということを理解しなければいけません。

例えば、仕事で集合時間に遅刻したら、日本であれば問題です。しかし、文化的な違いで悪いと感じない外国人もいます。これらを理解した上で接しないと、受け手側が気疲れしてしまいます。そのため、日本におけるビジネスマナーを教えてあげる必要もあるでしょう。

建設業で外国人を採用しよう

外国人を雇用するには、さまざまなことに注意しなければなりませんが、外国人側にとっても注意したい点があります。例えば、不当な差別や、ビザ発行までの違法な金銭徴収などです。

特に、技能実習生に関してはさまざまな問題があったため、2017年11月1日より「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」が施行されています。これにより、技能実習生に対する人権侵害行為に禁止規定や罰則が設けられたり、入国管理局の取り決めがない保証金を無断で徴収している悪質な送り出し機関が排除されたりしています。

 

また、技能実習生がきちんと日本で建設業のノウハウを学ぶためには事前知識も必要と考え、日本で就労する業務と同種の業務に、外国において経験していることを条件とすることで、日本でスムーズに就労できるようになりました。ただし、技能水準に条件はないため、雇用した外国人によってレベルの違いは出てしまう問題が残っています。

建設業では、日本の若年層や女性の入職に対する対策をしていますが、それだけでは成り立たず、外国人労働者の力も必要です。苦労やデメリットもありますが、外国人労働者の雇用も検討してみることをおすすめします。

監修者プロフィール:

山本喜一(やまもときいち)

社会保険労務士法人日本人事

特定社会保険労務士、精神保健福祉士

 

上場支援、労働基準監督署、労働組合、メンタルヘルス不調者、問題社員対応などを得意とする。現在は同一労働同一賃金対応に力を入れている。著書「補訂版 労務管理の原則と例外 働き方改革関連法対応」新日本法規など多数。

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