リアルストーリーズ

大地震をきっかけに社員の守り方が変わった。

保険の印象を変えた 経営者を驚かせた3つの事

「先の胆振(いぶり)地震は大変な揺れでしたね。ご自宅は大丈夫でしたか?」。そう訊ねられたとき、管 陽一さんは言葉を濁した。「実はちょっと気になることが…。とはいえ、保険を申請するほどではありません」――。

管さんは、北海道・札幌市で4名の社員が在籍する貿易会社「北陽貿易株式会社」の取締役を務めている。2009年に父・国平さんが興し、地野菜である長芋の輸出からスタートした。現在は牛乳やメロンなど北海道の農作物を広くアジアなどに輸出し、一方で地元の農家が必要とする牧草フィルムや肥料などの輸入も行っている。

北海道胆振東部地震が起きたのは、2018年9月6日の午前3時頃だった。「飛び起きましたが、外は真っ暗。停電していて何が起きたのか全くわかりませんでした。ようやく事態が飲み込めたのは、朝日が昇ってからです」と管さんは当時を振り返る。

震源に近かった厚真町では震度7、札幌市内でも震度5、6の揺れを記録。港は閉鎖され、その倉庫で輸出を待っていた農作物が停電した冷蔵庫の中で腐り始めた。3日後に電力は復旧したが、牛乳と一部の野菜は廃棄せざるをえず、ガソリン不足や交通網の麻痺も続いていた。

港がかつての活気を取り戻したのは、地震発生から2週間後。管さんの会社もようやく業務を再開し、かつての平穏な日々が戻ってきたかのように思えた。

「絶対に見てもらったほうがいい」 保険のイメージを変えた一言

自宅が、歪んでいるような気がする。管さんが意識し始めたのは、仕事が落ち着いてしばらく経った頃だった。ドアが開きにくくなった。よく見れば、壁に小さなひび割れもある。

「当時、AIG損保の火災保険に入っていたのですが、実は申請するつもりはありませんでした。忙しかったし、正直にいうと面倒だったのです。保険金の申請というと書類を用意したり、証明書をとったりと膨大な事務作業が待っている。その上、払われない可能性さえある。そんなことに時間と労力を費やすなら、がんばって働いて修繕費を稼ぐ方が、効率がいいように思えたのです」

代理店である栗林商会の保険担当者が変わった。ある日、雑談が胆振地震の話題に及んだときのことだった。

「えっ、保険を申請しなかったのですか?」と担当者は聞き返した。管さんが頷くと、「いや、重大な損傷があるかもしれません。絶対に一度見てもらったほうがいい」。担当者にそう強く勧められ、そういうことなら…と管さんは自宅の損害査定を頼んだ。

「依頼してから2週間ほどで調査員が来てくれました。一緒に家の中を見てまわると、『大変な被害ですよ。必ず保険金がおりますのでご安心ください』と言われて、逆にぼくの方が驚いてしまって。プロの目から見ると、地震の影響がそこかしこに出ていたそうなのです。イヤだと思っていた面倒な手続きも特になく、1ヶ月後にはすんなりと保険金が振り込まれていました。とにかく驚きましたね」

社員も自分も安心して働ける環境づくりを

保険会社の側から査定を勧めてくれたこと、請求までの流れがシンプルだったこと、そしてスピーディに保険金がおりたこと。これら3つのことをきっかけに、「保険に対するイメージが大きく変わりました。今までは遠い存在でしたが、ずいぶん身近に感じられるようになりましたね」と管さんは微笑む。

「その後、『社員の業務中の事故について、保険はどうなっていますか』と担当者から聞かれ、そういえばかけてないな…と思い当たりました。というのも、弊社はオフィスでの事務作業を主としていて現場仕事がほぼなく、あまり必要性を感じてこなかったのです。でも、こうした災害が起きるリスクを考えれば、社員の身にも、いつ何がふりかかるかわかりません。そこで、改めて社員たちと話をして、AIG損保の保険に入ることを決めたのです」

加入したのは、業務中だけでなくプライベートでのケガに対しても保険金が支払われるフルカバータイプの「業務災害総合保険(ハイパー任意労災)」だ。病気の告知が不要で、社員全員が加入できる「メディカル特約」※、「がん通院治療費用支援特約」も追加した。今年、社員が業務時間外に手を複雑骨折して完治に半年を要した際に、治療費のサポートを受けられた。

「こうした保険のおかげで、社員も私も安心して働ける環境づくりができたように思います。さらに副次的な効果として、人材採用で大手商社と争う際にも競争力になっている。その点にも価値を感じています」

北海道の幸を世界へ リスクを恐れず挑み続ける

いま、北陽貿易の売り上げは創業当初の約2倍を達成し、年商は15億円を超えた。管さんを含む5名で出した結果だ。これからの未来のことを尋ねると、「もちろん世界中の皆さんに一人でも多く北海道を知ってもらい、おいしいものを味わってもらうこと!」と管さんは胸を張る。

「北海道で育ててもらった会社だから、地元に恩を返したい。貿易会社である以上、広く海外に進出したいという夢もあります。もちろんうまくいくことばかりではありません。国を越えて質のいい生鮮食品を届けるためにはさまざまな工夫が必要で、いつも試行錯誤の連続です。守りに入っていては戦えません。世界を相手どる私たちにリスクはつきもの。そう割り切って、これからも攻め続けるつもりです」

商いについて、そう言い切った管さんの真剣な表情が、ふと、ゆるむ。ぬくもりのある眼差しになって続けたのは、働く仲間のことだった。

「だからこそ、“人”のことは丁寧にケアしたいと思うのです。うちは社員あっての会社。これからも、ともに働いてくれる人たちをしっかりと守りながら、失敗にめげず、初心を忘れず、新たな道を開拓していきます」

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<プロフィール>

管 陽一(かん よういち)
2009年に北陽貿易株式会社立ち上げと同時に入社。営業担当。その後ロサンゼルスで勤務、営業を担当後帰国。2011年から北陽貿易で道内産の輸出商材を探す。特に香港で北海道産牛乳の販売拡大に成功した。現在は常務取締役を務める。

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