北海道の地震をきっかけに「損害鑑定人」を目指す
AIG損保には、地震や台風といった災害が発生したとき、いちはやく被災地に駆けつけるチームがある。「テクニカルアジャスター」と呼ばれる自動車や建物の損害鑑定を行う者たちだ。「災害対応はスピードとの勝負です」と損害鑑定部の小野寺優子は言い切る。
「なるべく早く現場に駆けつけてお客さまの不安を解消したい。大丈夫だと安心してもらいたい。そして、一刻も早く生活再建のための保険金をお支払いしたい。そんな気持ちでいつも動いています」
宮城県仙台市で生まれ育った小野寺は、2016年に入社。内務事務社員として働いていた2018年に、震度7を記録した北海道胆振東部地震が発生。応援として北海道に向かい、現地で損害鑑定のサポートを行なった。
「3泊4日で、損害鑑定人と一緒に被災されたお客さまのご自宅を訪ねてまわりました。実は私も東日本大震災をはじめ、仙台で何度も被災している身です。ちゃんと保険金が支払われるのか、今後の生活はどうすればいいのか…と不安でたまらないお客さまの気持ちが痛いほどわかりました。『私も仙台の地震を経験しましたが、これだけ揺れると怖いですよね…』と話しかけると、お客さまがとても共感してくださったんです。私も当時を思い出し、必ず役に立とうという使命感が湧いてきました」
「わざわざ北海道まで、本当にありがとう」というお客さまの言葉が、いつまでも胸に残った。被災した自分だからこそ、寄り添えることがあるかもしれない。そう思った小野寺は一念発起し、損害鑑定人を目指した。難関で知られる狭き門だ。受かるまでは公にしないと心に決め、もくもくと分厚いテキストをめくり学び続けた。
そして2019年、合格通知を受け取った小野寺は、ついに損害鑑定人としての一歩を踏みだした。
揺れる仙台 建物の損害への不安を一つずつ解消する
東日本大震災以降、東北は度重なる地震に見舞われてきた。ここ数年も、大きな揺れがたてつづけに仙台を襲っている。
「震災が多いので備えているご家庭は多いはずですが、それでもこれだけひんぱんに地震があると、建物にも人の心にもダメージが蓄積していくのを感じます」
心配と不安で心が折れそうになっている時だからこそ、寄り添って、丁寧に話を聞こう。小野寺はそう決めている。
「このままここに住んでいて大丈夫かしら」と言ったのは、2022年3月に仙台で起きた地震の後に訪ねたお客さまだった。建物の内壁に亀裂が入ってしまったという。
「急にヒビが入ると怖いですよね。お客さまも非常に心配されていました。ただ、実際に現地で見ると建物の構造に影響を与えるような損害ではありませんでしたので、DIYでも修理ができることや保険代理店に工務店を紹介してもらう方法もあることを伝えました」
でも、柱も傾いている気がして…。家の中にある壁の棚、取ったほうがいい? そもそもこの家、大丈夫かしら? お客さまの不安は尽きない。
小野寺は一緒に家の中を見て回りながら、「柱の傾き、今から測定してみますね」「この棚なら取らなくて大丈夫ですよ」「ご心配であれば、仙台市は今、無料で建物検査を実施していますから、依頼されてみてはいかがですか?」。
提案を交えながら、一つ一つ悩みに答えた。お客さまの表情が少しずつ晴れていくのがわかった。帰り際、「来てもらえてよかったわ」という温かい言葉とともに見送られ、小野寺自身も力をもらえたような気がした。
ニーズに応えつつスキルを磨く 小野寺が目指す損害鑑定人の姿
ここ数年、「女性の損害鑑定人が求められるケースも増えてきた」と小野寺は言う。
自宅の中をくまなく見せることに抵抗のある一人暮らしの女性などから要望があるという。こうしたニーズの高まりを受け、AIG損保では2016年から、要望に応じて女性の担当者を派遣する取り組みを始めている。
数少ない女性の損害鑑定人として、被災地域を飛び回る小野寺。将来の夢をたずねると、少し考えて、「いろいろな建物や大型物件なども鑑定ができるようになりたい」。
「現時点で私が持っている資格は『損害保険登録鑑定人資格3級』。一般住宅の鑑定をしていますが、学びを深めていけば大きなマンションなどの鑑定もできるようになります。ゆくゆくはより高度な技術や知識がないと取得できない上位資格にもチャレンジできたら」
さらに、プライベートでは大の車好き。実は自動車の損害鑑定にも興味があると打ち明けてくれた。内務事務をしていた頃、自動車事故で損傷した車両の損害を鑑定するテクニカルアジャスターたちが、車の衝突痕について「どう衝突したか」をミニカーで説明する風景を見ていたという。
「その様子はまるでドラマに出てくる研究所のようでした。鑑定とは、科学的に証拠を揃えて事実を明らかにする仕事。建物も自動車もそれは同じで、そこが面白いと思っています。今の私は建物に特化していますが、いつか自動車にも鑑定の分野を広げて、さらなるスキルアップを目指せたらと思います」