2022/03/22
AI(機械学習)は今、私たちの日常生活に浸透し無意識に使われています。たとえばネットショップで買い物をしたことがある人なら、自分が欲しいと思っているものを「オススメ」されたことがあることでしょう。過去、「どういう商品を、どのような組み合わせで購入したか」などあらゆるお客さまのビッグデータから自動的にオススメ商品を導き出す機能は、わかりやすいAIの活用事例です。この「オススメ」機能、近い将来は消費者が「欲しい!」と思っている商品を超えて、「消費者本人すら気づいていない潜在的なニーズを浮き彫りにする」ことまで可能にすると言われています。
AIG損保には、そんなAIを活用した営業支援ツール「AI_Grip(エイアイグリップ)」があります。わかっているようで人には説明できない「AI」について、また「AI_Grip」は本当に営業ツールとして役立つのか……開発に携わったAIG損保のSMEデジタルトランスフォーメーション部のシニアマネージャー河本典晃とマネージャー包龍、コマーシャル自動車保険部マネージャー神谷恭平に話を聞きました。
「自動車保険は他社との差別化が難しい商品です。コミュニケーション力や直感力など極めて高い営業スキルを持ったAIGのプロデューサー(代理店)でさえ、提案が難しい商品。“本当に必要な自動車保険を求めている”お客さまをAIで抽出できたら、自動車保険も能動的にご提案できるのではないかーーそう考え、AI Gripの開発を依頼しました」と神谷は「AI_Grip」の開発背景を説明します。
AIG損保 コマーシャル自動車保険部マネージャー 神谷 恭平
AI_Gripは、代理店の方々の「経験」にAIによるデータ分析をプラスすることで、お客さまにより適した提案ができる営業支援ツールです。
「顧客企業の過去の保険金請求実績や直近の保険加入状況などはもちろん、代理店の方々の頭の中にデータとして蓄積されていることでしょう。コミュニケーションを通じてお客さまの話の言外から勘が働き、契約につながるということもあると思います。これに、AIGが持つ売上高や従業員数や拠点数の増減、代表者の年齢、業種の変化、など全175項目のデータを組み合わせた分析が加わるとどうなるか。差別化が難しい商品とはいえ、適切な補償内容の自動車保険をお客さまが必要だと思うタイミングに合わせて提案することは、お客さまにとって付加価値の高いリスクマネジメントにつながると思います。」(河本)。
AIG損保 SMEデジタルトランスフォーメーション部シニアマネージャー 河本 典晃
AI=人工知能だけではない
「AIと聞いて多くの方がイメージするのは、ソフトバンクロボティクスの人型ロボット「Pepper(ペッパー)」のように、人間の表情や声などから感情を数値化、人間の知能をコンピューター上で再現しようとするAI(人工知能)ではないでしょうか。ただ、AIには色々な種類があります。AI_Gripで使われている技術は、さまざまなデータから最適なパターンを見出す「機械学習」という手法で、膨大で多次元な情報から最適な答えを導きだします。人間は必ずしも物事を“最適化する”とは限らないので、物事を俯瞰して考えたいときの信頼できる参考情報として活用してもらいたいですね」と、包は説明します。
「AIが導き出す答えと代理店の方々の直感は今のところある程度は一致しているものの、やはり気づかない部分はあります。そこに新たな気付きを加えられるところがAI_Gripの価値だと思います。」(包)とのこと。AI_Gripの活用を勧めるのは、「感覚的な提案に加えてデータベースの提案ができることで、お客さまがより納得できるご契約に結びつくから」(神谷)です。
AIG損保 SMEデジタルトランスフォーメーション部マネージャー 包 龍
顧客ニーズを絶妙なタイミングでとらえるメリット
昔ながらの「足で稼ぐ」営業では、非効率な動きになりがちです。費用対効果を問われる昨今、営業の提案もコスト意識を持ち、優先順位をつけて提案先を探す必要があります。業務負担が大きい代理店の方々の業務効率化に加えて、お客さまにとっても、“今、必要としていない提案”を聞かなくていいというメリットもあります。「顧客ニーズを絶妙なタイミングでとらえることは、代理店にもお客さまにとっても重要」だと神谷は強調します。
それでも、「どこまでAI_Gripの情報が役立つのか…」疑問に思う方もいるかもしれません。
そこで、過去3年間のデータを使いAI_Gripで予測した結果に対し、自動車保険のクロスセルの成約比率に違いがあったのか検証結果を見てみましょう。
表を見ればわかる通り、AIが導き出した「クロスセルで自動車保険契約のスコアが高い」上位1%の企業は、通常の約6倍の比率となっています。例えば任意に100社抽出した企業の中で、1年後、契約する企業は1社と仮定します。一方でAIで抽出した上位1%の企業では6倍の6社が契約するのです。お客さまのニーズに寄り添った提案時期と内容がこの結果の違いにつながっていると考えられますが、何よりもお客さまがご自身のニーズにぴったりと合った提案をされることを喜んでくださるのではないのでしょうか。
AI_Gripの強みは内製化にあり
他社でもAI技術の活用が進んでいます。各社がしのぎを削る中、AIG損保では、2019年から損害サービスの不正請求検知にAIを活用しており、不正請求全体の4割をAIが検知するところまで、業務効率化の成果を上げています。
「AIGのAIツールの強みは内製化にあります」と河本は話します。不正請求検知の開発から、社外のシステム会社の手を入れず、社内の保険のプロたちの手で開発することで知見を積み重ねてきました。会社ごとに商品内容、保有するデータや、その構造などは異なります。その点、社内の人間なら、感覚的に理解できる。商品部や営業部などとのやりとりも、社内だからこそスピード感をもって動けると共に、データの精度にも違いがあります。「社内に蓄積された知見は武器になる。保険や社内の事情をよく理解している者が開発するからこそ、営業支援ツールとして最適なソリューションにする自信があります」(包)。
実際、個人事業主だったお客さまが法人化したにも関わらず、自動車保険の等級継承の手続きについての認識がなかったため、このAI_Grip の情報をもとにご提案したところ、見事契約、的確な提案にお客さまからも感謝されたといった事例などが出てきています。
「現場のフィードバック」が何より重要な理由
まずは自動車保険からスタートしたAI_Grip。今後は、賠償保険や、その他商品ラインにまでAIの活用を拡げることも視野に入っているといいます。どこよりも良いツールに、一歩抜きん出るために必要なのが「AI_Gripをどんどん使ってもらい、現場からフィードバックをもらうこと」(包)。
従来のシステムは、「問題の要因を分解し階層ごとに整理することで、根本となる原因を理解し解決策を模索する」という問題解決ロジックを実装しています。従来であれば、ここで完成となるところです。しかし、AI_Gripは、機械学習という言葉通り、学習能力を持っているシステムで、PDCAサイクルを回して、どんどん学習させることでより良いものとなり続けます。「現場のフィードバック」を栄養として数多く与えれば与えるほど、より確度が高い良いツールとなるのです。
“チームAIG”としてAI_Gripを使えば使うほど、この武器は磨かれていきます。代理店の方々の手を借りて、AI_Grip がどのように育っていくのか……楽しみです。