暮らしと保険

知的および発達障がい児者の挑戦を応援したい 支援団体が選ぶ安心の保険

障がい者支援の現場から

鹿児島県で、30年以上にわたって障がい者支援に尽力している人がいる。「全国知的障害児者生活サポート協会(以下、全国サポート協会)」理事長・水流純大(つる すみひろ)さんだ。

全国サポート協会とは、知的障がい児者や自閉症児者とその家族に対し、生活をする上での安全や安心、福祉の増進などに寄与することを目的に設立された団体だ。水流さんは、1958年に祖父が設立した鹿児島初の障害児施設「あさひが丘学園」の施設長や運営母体の理事長を務め、2024年5月に新たに「全国サポート協会」の理事長に就任した。

「かつては、知的障がい児者や自閉症児者の病気やケガによる入院・賠償事故への補償を行なう互助会事業が全国にありましたが、2006年の保険業法改正の施行を機に互助会が解散しました。そこで、代わりとなる補償制度を整備してくださったのがAIG損保です」(水流さん)

以来、全国サポート協会では、AIG損保の「生活サポート総合補償制度」を協会の会員向けに提供している。

「民間の保険において、知的障がい児者や自閉症児者が加入できるものはほとんどなく、仮に加入できてもいざというときに保険金が給付されないケースがあります。その点、『生活サポート総合補償制度』は既往症や持病があっても加入でき、病気やケガ、賠償責任などに広く備えられるのが大きなメリット。提供が始まってもうすぐ20年になりますが、障がいがあるご本人やご家族にとって欠かせない制度だと日々実感しています」(水流さん)

生活サポート総合補償制度のメリット

「生活サポート総合補償制度」は、知的障がい児者や自閉症児者であれば、年齢を問わず、誰でも加入が可能だ。(一部プランのみ年齢制限あり)

「加入者のご家族からは、よく『病院への付き添い補償があって助かった』とのお声をいただきます。知的障がい児者や自閉症児者が病気やケガで入院する際は、ほとんどの場合付き添いが必要になるのですが、この制度によって付き添いの人件費や交通費などに備えられます。ヘルパーや支援施設の職員はもちろん、家族が付き添った場合も補償される点がとても喜ばれていますね」(水流さん)

また、本人がケガをする、他人にケガをさせてしまうといったケースで役立つことも少なくない。

「支援施設では、サッカーなどのスポーツに全力で打ちこむ青少年も多く、子どもが遊んでいてぶつかったりすることもあるため、ケガへの備えも必要不可欠ですね」(水流さん)

さらに、賠償責任の補償では、モノを破損した場合も対象に含まれる。非常に高額な品を壊してしまい、保険金で支払うことができたケースもあると言う。

「こうした制度がないと、すべてが保護者の負担になってしまう可能性があります。知的障がい児者や自閉症児者を支援する現場では、予測できない事態も多々起こるもの。だからこそ、あらかじめ病気やケガ、損害賠償に備えておける制度の存在が非常に重要なのです」(水流さん)

2024年からは発達障がい児者も対象に

これまで知的障がい児者や自閉症児者を支援してきた全国サポート協会だが、2024年からは発達障がい児者にも支援を行うこととなった。その支援の広がりを受け、「生活サポート総合補償制度」の対象範囲も拡大し、2024年からは発達障がい児者も加入できるようになった。

「もともとの対象である『自閉症』も発達障がいの一種です。ただ、発達障がいは自閉症の他にも『注意欠如多動性障がい(ADHD)』や『学習障がい』などさまざまな種類があります。とくに子どもはこうした症状が混ざって現れる場合も多く、はっきりと診断名がつけられないことも多いのです」(水流さん)

今回の改定により、発達障がい児者に該当していれば、まだ診断が明確になっていない段階でも制度に加入できるようになった。

「近年は発達障がいと診断される人やお子さんが全国で急増していることもあって、今回の改定はうれしいこと。時代のニーズを素早くキャッチし、対応してもらえたことで、今まで以上に必要な人に届きやすい制度になったと感じます」(水流さん)

かつては「この子は障がいがあるから、この程度でいいんです」と話す保護者が多かったと数十年前を振り返る水流さん。しかし、今はスポーツやアートなどの多方面で才能や感性を発揮する人もいることが知られている。

「親御さんを含め、たくさんの人が『彼らにできることはたくさんある』と可能性を信じ、挑戦を応援してくださる社会になりつつあります。支援で大切なのは、まずは本人の希望を聞き、過小評価や過大な要求をしないように気をつけながら一緒にチャレンジしていくこと。私が長年携わっている落穂会の『グループホームあさひが丘』という支援施設では先日、入居中の若者から『一人暮らしをしてみたい』との希望がありました。今はスタッフたちがともに物件を探し、生活の準備をするなどして、一丸となって挑戦しているところです」(水流さん)

障がいのある人々が、もっと活躍の場を広げて新しいことに挑戦していける、保護者や周りの人たちがその挑戦を応援できる、そんな社会を目指したいと水流さん。そのためにも、制度の存在が欠かせない。

「今、全国サポート協会の会員数は約16万人になりました。一方、全国で知的障がいがある方の数は約120万人※とされています。障がい者が入れる民間保険は少ないため、いざという時の経済的な負担に悩むご家庭もまだまだ多いかもしれません。だから、まずは一人でも多くの方に、こうした障がい者向けの制度があることを知ってもらいたい。これからも、障がいがある人とご家族が幸せに暮らすための情報を、全国に広く発信していきたいと思います」(水流さん)

  • 参考:厚労省統計 令和3年度福祉行政報告例の概況「療育手帳交付台帳登載数の年次推移」

水流純大(つる・すみひろ)1964年、鹿児島県生まれ。横浜国立大学経済学部卒業後、国立秩父学園附属保護指導職員養成所で福祉を学ぶ。翌年、千葉市の社会福祉法人あしたばの知的障害者更生施設「中野学園」に指導員として勤務。1993年に帰郷して社会福祉法人落穂会に入職し、知的障害児施設「あさひが丘学園」児童指導員として勤務する。1999年に同園施設長、2016年に理事長に就任。2024年5月に全国知的障害児者生活サポート協会理事長に就任。

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