大雨をもたらす「線状降水帯」の情報発信が始まりました

1. はじめに

 最近、災害に関する話題などで「線状降水帯」ということばをよく耳にするようになりました。線状降水帯とは、非常に激しい雨が同じ場所で降り続いているときに、その状況をレーダーなどで確認すると、降水帯が細長い線状に連なってみえる状況のことを指します。

 この線状降水帯の上空では、発達した積乱雲が次々と発生し、連なっています。梅雨前線などによって継続的に流入する海からの暖かく湿った空気が、山や気流によって上昇することで積乱雲が発生し、それが発達しながら上空の偏西風などによって風下に運ばれることで一列に並び、地上に継続的な大雨をもたらすというのが、線状降水帯の発生メカニズムだと考えられています(図1)。

図1 線状降水帯発生のメカニズム

2.「顕著な大雨に関する情報」の運用開始

 線状降水帯による大雨被害は2018年の西日本豪雨や2020年7月の豪雨(熊本豪雨)などたびたび発生しており、甚大な被害を発生させてきました。気象庁はこのような状況に対応するため、線状降水帯による大雨の発生を知らせる「顕著な大雨に関する情報」の運用を6月17日より開始しました。すでに、6月29日未明には沖縄本島北部に対して、また7月1日には伊豆諸島北部、7月7日には島根県・鳥取県の一部に対して同情報が発表されています。

西日本豪雨で浸水した住宅

3. どのような情報が提供されるのか?

 それでは、この「顕著な大雨に関する情報」は、どのような情報を発信するのでしょうか。

 所定の条件を満たす、線状降水帯による大雨が確認された場合、地方気象台から、「顕著な大雨に関する情報」として、「○○地方では、線状降水帯による非常に激しい雨が同じ場所で降り続いています。命に危険が及ぶ土砂災害や洪水による災害発生の危険度が急激に高まっています。」といった内容の文字による情報が発表されるのと同時に、図2のような地図による線状降水帯の位置情報が提供されます。

図2 線状降水帯の発表イメージ(赤の楕円部分が線状降水帯)

4. 情報活用にあたっての注意点

 「顕著な大雨に関する情報」は、他の警戒レベル相当の情報を補足するものとして発表されます。実際には、警戒レベル4=避難指示相当以上の状況で出されることになります。また、この情報は「予測」ではなく「現況」であるため、この情報が出された時には既に洪水などの被害が発生し、避難が難しくなっている可能性もあります。台風による大雨の情報が今後備えるべき「予報」という形で出されるのに対し、線状降水帯による大雨情報については、予測がいまだ困難であることから、現に大雨が降り続いている状態から出されるという点に、十分に注意が必要です。

 対象地域に住む人々は、この情報が発表されるのを待たず、並行して発表されている気象情報、避難情報などを参照し、早め早めの適切な防災行動をとることが求められます。今回の線状降水帯発生の情報は、あくまで具体的な大雨の状況を理解し、当該地域の危険度の高さを確認するための補足的情報として活用されるべきものになります。この情報の性質や限界を知り、災害への備えや避難に有効に活用しましょう。

 なお、線状降水帯による大雨の「予報」についても、2022年度以降、順次開始していくことが計画されています。

(出典)

AIG総合研究所 

AIG総合研究所(以下、AIG総研)はAIGジャパンの研究機関として2017年12月に設立されました。AIG総研は、リスク・マネジメントに関する社会的な議論を喚起するthought leaderとして、グループ内外の様々な知見を結びつけ、リスク管理に関する提言・発信を行う情報ハブを目指しています。

執筆:玉野絵利奈